苦節十三年 箱根駅伝日本一への道 大八木弘明(駒澤大学陸上競技部監督)

正月の風物詩として知られ、いまや国民的行事になっている箱根駅伝。大学三大駅伝の一つで、東京・箱根間を往復し、全217.1キロを10人で襷を繋いで走り抜く。第97回を迎えた今大会、奇跡的な大逆転劇を起こし、13年ぶり7度目の優勝を飾ったのが駒澤大学陸上競技部である。26年間にわたって同部を指導している大八木弘明監督に、箱根の激戦を振り返りつつ、選手時代に得た学び、忘れ難き恩師の教え、弱小集団を常勝軍団に育て上げた要諦を語っていただいた。そこから見えてくる強いチームを創るリーダーの哲学とは――。

「もしかしたらもしかすることをおまえがやるかどうかだ。それが男だ!」「おまえの力だったら抜ける。きょうのおまえはホントいいわ!」

大八木弘明
駒澤大学陸上競技部監督

 往路を3位でゴールし、優勝候補の青山学院や東海が後ろのほうにいましたので、その時点ではもしかしたら7区か8区辺りで1位の創価を逆転できるんじゃないかという思いがありました。そこで復路の選手たちには「勝てるかも」ではなく、「勝つぞ」と投げ掛け、「どういう状況下になっても冷静に判断し、後半に勝負を賭けなさい」と指示をして送り出したんです。
 ところが、意外にも創価の選手たちの勢いが凄まじく、最終10区の時点で3分19秒も離されましたから、「ああ、もうこれは2番を覚悟するしかないな」と。ただ、最後の最後まで何が起こるか分からないですし、アンカーの石川は昨年の箱根でも十区を走り、早稲田の選手に最後抜かれて8位に落ちた悔しさがあったので、「区間賞狙いで終始攻めの走りをして思い切り行きなさい」と伝えました。
 5キロ、10キロと徐々に差が詰まって、15キロ辺りで前の選手の姿を捉えたんです。「もしかしたらもしかすることをおまえがやるかどうかだ。それが男だ!」「おまえの力だったら抜ける。きょうのおまえはホントいいわ!」と気合を入れたら本人も乗って、さらにペースが上がっていきました。
 普通は1キロ以上離されると、それを同じ区間内で抜くのは不可能に近いんです。アンカーで3分差以上の逆転劇が起こったのは89年ぶりですから。
 それだけに何と言っても、逆転した瞬間はこれまでに味わったことのない感動というか、込み上げてくるものがありましたね。私自身が薄らいでいた勝つことへの執念、諦めない心を選手たちに呼び起こされた気がします。

プロフィール

大八木弘明

おおやぎ・ひろあき――昭和33年福島県生まれ。52年福島県立会津工業高等学校卒業後、小森印刷(現・小森コーポレーション)入社。56年川崎市役所入所。58年24歳で駒澤大学夜間部に進学。3度の箱根駅伝出場(2度の区間賞)を果たす。卒業後はヤクルトで競技生活を続け、平成7年から母校駒澤大学陸上競技部コーチに就任。以後、箱根駅伝4連覇を含め、数々の大会で優勝を果たし、「平成の常勝軍団」と呼ばれるまでに育て上げる。14年助監督、16年監督に就任。令和3年箱根駅伝で13年ぶり7度目の優勝に輝いた。著書に『駅伝・駒澤大はなぜ、あの声でスイッチが入るのか』(ベースボールマガジン社)など。


編集後記

本号の表紙並びにトップインタビューを飾っていただいたのは、駒澤大学陸上競技部監督の大八木弘明さん。今年の箱根駅伝では、3分19秒差を覆し、実に89年ぶりとなる逆転優勝を果たしました。情熱、本気、信念、執着心、計画性……選手時代から貫き続けてきたリーダーとしての姿勢に日本一を成し遂げる本質を学びます。

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