5 月号ピックアップ記事 /インタビュー
苦節十三年 箱根駅伝日本一への道 大八木弘明(駒澤大学陸上競技部監督)

正月の風物詩として知られ、いまや国民的行事になっている箱根駅伝。大学三大駅伝の一つで、東京・箱根間を往復し、全217.1キロを10人で襷を繋いで走り抜く。第97回を迎えた今大会、奇跡的な大逆転劇を起こし、13年ぶり7度目の優勝を飾ったのが駒澤大学陸上競技部である。26年間にわたって同部を指導している大八木弘明監督に、箱根の激戦を振り返りつつ、選手時代に得た学び、忘れ難き恩師の教え、弱小集団を常勝軍団に育て上げた要諦を語っていただいた。そこから見えてくる強いチームを創るリーダーの哲学とは――。

「もしかしたらもしかすることをおまえがやるかどうかだ。それが男だ!」「おまえの力だったら抜ける。きょうのおまえはホントいいわ!」
大八木弘明
駒澤大学陸上競技部監督
〈大八木〉
優勝できなかった13年のうち6~7年くらいは、朝練でも何でもマネージャーに行かせて、自分は現場に行かなかったり、グラウンドにいて遠くから眺めているだけだったり。結局、練習姿勢や食事の量、体質、性格、強み、弱みなどすべてにおいて選手のことをきめ細かく見ていなかったんです。
優勝していた頃は、例えば選手が朝練で走り込む際にずっと自転車で並走して指導していました。そうすると、選手の心と体の状態が手に取るように分かりますし、逆に指導者の本気さが選手たちにも伝わっていくのだと思います。
――そこからいかにして立ち直っていかれたのでしょうか?
〈大八木〉
2回目のシード落ちをした時に、このままでは本当にダメだなと。自分の指導に対する情けなさ、歯がゆさをつくづく感じました。本気になって情熱を注いでやっていなかった自分自身のあり方を反省しまして、60歳を機にもう一回原点に返って自分を変えようと決心したんです。
自分の中でこのままでは済ませられない、選手たちに申し訳ないという思いがありました。箱根を優勝したいがために駒澤に来てくれているんだから、彼らの夢を叶えてあげたい、喜ばせてあげたい。そのために俺は指導しているんだと。そう言い聞かせながら、覚悟を決めて再スタートを切りました。
だからやっぱり安定志向はダメですね。常に挑戦して変化していかないといけない。つくづくそう感じます。
プロフィール
大八木弘明
おおやぎ・ひろあき――昭和33年福島県生まれ。52年福島県立会津工業高等学校卒業後、小森印刷(現・小森コーポレーション)入社。56年川崎市役所入所。58年24歳で駒澤大学夜間部に進学。3度の箱根駅伝出場(2度の区間賞)を果たす。卒業後はヤクルトで競技生活を続け、平成7年から母校駒澤大学陸上競技部コーチに就任。以後、箱根駅伝4連覇を含め、数々の大会で優勝を果たし、「平成の常勝軍団」と呼ばれるまでに育て上げる。14年助監督、16年監督に就任。令和3年箱根駅伝で13年ぶり7度目の優勝に輝いた。著書に『駅伝・駒澤大はなぜ、あの声でスイッチが入るのか』(ベースボールマガジン社)など。
編集後記
本号の表紙並びにトップインタビューを飾っていただいたのは、駒澤大学陸上競技部監督の大八木弘明さん。今年の箱根駅伝では、3分19秒差を覆し、実に89年ぶりとなる逆転優勝を果たしました。情熱、本気、信念、執着心、計画性……選手時代から貫き続けてきたリーダーとしての姿勢に日本一を成し遂げる本質を学びます。

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