東洋教学が導いてくれた世界 數土文夫(JFEホールディングス名誉顧問) 𢎭 和順(北海道大学副学長) 安岡定子(郷学研修所・安岡正篤記念館理事長)

古来、先人たちを鼓舞し、精神的な支柱となってきた東洋教学。その数々の教えは、人間が自らを正しく修め、その修めた自分を以て公のために生きることを根本としている。まさに自靖自献である。早くから古典の教えに親しみ、それを人生や仕事の資としてきたJFEホールディングス名誉顧問・數土文夫氏、北海道大学副学長・𢎭(ゆはず)和順氏、郷学研修所・安岡正篤記念館理事長・安岡定子氏に、それぞれの学びを振り返りながら、現代における東洋教学の意義を語り合っていただいた。

孔子は長い放浪生活の中でたびたび騙され、忍耐、我慢を強いられています。「巧言令色鮮し仁」(ことさらに言葉を飾り、顔色をよくする者は仁の心が乏しい)という『論語』の言葉は、孔子が騙されてきた何よりの証しなんです

數土文夫
JFEホールディングス名誉顧問

特にいまのような人生百年時代となると、私の感覚では10年に一度くらいの割合で進退窮まるような出来事が起きると思うんです。そういう時、かつてのリーダーたちがどう苦難に立ち向かったのかを学んでおくことは大きな力になるでしょうね。歴史は人生の修羅場を疑似体験させてくれる。これは私の強い実感でもあるんです。

自分はこういう方向に進んで社会に貢献するという大きな志と一つの軸を、ぜひ高校生、大学生の若いうちから持って力強く人生を歩んでいってほしいというのが私の強い願いでもあるんです

𢎭 和順
北海道大学副学長

数年前、ある学生に「あなたの志は何ですか」と聞いたところ、「一所懸命に外国語を学んで、世界のディズニーランドを回ることです」という答えが返ってきて驚きました(笑)。「それはよいことだけれども、社会貢献に繋がらない夢や理想は志とは言わないよ」という話をしましたが、志が何なのかさえ分からない学生が増えていることは確かですね。

私自身年齢を重ね、社会経験を積んでくると、こんな場面ではこんな『論語』の言葉が重なるなとか、自分と全く感性の異なる人とどのようにして人間関係を築いていったらいいのかとか、まさに『論語』は人生の実用書だということが分かってきました。

安岡定子
郷学研修所・安岡正篤記念館理事長

 文字が読めない小さいお子さんたちは素読の音で『論語』を楽しんでいるわけですが、音と一緒に哲学も入ってくるといわれています。いずれ大人になった時、その哲学がよき人間関係を築く力となったら嬉しいですね。
 祖父は「子供は幼いから幼稚なのではない。中身は大人よりも豊かなのだから、幼い子に関わる人ほど大人として上質でなくてはいけない」と言っていました。その意味でも前途洋々な子供たちに上質のよい教えをたくさん学んでほしいという思いで今日までやってきました。

プロフィール

數土文夫

すど・ふみお――昭和16年富山県生まれ。39年北海道大学工学部冶金工学科を卒業後、川崎製鉄に入社。常務、副社長などを経て、平成13年社長に就任。15年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。17年JFEホールディングス社長に就任。22年相談役。経済同友会副代表幹事や日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長などを歴任し、令和元年よりJFEホールディングス名誉顧問。

𢎭 和順

ゆはず・かずより――昭和34年三重県生まれ。北海道大学文学部を卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。名古屋大学助手、北海道大学助教授を経て、北海道大学教授。平成22年より北海道大学文学部長・大学院文学研究科長、総長補佐を歴任し、現在、副学長・新渡戸カレッジ副校長。専門は中国古代思想、論語解釈史。著書に『論語 珠玉の三十章』(大修館書店)『概説中国思想史』(共著・ミネルヴァ書房)、共編に『新渡戸稲造に学ぶ』(北海道大学出版会)など。

安岡定子

やすおか・さだこ――昭和35年東京都生まれ。二松學舍大学文学部中国文学科卒業。安岡正篤師の令孫。「こども論語塾」の講師として、全国各地で定例講座を開催。『論語』ブームの火付け役といわれる。現在は大人向け講座や企業向けのセミナー、講演などでも幅広く活躍。令和2年10月より公益財団法人 郷学研修所・安岡正篤記念館理事長。著書に『楽しい論語塾』『0歳からの論語』(共に致知出版社)など。


編集後記

自靖自献は東洋教学の根底を貫く教えともいえます。JFEホールディングス名誉顧問の數土文夫さん、北海道大学副学長の𢎭和順さん、郷学研修所理事長の安岡定子さんには、古典への目覚めや魅力などを語り合っていただきました。経営者、教育者、それぞれの立場で深めてこられた古典の学びは、多くの知恵に満ちています。

バックナンバーについて

致知バックナンバー

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます

過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~17:30(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い

閉じる