10 月号ピックアップ記事 /対談
人生は常にこれから! 観世清和(二十六世観世宗家) コシノジュンコ(デザイナー)
国内外で活躍する世界的デザイナーのコシノジュンコ氏。観阿弥・世阿弥から連綿と続く能楽の歴史と伝統を受け継ぐ二十六世観世宗家・観世清和氏。能楽とファッション――異なる分野のコラボレーションを通じて、日本の伝統と美の発信に情熱を燃やすお二人に、いま日本人が改めて立ち返るべき原点、これからの未来を力強く切り拓いていく心の持ち方を縦横に語り合っていただいた。
「稽古」という字には、「古をたずねる」という意味があります。先代も先輩方も皆、良いも悪いも古をたずねなければ未来はないのだと言っております
観世清和
二十六世観世宗家
コシノ
いまも大事にされている先代の教えや言葉はありますか。
観世
具体的にこれという訳ではないのですが、例えばいま、「そこは謡の張りが足りない」「芯がぶれている」「身動ぎ一つするな」「扇子だけ上げるんだよ」と、自分でも「この言葉はどこかで聞いたことあるな」と思いつつ、息子の稽古をしているのです。それである時、先代に会ったこともないはずの息子が「お父さん、いまの言葉は、お祖父さんが言っていたのじゃない?」って言うのです。
コシノ 自然に分かっちゃう。
観世
ええ、自分でも気づかないうちに、父が乗り移っているということがあるのです。
コシノ
でも、それが本当の教えの伝達なんだと思います。説明しなくても、感じるものがある。
観世
先ほど能面のお話が出ましたが、観世宗家に代々伝わる能面の裏には、当然、観阿弥、世阿弥の汗染みもついているわけです。能装束も足利義政拝領の装束が伝わっていますが、能装束は洗濯できず陰干しするだけですので、それを着た先人たちの汗もそのまま残っている。
コシノ
中途半端な姿勢ではとても扱えない。それがまた生きた教えになっているわけですよね。
観世
そうなのです。それがそのままお守りにもなる。ですから私共の世界では、能面や能装束には魂が宿っていて、その上を絶対跨いではいけないといわれています。
何歳になっても新たな人生をひらいてきたいですね。いま、この瞬間が一番若いんですから。
コシノジュンコ
デザイナー
コシノ
今回は「人生は常にこれから」というテーマをいただきましたが、私の母は80歳、90歳になっても「さあ、私の人生これからや!」と言っていました。
ですから、私も年齢はあまり気にしないし、過ぎてしまったことよりいまを大切に、これからどうしようかなって常に考えているんです。特に新型コロナウイルスが出てきて、同じことを繰り返そうという考えもなくなりました。
新しいコミュニケーション、新しいコラボレーションもよいなって思いますし、自分にできることはまだまだやりたいし、いままでやれなかったこともまだまだあるんじゃないかって、いま本当におもしろくてしょうがないんです。
観世
素晴らしいです。
コシノ
延期になっている御家元とのコラボレーションが秋に無事に実現できたら、例えば、今度はエジプトのルクソール神殿のような場所でも開催できたらおもしろいなと。まぁ、夢は勝手に見てもよいわけですよ。大きな夢を持っていれば、やっぱり、現実も何かしら変わっていくと思うんです。
プロフィール
コシノジュンコ
コシノ ジュンコ――大阪府生まれ。1960年代より数々のグループサウンズの衣装で活躍。日本万国博覧会にて生活産業館、ペプシコーラ館、タカラ・ビューティリオン館の3パビリオンのユニフォームをデザイン。1978年から22年間、パリコレクションに参加。1985年北京での中国最大のショウをきっかけに、ニューヨーク(メトロポリタン美術館)、ベトナム、キューバ、ロシア、ポーランドなどでファッションの枠を超えた日本文化を発信するショウを開催してきた。DRUM TAOの舞台衣装・琉球海炎祭の花火のデザインも手掛ける。2025年日本国際博覧会協会シニアアドバイザー。2017年文化功労者。文化庁 「日本博」企画委員。TBSラジオ「コシノジュンコMASACA」(毎週日曜17時~)放送中。2020年11月9日、「GINZA SIX」内にある「二十五世観世左近記念観世能楽堂」にて「能とモードの饗宴」を開催。
観世清和
かんぜ・きよかず――二十六世観世宗家。重要無形文化財総合認定保持者。1959年生まれ。1990年宗家継承。
観阿弥・世阿弥の子孫として現代の能楽界を代表する演者。2016年ニューヨーク・リンカーンセンター招聘公演(5日間)は連日満員の盛況で極めて高い評価を得た。現在は能公演はもとより、(独)日本芸術文化振興会評議員・東京藝術大学非常勤講師・国立能楽堂養成研修主任講師を務め、伝統芸術の保存と継承・後進の育成にあたる。(一財)観世文庫理事長、(一社)観世会理事長、(一財)日本中国文化交流協会副会長。フランス文化勲章シュバリエ、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章、JXTG音楽賞など多数受賞(章)。
編集後記
ファッションと能楽―異分野のコラボレーションを通じて、日本文化の素晴らしさを世界に発信する世界的デザイナーのコシノジュンコさんと、二十六世観世宗家の観世清和さん。何歳になっても新たな挑戦を続けるお二人のエネルギッシュな対談から、明日を力強く切り拓いていくパワーをもらいます。
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