10 月号ピックアップ記事 /対談
「眼前の破局は天の啓示であり、天訓である」——松下幸之助に学ぶ 危機の乗り越え方 上甲 晃(志ネットワーク「青年塾」代表) 中 博(「中塾」代表)
経営の神様と称される松下幸之助。赤貧・病弱・無学歴にも拘らず、丁稚奉公から身を起こし、戦後、財閥指定や公職追放をはじめ様々な逆境を乗り越え、一代で世界的企業へと発展させたことは有名である。目下の新型コロナウイルス禍にどう対応するか。そのヒントをも松下幸之助は示してくれているという。共に松下幸之助に薫陶を受けてきた上甲晃氏と中博氏が、その足跡や言葉を交えながら語り合う、ウィズコロナ時代の経営と人生。
松下幸之助に一貫しているのは、「どんな時でも、見方を変えればすべてチャンス」ということだと思うんです
上甲 晃
志ネットワーク「青年塾」代表
松下幸之助に一貫しているのは、「どんな時でも、見方を変えればすべてチャンス」ということだと思うんです。その中でいくつか言葉を拾ってみると、まず「周りの状況が悪くなると、ついつい弱々しい心になる。経営者はそういう弱々しい心では絶対あかん。断固としてやるべきことをやる」。
次は「天下を思うような気持ちがなければ、普通の知恵は出ても本当の知恵は出てこない」。要は公心ですね。公心を持って取り組めば、必ず物事はうまくいくと。
最後は、「ジタバタせず、大船に乗ったつもりでやっていく」。遠くのことを思って不安になるのではなく、その日その日を一歩一歩充実させていくこと。そこに喜びを感じながらやっていると、度胸が据わってくると。
この三つの言葉はなかなかいいなと思って、私自身それらを実行しようと心掛けています。
松下幸之助の言葉で、僕が特に心に留めているのは、「雨が降れば傘をさす」です
中 博
「中塾」代表
松下幸之助の言葉で、僕が特に心に留めているのは、「雨が降れば傘をさす」です。これは雨が降ってきたから傘をさすという行為以前に、事前に傘を準備しているかどうか。雨が降るかをどう予知するか。そういう危機管理の重要性を指摘していると思います。
特にこのコロナ禍の時に傘もささずにウロウロしている。これが一番危険です。「雨が降れば傘をさす」との原理原則に則れば、当たり前ですけど、マスクをするとか三密を避けるとか免疫力を高めるとか、やるべきことが全部見えてくる。平易にして危険への対処を見事に語っている素晴らしい言葉だと思います。
もう一つ挙げると、「信念なき者、勇気なき者は、絵に描いた餅で食えん」。普通は「信念なき者、勇気なき者は、けしからん」とか言うと思うんですけど、「食えん」って表現しているところがいかにも松下幸之助さんらしい。
これは裏を返せば、「俺は信念がある」「私は勇気がある」って言う人がいるけど、それはほとんど絵に描いた餅やで、と言いたいわけですよね。自分の命を賭しているか。その覚悟が問われている強烈な言葉です。
プロフィール
上甲 晃
じょうこう・あきら―昭和16年大阪府生まれ。40年京都大学卒業と同時に、松下電器産業入社。広報、電子レンジ販売などを担当し、56年松下政経塾に出向。理事・塾頭、常務理事・副塾長を歴任。平成8年松下電器産業を退職、志ネットワーク社を設立。翌年、青年塾を創設。著書多数。近著に『松下幸之助に学んだ人生で大事なこと』(致知出版社)。
中 博
なか・ひろし―昭和20年大阪府生まれ。44年京都大学経済学部卒業後、松下電器産業入社。本社企画室、関西経済連合会へ主任研究員として出向。その後、ビジネス情報誌「THE 21」創刊編集長を経て独立。廣済堂出版代表取締役などを歴任。その間、経営者塾「中塾」設立。著書に『雨が降れば傘をさす』(アチーブメント出版)がある。
編集後記
志ネットワーク「青年塾」代表の上甲晃さんと「中塾」代表の中博さんは若い頃、松下電器で廊下を挟んで共に働いた間柄。対談のタイトル「眼前の破局は天の啓示であり、天訓である」は、松下幸之助が敗戦翌日に社員に向けて語った言葉です。幾多の危機を突破してきた経営の神様の教えにコロナ禍を打開する心構えを学びます。
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