世界初の四冠達成——スパコン「富岳」はかくて誕生した 石川 裕(理化学研究所計算科学研究センター フラッグシップ2020プロジェクトプロジェクトリーダー)

去る6月22日、スーパーコンピュータ「富岳」が国際ランキングにおいて4つの分野でトップを独占した。「京」が世界一になった2011年から、実に8年半ぶりの首位獲得である。その上、2位に2.8倍差をつけての独走だという。「富岳」開発のプロジェクトリーダーを務める石川裕氏はトップを取ることが目標ではなかったと幾度となく口にするが、開発の軌跡、石川氏のリーダー論を交えて、世界初の偉業が成し遂げられた秘訣を探る。

スーパーコンピュータ(スパコン)とは
明確な定義はないが、科学技術計算を速く実行することに特化したマシンを指し、年に2回計算速度や性能などのコンテストが行われている。2011年に計算速度で首位を取った「京」の後継機として、「富岳」の開発が2010年頃からスタート(理化学研究所で正式にプロジェクトが始動したのは2014年)。「富岳」の名前は、富士山のように高い性能を持ち、幅広いユーザーに提供するとの思いのもと公募で2019年に決まった。「富岳」1台でスマートフォン約2千万台分(国内の年間出荷台数の6割相当)の計算能力を持つ。
[写真:米国カーネギーメロン大学客員研究員の頃(1988年10月~1989年10月)積み重なっている4台の機械はワークステーションと呼ばれていた計算機]

信念を持って決めたことであれば、自信を持って進めるということ。これが最も大切です

石川 裕
理化学研究所計算科学研究センター
フラッグシップ2020プロジェクトプロジェクトリーダー

——今年六月、スーパーコンピュータ「富岳」がスパコンの性能を競う世界ランキングで四冠を達成し、世間を賑わせています。

石川
 日本のスパコンが8年半ぶりに世界一となり、しかも四分野で首位を取ったのは世界初だったこともあって、報道機関がかなり好意的に取り上げてくれました。
 ただ、もともと首位を取ることを目標にしていたわけではないので、4冠を取れたこと自体への達成感よりも、国民の皆さんがこの報道を聞いて喜んでくれ、非常に関心が高まったことのほうが嬉しいですね。新型コロナウイルス蔓延で世界中が沈んでいる中、夢と希望をお届けすることができたのではと思っています。

——当初から実用に主眼を置いて開発を進められていたのですね。既に新型コロナウイルスの研究にも貢献されていると伺いました。

石川
 本来、2021年度からの利用開始を目標としていましたが、コロナ禍の世界的な惨状を受けて、今年4月に文部科学省と連携し、現時点で提供可能な一部分を、新薬の開発や感染防止対策などに活用してもらっています。
 7月初旬には創薬に関するシミュレーションで2128種類の薬剤から数10種類が新型コロナウイルスに作用することが分かったのですが、シミュレーションにかかった時間は僅か10日間。同じ計算を「京」で実施した場合、1年以上はかかっていたと思います。
 まだ開発途上ですけれど、世の中に貢献できているのは非常に嬉しいことです。「富岳」は今後、ゲリラ豪雨の解析や地球温暖化防止対策、健康長寿社会の実現、産業競争力の強化など多くの分野において、社会に革新的な進歩をもたらせると思っています。

*             *              *

この後は下記の内容が掲載されています。

「工作少年マイコンに魅せられる」
「『富岳』開発は十年前から始まっていた」
「次々に立ちはだかった研究の壁」
「ボスとリーダーの決定的な違い」
「プロジェクトの成功はリーダーによって決まる」
「富士山は八合目からが正念場」

プロフィール

石川 裕

いしかわ・ゆたか―昭和35年東京都生まれ。57年慶應義塾大学工学部電気工学科卒業、62年同大学院工学研究科電気工学専攻博士課程修了後、通商産業省電子技術総合研究所に所属。63年から1年間カーネギーメロン大学客員研究員。平成14年東京大学大学院情報理工学系研究科助教授、18年教授。22年同大学情報基盤センター長に就任。26年より現職。令和2年6月より東京大学名誉教授。


編集後記

スーパーコンピュータ「富岳」が国際ランキングで四冠を達成したとのニュースが、コロナ禍で沈みがちな世相にひと筋の光をもたらしました。約十年がかりの巨大プロジェクトを導いてこられたプロジェクトリーダー・石川裕さんの話には、開発に注ぐ強い執念を感じます。

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