4 月号ピックアップ記事 /対談
年を重ねるごとに輝きを増す生き方 若宮正子(ITエバンジェリスト) 小林照子(美容家)
60年以上美容家として活躍し続ける小林照子さん。コーセー初の女性取締役を経て独立し、現在はAIを活用した印象分析や後進の育成に力を入れ、生涯現役を宣言している。片や定年退職後に始めたパソコンによって、AppleのCEOからも注目を集めるようになった若宮正子さん。「60歳から人生が楽しくなり、80歳からはもっと楽しくなった」と語る。共に昭和10年生まれ同士が語り合う、人生百年時代を生き抜くヒント――。
時代の変化の中で、私たちに求められるのが「人間力」だと考えています
若宮正子
ITエバンジェリスト
若宮 実は私がパソコンを始めたのも、母の介護が頭の片隅にあったからでした。私がまだ50代の頃から、母が徘徊をし出すようになり、少し介護が必要になり始めました。それで、今後自宅で介護をするようになると、あまり家から出づらくなるなと考えていたところに、パソコンというものがあれば家を出なくても画面を通じて人と繋がれるなと。
子供の頃からモノ好きで、何にでも好奇心があったこともあり、1995年にWindows95というOS(基本ソフト)が発売される前、奮発してパソコンを購入したんです。
小林 その頃のパソコンは非常に高価でしたよね。
若宮 ええ。40万円くらいしたので、一般家庭にはまだ普及していませんでした。会社の重役室に冷房がつかないうちから、パソコン室には冷房が入っていて、パソコン様と皆から崇められていた時代です。58歳の時に購入したんですけど、あと2年で退職金がもらえるので、少しくらい贅沢をしてもいいかなと(笑)。
誰かと繋がりたいという単純な動機だったものですから、専門書を読んで勉強するのは後回しで、通信に必要な操作だけを独学で学んでいきました。日本人は真面目な人が多いから、すぐに入門書を買って、第一章から勉強しようとしますが、私は自分が必要なところだけを学ぶつまみ食い派(笑)。
小林 いいわね! そういうの大好きです(笑)。何かとマニュアルに囚われる「マニュアル人間」がいますけど、自分でオリジナルをつくれる人って素敵ですよね。
年を重ねるごとに輝く人と逆に老いて衰えてしまう人の差は、未来を面白がることができるかどうかだと思います
小林照子
美容家
小林 メイクアップはすべて手作業で行う非常にアナログな世界ですが、少しずつITを導入しており、メイクと先端技術を掛け合わせることで瞬時に数値的分析ができる印象分析「和=美」などを開発してきました。
そして、いま特に力を入れているのがAI(人工知能)の導入です。私がこれまで六十年かけて蓄積してきた印象分析のノウハウを、いまAIに学習させています。すると、たとえ私がいなくなったとしてもAIが素晴らしい技術を伝承してくれますし、私を超えてもっと素晴らしい分析ができるようになると思うんです。
若宮 積極的に先端技術を取り入れられる姿勢に感動を覚えます。
小林 また、私が技術を極めるよりも、若い人に技術を伝えることのほうが重要だと思い、75歳の時に原宿に、その後京都にも通信制高校をつくって、いまちょうど10年目です。
それから昨年4月には、未来の日本を支える若者、特に女性を育てたいと思い、アマテラス・アカデミアという塾を立ち上げました。25歳から39歳までの女性を対象にした講座で、ここでは自分の使命を自覚していただき、「自分の未来はこうつくります」と宣言してもらいます。
いま様々な分野で活躍している女性はたくさんいますが、個々人の活動で留まっています。彼女たちが連結してネットワークを構築できれば、世の中を変える大きな力になると思うんです。毎年15名を育てて、10年で150名。受講は完全無料で、たとえ途中で私がいなくなっても、10年間継続できるような仕組みを整えています。
プロフィール
若宮正子
わかみや・まさこ――昭和10年東京生まれ。高校卒業後、三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に入行。平成7年定年目前にパソコンを購入。平成18年「エクセルアート」を発案。29年iPhoneアプリを開発。シニア向けサイト「メロウ倶楽部」副会長。NPO法人ブロードバンドスクール協会理事。著書に『60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。』(新潮社)『独学のススメ』(中央公論新社)『老いてこそデジタルを。』(1万年堂出版)など多数。
小林照子
こばやし・てるこ――昭和10年東京生まれ。33年小林コーセー(現・コーセー)に入社。美容液、パウダーファンデーションを世界で初めて生み出し、大ヒットさせる。60年コーセー初の女性取締役に就任。平成3年56歳で独立し、美・ファイン研究所を設立。6年にフロムハンドメイクアップアカデミーを、22年に青山ビューティ学院高等部を開校。著書に『これはしない、あれはする』(サンマーク出版)『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)『いくつになっても「転がる石」で』(講談社)など多数。
編集後記
共に昭和10年生まれの美容家・小林照子さんとITエバンジェリスト・若宮正子さん。小林さんは50代で美容関連の会社を数社起業し、いまなお生涯現役。若宮さんは定年退職後にパソコンを始め、趣味でつくったアプリゲームが現在、世界中から注目を集めています。80代のお二人が人生百年時代を生き抜くヒントを語ります。
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