12 月号ピックアップ記事/対談
終わりなき修養に生きて 蓮沼門三と後藤静香に学ぶ 山﨑一紀(修養団第三代主幹)中澤宏則(後藤静香記念館館長)

我が身を修め、心を養う。そうして磨いた自分を以て、周りの人や環境をよくしていく――自己修養は、職業や立場を問わず、よい人生を送る基本条件と言える。明治から大正、昭和にかけ、この精神を全国に説き広めた人物がいた。蓮沼門三と後藤静香。生涯の盟友であった二人の生き方に、蓮沼氏の令孫である山﨑一紀氏(右)、後藤氏の薫陶を受けた最後の世代である中澤宏則氏(左)の語りを通して迫る。

愛なき人生は暗黒なり、汗なき社会は堕落なり
蓮沼門三(はすぬま・もんぞう)
「修養団」初代主幹
明治15(1882)年~昭和55(1980) 年
明治15年福島県生まれ。36年東京府師範学校入学、39年在学生を中心に「修養団」を設立。卒業後の41年機関誌『向上』を発刊。大正4年「全国青年天幕講習会」を開催、生涯を社会教育に尽くす。昭和55年、数え99歳で死去。銀杯一組を賜り、正四位に叙せられる。勲二等瑞宝章、喜多方市名誉市民第1号。『蓮沼門三全集』(全12巻)などがある。

愛とは、自分に接する者を、少しでも幸福にしようとする努力です
後藤静香(ごとう・せいこう)
「心の家」主宰
明治17(1884)年~昭和44(1971)年
明治17年大分県生まれ。東京高等師範学校で数学を学び、長崎県立高等女学校、香川県女子師範学校で教鞭を執る。大正7年「希望社」を創設。月刊誌『希望』をはじめ数々の雑誌を発行する。昭和8年同社解散、翌年「心の家」を立ち上げ、全国の社会教育、社会福祉に一生を捧げた。44年84歳で死去。代表作に『権威』『道のしるべ』(善本社)など。

山﨑一紀
修養団第三代主幹
〈山﨑〉
初めてお目にかかります。中澤さんが館長を務める後藤静香記念館は高崎市榛名高原にあるそうですが、きょうも群馬から?
〈中澤〉
いえ、記念館と言っても最近は専(もっぱ)ら、社会教育と社会福祉に生涯を捧げた後藤先生の遺品や膨大な著作の資料庫になっていましてね。気がつけば私も82歳、埼玉の自宅から向かうのも大変になりましたので、見学希望があった時だけ、地元にいる同志の先生に開けてもらうという形で続けているんです。
それにしても、このお部屋は眺めが素晴らしいですね。
〈山﨑〉
こちらに広がっているのが明治神宮の杜(もり)で、反対側の会議室からは新宿御苑が一望できます。関東大震災で浅草にあった本部が焼失した後、本部用地として宮内庁からこの土地を貸与され、後に払い下げていただいたのです。
〈中澤〉
山﨑さんは、蓮沼先生のご子孫でいらっしゃる。
〈山﨑〉
ええ。初代主幹・門三には子供が6人おりまして、二代目主幹を務めた伯父の力太郎は長男、私は次女の國子(くにこ)の息子です。

中澤宏則
後藤静香記念館館長
〈中澤〉
なるほど。きょうのテーマである蓮沼先生と後藤静香には、生前親交がありましたね。
〈山﨑〉
それは深い交流ですよ。東京府師範学校(現・東京学芸大学)の学生だった門三が、校内美化運動に端を発して仲間を中心に修養団を創立したのが1906(明治39)年。3年後、機関誌が全国の師範学校、教育関係者に一斉配布されました。それを受け取った一人が、後藤先生だった。
〈中澤〉
蓮沼先生の2歳下で、長崎県立高等女学校で教えていた静香は、その内容に感動してすぐ修養団の会員になり、支部を立ち上げて熱心に活動していきます。
〈山﨑〉
そんな後藤先生に、門三が上京を熱望して浅草にあった本部の理事になっていただいた。
〈中澤〉
はい。静香は女子修養団を目指し「希望社」を立ち上げますが、初めは修養団本部の六畳一間を借りていたそうですね。
〈山﨑〉
しばらく共に活動しています。修養団と希望社は、兄弟団体だったと言っていいでしょう。
〈中澤〉
盟友ですね、まさしく。静香が1969年に84歳で亡くなった時、蓮沼先生が「盟友をおくる」という長い弔辞を寄せられています。それだけ深く繋がっていた証ですが、私は修養団あっての希望社、蓮沼門三あっての後藤静香だとつくづく感じます。……(続きは本誌をご覧ください)
~本記事の内容~
◇社会教育に人生を捧げた二人は「盟友」
◇修養の灯火を絶やさず繋ぐために
◇最晩年の後藤静香が語った「愛」の本質
◇人間を決定する三つの要素
◇芯から溢れ出る親和の情
◇たった一人で続けた寮内美化運動
◇一つの明るい魂が万の魂を照らす
◇女子に勇気を与えた希望社の出版活動
◇愛と汗、道徳と経済
◇最大の受難を呑み込んで歩き出す
◇語り継ぎたい修養人の魂
◇すべては「第一歩」より始まる
プロフィール
山﨑一紀
やまざき・かずのり――昭和23年東京都生まれ。蓮沼門三氏の孫。平成4年財団法人修養団理事。常務理事・事務局長、専務理事を歴任、28年より第三代主幹。著書に『自分を育てる 「蓮沼門三のことば110」を読む』(修養団)。
中澤宏則
なかざわ・ひろのり――昭和19年神奈川県生まれ。大学受験浪人中に後藤静香氏に出逢う。岡三証券に勤務。「心の家」常務理事も務めた。平成18年より後藤静香記念館館長。個人通信「こころの家族通信」を季刊で発行中。
編集後記
かつて日本に満ちていた修養の気風。生きる指針を求める何百万人もの誌友を得て、そのブームを興したのが修養団の蓮沼門三と希望社の後藤静香です。両翁自らも天災や人生の悲運に遭い、その度に雄々しく立ち上がり前進していたことを、ゆかりの深い山﨑一紀さんと中澤宏則さんは語られました。一つの魂の輝き、一つの小石の波紋が世の中を変える。いまこそ、日本に修養精神を取り戻す時です。

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