6 月号ピックアップ記事 /インタビュー
唯一無二の価値を信じ抜く 笠原文善(キミカ社長)

海藻から採取できるぬめり成分で、パンや麺類の食感向上、医療にも貢献する「アルギン酸」。その国内唯一のメーカーとして、シェア9割を誇るのがキミカだ。創業者の急逝に伴って同社の舵を握った笠原文善氏は、四面楚歌の逆境で「ベスト・イン・ザ・ワールド」のものづくりを打ち出し、今日を築いた。まるで戦艦大和に挑む一艘の漁船の気分だった――そう述懐する氏が、悪戦苦闘の末に辿り着いた経営の心とは。
【写真=徒手空拳でアルギン酸を事業化した父・文雄氏 ©キミカ】

アルギン酸の生みの親として、我が子のように事業を育ててきたから生き残れたんだと思います
笠原文善
キミカ社長
――御社が日本で最初に工業生産を実現したという天然由来の物質「アルギン酸」は、一般にあまり知られていませんが、広く社会に役立っているそうですね。
〈笠原〉
そうなんです。アルギン酸は昆布のヌルヌルとしたぬめりの成分、これを抽出精製したものです。滑らかで、なおかつ粘性があるのが特徴です。
面白いもので、このヌルヌルを例えばカルシウム溶液に混ぜると、瞬時に「ゲル化」してゼリーになる性質を持っています。普通はゼリー化剤を熱湯に溶かし、冷まして固める工程が必要になるところを、アルギン酸は一瞬、しかも常温でできるんです。
様々な固さに調節できるので、食品だと麺類のコシを出したり、食パンをしっとりふんわりさせ、さらに弾力を出したりするのにもお使いいただいています。あとは錠剤、タブレット類。胃で溶けると胃壁を荒らしてしまう薬を、腸で溶けるように調節した腸溶錠剤にも活用されています。
――食品だけでなく、薬剤にも。
〈笠原〉
加えて、20数年前からは医療用製品の開発を進めてきました。2024年、やっとアメリカで止血剤として承認され、国防総省で採用されました。
また同じタイミングで、再生医療でも実用化の目途が立ちました。本来、人の体の切れてしまった神経や擦り減った軟骨は、再生する力があるそうです。我々が治験で関わったある患者さんは、怪我で腕の神経が切れ、肘から先の感覚が失われていました。そこで、当社のアルギン酸の繊維を腕に通し、神経の通り道をつくってあげました。そうしたら、だんだん手の感覚が戻ってきて、最後は自由に動かせるようになったんです。……(続きは本誌にて)
~本記事の内容~(全4ページ)
◇食品の流通から再生医療の最先端まで
◇無念の復員と報国の精神
◇門外漢、四重苦からの船出
◇戦艦大和に挑む漁船の哲学
◇愛情の深さは必ず伝わる
プロフィール
笠原文善
かさはら・ふみよし――昭和31年千葉県生まれ。54年東京理科大学工学部卒業。早稲田大学大学院を修了後、持田製薬に入社し、研究開発の技術者として勤務。59年創業者である父の急逝に伴いキミカ入社。技術課長、管理部長、常務、専務を歴任。平成13年現職に就く。
編集後記
私たちの多くが、意識しないうちに口にしている「アルギン酸」。国内唯一の専門メーカーであるキミカの笠原社長のことを知ったのは、7年前のニュース記事でした。巡り巡ってこの度、同社が当時よりもさらにシェアを伸ばし、躍進されていることを知ったのを機に、笠原社長の人間性や経営哲学に興味を抱き、取材に至りました。
前身・君津化学研究所を興した父の急逝に伴い、様々なマイナス条件の下で船出を果たした笠原社長。現在の発展ぶりを見ると、人生や事業の成否は、決して環境だけで決まるものではない、人の力が重要であることを教えられます。

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