常に夢を持って挑戦し続ける 〈世界最高齢の現役トライアスリートの流儀〉 稲田 弘(トライアスロン選手)

世界最高齢のアイアンマン世界選手権完走者としてギネス世界記録を持つ稲田弘氏。93歳となったいまなお自らの心身を磨き高め、挑戦を続けている。60歳で水泳を始めた時はカナヅチだったというが、いかにして世界の頂へと上り詰めたのか。〝鉄人〟との異名を取る氏の山坂を越えてきた足跡を交え、何歳になっても溌剌と生きる秘訣、トライアスロンに懸ける思いを伺った。

※アイアンマンレース:水泳3.8キロ、バイク180キロ、ラン42.2キロの総距離226キロを17時間以内に走破する世界一過酷なトライアスロン

大和魂といいますか、日本人としての誇りを見せたいという思いですかね。
それが走り続ける何よりの原動力になっているんです

稲田 弘
トライアスロン選手
【写真=2015年のアイアンマン世界選手権、ゴール直前で座り込む稲田氏を起こそうとする観客。この写真がインターネット上で拡散され、一躍脚光を浴びた】

――稲田さんは世界最高齢のトライアスロン選手として、93歳のいまなおご活躍されていますね。

〈稲田〉 
この年になると、よく「矍鑠とされていますね」と言われますけど、筋肉も骨も瞬発力も持久力も、急速に衰えてきているのが自分でも日々分かるんです。

僕にとっては80代前半が体力的にも、精神的にも絶好調でした。2012年、80歳でアイアンマン世界選手権を初完走した時なんて、早くゴールし過ぎてゴール地点に観客が誰もいなくてね(笑)。

2016年と2018年にも完走したものの、徐々に余裕がなくなっていました。さらに追い打ちをかけるように、コロナ禍でレース自体が中止になった。ようやくコロナが収束し、ハワイで開かれたミドルディスタンス(総距離131キロ)の大会に2年連続で出場しましたが、タイムオーバーとコースミスで失格になりました。

でもね、僕がレースに出たら、現地の人からの声援が鳴りやまないんですよ。「ヒロム!」「ジャパン!」って言ってさ。そういう応援を聞いたら、格好よく走らないと。応援が競技を続けるモチベーションになっているんです。

――ああ、応援に背中を押されて。

〈稲田〉 
背中を押されるどころじゃなくて、手を引っ張られるような。とにかく足を動かそうという思いに駆られて、一所懸命走っているうちに調子がよくなるんです。いまは6月に開かれるアイアンマンオーストラリア、11月の日本選手権への出場に向けて、日々鍛錬に励んでいます。

――とても93歳とは思えないバイタリティーに圧倒されます。健康長寿の秘訣はありますか。

〈稲田〉 
加齢は人間の宿命ですから、抗っても仕方ありません。でも、……(続きは本誌にて)

~本記事の内容~(全4ページ)
◇24時間トライアスロン漬けの生活
◇スポーツ音痴の学生時代 カナヅチからの挑戦
◇「私ができない分も頑張ってね」
◇世界中に拡散された1枚の写真
◇日本人としての誇りを見せるために走り続ける

プロフィール

稲田 弘

いなだ・ひろむ――昭和7年大阪府生まれ。30年早稲田大学卒業後、NHKで放送記者として活躍。平成4年難病になった妻の看病のために定年退職後、運動不足解消を目的に水泳を始める。14年トライアスロンに初挑戦。24年アイアンマン世界選手権初完走、80-84歳カテゴリーでコースレコードを樹立。30年アイアンマン世界選手権85-89歳カテゴリーで世界チャンピオン、コースレコードを樹立。24、30年の年代別での優勝はギネス世界記録に認定。現在も現役最高齢選手として活躍中。著書に『やれば出来る』(徳間書店)がある。


編集後記

とても93歳とは思えないバイタリティーに満ち溢れている。一人暮らしをされている千葉のご自宅に伺い、稲田さんにお会いした印象は、まさにそのひと言に尽きます。2時間に及んだ取材中も常に背筋をピンとされ、淀みなく話される姿から、「生涯現役」とは何たるかを感じ入りました。稲田さんの体験談から紡ぎ出された至言の数々には、最期まで心身を磨き高めて生きる秘訣が詰まっています。

2026年5月1日 発行/ 6 月号

特集 人間を磨く

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