1 月号ピックアップ記事 /対談
教育の根本は愛にあり 平野真理子(平野卓球センター監督) 高濱正伸(花まる学習会代表)

卓球界で小さい頃から注目を浴びながら世界で活躍する平野美宇選手。その母である真理子さんは三姉妹を育てる傍ら、卓球教室を開き、競技力だけではなく人間力を育てることを大切にしているという。同じく「メシが食える大人を育てる」という理念のもと、全国に360校以上の「花まる学習会」をつくってきたのが創業者である高濱正伸氏である。お二人にご自身の子育てを振り返りつつ、教育で最も大事なことは何か、縦横に語り合っていただいた。

結局人生で一番大事なことって自分の存在自体を好きになることだと思うんです。自分が幸せじゃなかったら、人を幸せにできないし、自分が幸せだからこそ人の幸せを素直に喜べる
平野真理子
平野卓球センター監督
〈高濱〉
平野さんには3人の娘さんがいらっしゃいますが、ご自身の子育てはどうでしたか?
〈平野〉
もしかしたら他のご家庭とは違うかもしれません。一般的に我が子の指導は難しいと言いますけれど、私はすごくやりやすかったんです。だってフォローする時間がたっぷりあるじゃないですか。
〈高濱〉
寝ながらとか、お風呂に入りながらとかね。
〈平野〉
そう。子供たちの性格をよく分かっているから、どう褒めたらいいのか、どうやって叱るのが一番効くのか、タイミングが取りやすかったんですよね。
美宇が実家にいた頃は、試合や練習の送り迎えとかがあるのでどうしても美宇のための時間が多かったと思います。それに三女の亜子は発達障碍で人とのコミュニケーションが苦手なので、リハビリに連れて行くなど亜子にも物理的な時間を取られていました。
じゃあ真ん中の子を可愛がっていないかと言ったらそうではなくて、時間は短かったとしても二女の世和に接する時間は100%世和のために尽くしました。だからもしかしたら3人とも自分が一番愛されていると思っているかもしれません(笑)。
おかげで、美宇はご存じの通り世界を舞台に活躍していますし、世和はしっかり者に育ってくれて、東京の大学で栄養学を学びながら、東京で暮らす美宇と夫に栄養満点の食事をつくってくれています。
亜子は小さい頃から英語が大好きで、いまは英文学科の大学一年生。片道2時間かかるので大変ですが、とても楽しいそうです。卓球もバリバリやっていて、今度全日本選手権にも出場するんですよ。
〈高濱〉
本当に? どんな教育をされているんですか(笑)。美宇さんのオリンピック出場だけでもすごいのに、3人がそれぞれ輝いている。
〈平野〉
私も驚いています。亜子が……
この後、お二人にこのようなテーマで語っていただきました
・親や指導者の役割
・子供が伸びる家庭に共通すること

仕事柄、様々な家庭を見てきて思うのですが、よく言われる通り愛に満ちて、笑顔・笑い声・歌声に溢れている家庭はやっぱり幸せそうですよ
高濱正伸
花まる学習会代表
〈高濱〉
まさに愛ですね。僕も同じですが、一歩目でまず、存在自体を祝福してくれる目が必要だと考えています。その例でもう一つ面白い話があるんです。
去年9月、僕が30年間指導してきた中で一番動き回るADHDの1年生が入塾してきました。教室でじっとできず、気づけば屋根裏とかどこかに行ってしまう子。僕は中3まではその子の自己肯定感を潰さず、気長に見守っていこうと考えていました。
ところがある日、その子がどこかに行こうとしているのがたまたま目に入ったので、ガーッと捕まえて僕の膝の上に乗せてあげたんです。そして、「先生、お前のことが大好きだから離したくないなあ。お前のことが大好きだよー!」って繰り返し伝えてあげたんです。別に何か目的があった訳じゃなくて本能ですよ。温もりを与えながら1分くらいそうしていたら、なんとその後の90分間、ずっと椅子に座って授業を受けたんですよ。
〈平野〉
ええ!
〈高濱〉
僕も何が起こったの? ってびっくりして。あれから1年が経ちましたけれど、彼は授業中、むやみに教室を出なくなりました。
で、何が言いたいかというと、先ほどのフリースクールの例と同じで、本当に大事にされている、愛されていると実感した瞬間から、何とか自分を制御して頑張ろうとするんです。動き出したくなっても、机をどんどんと叩きながらでも頑張って自席に座っている。テストの点数とか偏差値とか言う前に、とにかくその存在を喜んであげてほしい。それが、子を持つ親に一番に伝えたいことです。
プロフィール
平野真理子
ひらの・まりこ――静岡県生まれ。筑波大学時代は卓球部の主将を務める。卒業後、静岡にて10年間教鞭を執る。山梨に移り、平成15年に平野卓研(現・平野卓球スクール)を立ち上げる。三人姉妹の子育ての傍ら、約80名の老若男女に卓球を指導している。長女は東京オリンピック卓球女子団体銀メダルを獲得した美宇選手。著書に『美宇は、みう。』(エッセンシャル出版社)がある。
高濱正伸
たかはま・まさのぶ――昭和34年熊本県生まれ。東京大学農学部卒、同大学院農学系研究科修士課程修了。平成5年33歳の時に「メシが食える大人を育てる」という理念を掲げ、「数理的思考力・読書と作文を中心とした国語力・野外体験」の三つを主軸にした花まる学習会を設立。7年には小学4年生から中学3年生を対象に進学塾スクールFCを設立。主な著書に『つぶさない子育て』(PHP研究所)『勉強の面白さってなんだろう』(KADOKAWA)など。
編集後記
子供の自主性を育みながら、人間的魅力のある人に成長してもらうためにはどうしたらよいのでしょうか。思考力・国語力・野外体験を通じて幼少期に生きる力を育てる花まる学習会代表の高濱正伸さんと、卓球界で目覚ましい活躍を遂げる平野美宇選手ら三姉妹の母であり、山梨で卓球教室を運営する平野真理子さんに、ご自身の子育てを交えて教育のあり方を語り合っていただきました。

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