11 月号ピックアップ記事 /対談
幸福な生き方と死に方 帯津良一(帯津三敬病院名誉院長) 小澤竹俊(めぐみ在宅クリニック院長)

日本におけるホリスティック医学の第一人者であり、87歳の現在も医療現場に立ち続ける帯津三敬病院名誉院長・帯津良一氏。ホスピス医としてこれまで約4000名の患者を看取る一方、病に拘らず支援を必要とする人々の担い手の育成に尽力するめぐみ在宅クリニック院長・小澤竹俊氏。長年、人間の生と死を見つめ続けてきた医師お二人は人生の幸福についてどのように考えられるのだろうか。

「人生の幸せは後半にあり」という言葉は、愛読書である貝原益軒の『養生訓』の底流を貫く考え方ですが、87歳になった私の実感でもあるんです
帯津良一
帯津三敬病院名誉院長
〈小澤〉
お聞きするところでは、帯津先生は昭和11年生まれの87歳。現役の医師としていまも医療現場に立ち続けていらっしゃるそうですね。
〈帯津〉
はい。いまは週のうち月火金の3日は川越(埼玉県)の帯津三敬病院で、水木は池袋にあるクリニックで働いています。土日はコロナ前だと大体、講演が入っていたのですが、コロナが蔓延してからは講演の予定がなくなったものですから、病院で雑誌の連載原稿などを書いて過ごしていました。まぁ、ここにきてぼちぼち講演も入ってきましたけどね。そんな感じで年中何かに追われているような生活です(笑)。
〈小澤〉
コロナで講演の予定がなくても土日は決して休まれることがなかったのですね。そこにも年齢を感じさせないエネルギーを感じるのですが、先生を突き動かすそのエネルギーがどういうものなのかを、きょうはじっくりお聞きできたらと思っています。
〈帯津〉
いや、私は晩酌をやらない日がないくらい酒が生き甲斐なんですよ。晩酌をやる以上は働いたほうがおいしくいただけるわけだから、酒のためにも怠ずに仕事を求めて歩いているようなものです(笑)。

私は負の出来事に向き合うことが決して不幸ではなく、幸せに近づくヒントでもあると多くの患者さんを通して教えられました
小澤竹俊
めぐみ在宅クリニック院長
〈帯津〉
小澤先生は緩和ケア医として、いまどのようなことに力を入れられていますか。
〈小澤〉
私は横浜市瀬谷区を拠点に診療活動を続けているのですが、いま一番のテーマは自分の手の届かないところで緩和ケアを必要とする人のために何ができるかということなんです。私は長年ホスピス、看取りの現場にいて、解決のできない苦しみを抱えた人たちがどうしたら穏やかな顔で過ごせるかをいつも考え続けてきました。
しかし、それは命が限られた人たちだけではありません。自分が誰からも必要とされていないと悩む人たちが子供からお年寄りまでとても多い。看取りの場で培ったマインドを生かして、そういう人たちに関われる担い手が一人でも増えたら、というのがいまの私の思いなんです。
マッチ一本の火は誰にでも消すことができます。しかし、それが部屋中に燃え広がると、いくらバケツの水をかけても消せない。人間の苦しみも一緒なんですね。小さな苦しみに誰かが気づき、声を掛け、担い手になってくれたら地域や社会はもっと変わるはずです。
プロフィール
帯津良一
おびつ・りょういち――昭和11年埼玉県生まれ。東京大学医学部卒業後、同医学部第三外科、都立駒込病院勤務を経て57年埼玉県川越市に帯津三敬病院を設立(平成13年より現職)。日本ホリスティック医学協会名誉会長、日本ホメオパシー医学会理事長。『帯津三敬病院「がん治療」最前線』(佼成出版社)『不良養生訓』『八十歳からの最高に幸せな生き方』(共に青萠堂)など著書多数。
小澤竹俊
おざわ・たけとし――昭和38年東京都生まれ。62年東京慈恵会医科大学医学部卒業。平成3年山形大学大学院医学研究科医学専攻博士課程修了。救命救急センター、農村医療に従事した後、6年より横浜甦生病院内科・ホスピス勤務。ホスピス病棟長を経て18年めぐみ在宅クリニックを開院。27年有志と共にエンドオブライフ・ケア協会設立。著書に『あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる』『もしあと一年で人生が終わるとしたら?』(共にアスコム)など多数。
編集後記
患者さんの命に寄り添う真の医療を目指す帯津三敬病院名誉院長の帯津良一さんと、めぐみ在宅クリニック院長の小澤竹俊さんにご対談いただきました。誰もが避けて通りたい病や死。しかし、その苦しみの中で、それまで見えなかった幸せが発見できるといいます。養生法から死に臨む上での心構えまで、臨床の現場に立ち続けるお二人のお話は人生百年時代をどう生きるかの示唆に富んでいます。

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