幸福な国・日本をいかに実現するか 小堀桂一郎(東京大学名誉教授) 田久保忠衛(杏林大学名誉教授)

世界は激しく揺れ動き、国政は混迷の度を深めている。我が国がこの厳しい試練を乗り越え、真に幸福な国家となるために成すべきことは何か。数々の論説を通じて日本の進むべき道を提言し続けてきた小堀桂一郎氏(左)と田久保忠衛氏(右)が語り合う、幸福な国・日本を実現する道。

国が国民の生命と財産と名誉をしっかり守ってくれること。それこそが日本国民にとって最低限の幸福の条件であるといえます

小堀桂一郎
東京大学名誉教授

〈小堀〉 
きょうは『致知』さんからいただきました「幸福の条件」というテーマに沿って、日本国の幸福を実現する道を探ってまいりたいと思いますが、国内外の情勢は大変厳しいものがございますね。

世界ではアメリカの力が甚しく退潮して、対抗勢力としてのし上がってきた中国、ロシアと共に三極構造を成しております。

中国、ロシアは覇権主義的な野心を露骨に表し始め、ロシアがウクライナへ侵攻し、同様なことを中国が台湾に対して行う可能性が高まっている。日本の安全保障環境はかつてないほど脅かされております。

ところが、日本国民はなぜか切迫した危機感を抱いていない。戦後78年続いた平和に慣れ切ってしまって、他国の脅威に対して極めて鈍感になっているのですね。いざとなったらアメリカが助けてくれると思い込んでいるのでしょうが、いまのアメリカはとても頼りになるとは思えません。

〈田久保〉 
世界では既に崩壊した戦後レジーム(第二次世界大戦後に確立された世界秩序)を、日本はいまだに引きずっているわけです。

戦後の世界は米ソ冷戦構造が壊れた後、アメリカ一極体制になりました。その後、小堀先生がおっしゃるように中国などの中級国家がどんどん国力を高めてきてアメリカの相対的弱体化が始まり、さらにアメリカの絶対的弱体化が顕在化し始めた。日本はいま、核を持った三つの国家、すなわち中国、ロシア、北朝鮮に囲まれた世界最悪の安全保障環境に置かれています。にも拘らずアメリカへの依存心を拭い切れず、全く緊張感を持てずにいるのが現状だと思います。

戦後の日本人は、国を守ることから目を背け、物質的な幸福ばかりを追い求めるようになってしまいました

田久保忠衛
杏林大学名誉教授

〈小堀〉 
ちなみにアメリカの国内では、主義の異なる国民同士がお互いの主張をぶつけ合い、社会の分断が進んで国の弱体化に拍車をかけております。アメリカのデモクラシーというのは元来こうした弱点を抱えていたのでしょうか。それともこれは近年新たに露わになった破綻なのでしょうか。

〈田久保〉 
確かにアメリカの民主主義は悪い方向へ向かい始めています。民主主義には復元力があって、あまりにも酷い状態になると健全な状態に戻そうとする力が働き始めるものですが、アメリカにはまだその兆しが見えず、社会の分断がどんどん進んでいます。

アメリカの建国は1776年ですが、それ以前の1619年にオランダの商人によってバージニアのジェイムズタウンに初めて黒人が上陸した時を建国記念日として歴史を書き直せという声が高まってきたり、ヒスパニック系やアジア系など様々な立場の人が独自の主張を始めて社会が分裂し、貧富の差が広がるなど、国は急速に力を失いつつあります。

G7でも、かつてはアメリカが強力なリーダーシップを発揮していましたが、いまではその影響力も薄れて指導者の一人に成り下がっていますね。

ですから日本は……(続きは本誌にて)

プロフィール

小堀桂一郎

こぼり・けいいちろう――昭和8年東京生まれ。33年東京大学文学部独文学科卒業。36~38年旧西ドイツ・フランクフルト市ゲーテ大学に留学。43年東京大学大学院博士課程修了、文学博士。東京大学助教授、同教授、明星大学教授を歴任。現在は東京大学名誉教授。著書に『さらば東京裁判史観』(PHP研究所)『皇位の正統性について』(明成社)『歴史修正主義からの挑戰』(経営科学出版)など。

田久保忠衛

たくぼ・ただえ――昭和8年千葉県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、昭和31年時事通信社に入社。ハンブルク特派員、那覇支局長、ワシントン支局長、外信部長などを務める。平成4年から杏林大学社会科学部(現・総合政策学部)で教鞭を執り、22年より現職。国家基本問題研究所副理事長。日本会議会長。著書に『新しい日米同盟』(PHP新書)『激流世界を生きて』『憲法改正、最後のチャンスを逃すな!』(共に並木書房)など。


編集後記

東京大学名誉教授の小堀桂一郎さんと杏林大学名誉教授の田久保忠衛さんには、核を保有する三つの国に囲まれ、世界最悪の安全保障環境に置かれた日本の問題点を指摘していただきました。「日本国民は世界で一番幸福になり得る条件を備えている」。小堀さんのこの発言を世界に実証してみせるためにも、一人ひとりが危機感を持って難局を乗り越える国づくりに貢献していきたいものです。

2023年10月1日 発行/ 11 月号

特集 幸福の条件

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