6 月号ピックアップ記事 /対談
日本一への軌跡の詩 大八木弘明(駒澤大学陸上競技部総監督) 高原良明(岡山学芸館高等学校サッカー部監督)
誰もが日本一を目指して鎬を削る中、勝利の栄冠に輝くチームに共通するものはあるのだろうか。
今年1月、共に初の栄光を掴んだチームがある。駒澤大学陸上競技部は歴代5校目、悲願の大学駅伝三冠を達成。岡山学芸館高校サッカー部は岡山県勢として初の全国制覇。それぞれ指導に当たった大八木弘明氏と高原良明氏に、日本一への軌跡、人生を貫くものを語っていただいた。
チームを勝利に導けるかどうかは指導者の考え次第。ノウハウは長年やっていれば身につきます。ですが、最後の最後で勝利を掴むためには、指導者が本気でなければいけません
大八木弘明
駒澤大学陸上競技部総監督
〈高原〉
それにしても今回の三冠達成には、並々ならぬ思いがあったのではないでしょうか?
〈大八木〉
昨年の箱根駅伝が終わった時点で、選手層が厚くなってきているので来年度は三大大学駅伝〔出雲駅伝(10月)、全日本大学駅伝(11月)、箱根駅伝(1月)〕で三冠を狙えるかもしれないという話を選手たちにしました。すると4月に入って選手のほうから今年1年間のスローガンは何が何でも三冠を取ることだと掲げてきてくれたんです。これまで28年間駒澤大学で指導をしてきて、選手自身が自ら発心して三冠を目指すと公言してきたのは初めてでした。強い決意を感じて、私もその思いに全力で応えようと覚悟を持って挑んだ一年となりました。
私は結構欲張りなところがありまして、駅伝だけではなく個人種目でも結果を出させてあげたいと常々考えています。昨年は世界陸上が開催された年でしたので、世界の舞台にも連れて行きたかった。結果的に二人を出場させることができたものの、試合を終えて帰国すると体調を崩す選手が出てしまい、夏合宿時のチームの状態はあまりよくありませんでした。
ここで一度切り替え、子供たちのやる気を引き出さなければと危機感を抱き、本当はもっと後に伝えるつもりでしたが、今年度で監督を引退する旨を選手たちに初めて打ち明けました。「もう俺は今年で辞めるんだ。そのつもりで死ぬ気でやっている。だからお前たちもその気持ちで打ち込んでほしい」と。その思いに上級生、特に4年生が本気になってくれました。
サッカーだけでなく人生も、何事においても耐えて勝つ。苦しい思いをして初めて、乗り越えた時に素晴らしい景色を見ることができると思っています
高原良明
岡山学芸館高等学校サッカー部監督
〈大八木〉
今回の優勝は岡山勢としても初の快挙で、先生にとっても指導に携わって20年目にして掴んだ栄光だったそうですね。
〈高原〉
といっても、優勝した瞬間もいまも、あまり日本一という実感はありません。決勝戦の直前も不思議と緊張感はなく、ロッカールームで選手も僕も非常にリラックスして臨むことができました。
今回のリーグ戦が始まる前、選手たちに以前『致知』に掲載されていた"博多の歴女"と呼ばれる白駒妃登美さんの「天命追求型の生き方・目標達成型の生き方」という考えについて話しました。
天命追求型とは将来の目標に縛られることなく、いま自分の置かれた環境でベストを尽くすという考え方です。それを続けていくと天命に運ばれ、自分では予想もしなかった高みに到達できる。
初めはベスト4を目標に戦っていたため、無事にベスト4入りが確定した日の夜のミーティングで、この話を再度共有しました。目標達成はしたけれど、もう一つ天命に従って戦うならば、とにかく次の一戦、目の前の試合に全力で戦うしかないよなと。
〈大八木
その考えがチームの共通認識になっていたからこそ、ベスト4で満足せず日本一まで上り詰めることができたのでしょうね。
プロフィール
大八木弘明
おおやぎ・ひろあき――昭和33年福島県生まれ。52年高校卒業後、小森印刷(現・小森コーポレーション)入社。58年24歳で駒澤大学夜間部に進学。3度の箱根駅伝出場(2度の区間賞)を果たす。平成7年駒澤大学陸上競技部コーチに就任。14年助監督、16年監督に就任。令和3年箱根駅伝で13年ぶり7度目の優勝に輝く。令和4年度の大学3大駅伝で3冠達成。5年3月監督を勇退し総監督へ。コーチ時代も含め「大学3大駅伝」で通算27回優勝に導いた。著書に『必ずできる、もっとできる。』(青春出版社)など。
高原良明
たかはら・よしあき――昭和54年福岡県生まれ。東海大学3年次に総理大臣杯優勝。卒業後、岡山国体を見据えた強化選手に選ばれ、Jリーグ加盟前のファジアーノ岡山でプレー。平成15年現役を続ける傍ら、岡山学芸館高校サッカー部コーチに就任。20年現役を引退し、22年同部監督に就任。24年初めてインターハイに出場。令和4年度の全国高校サッカー選手権大会にて初優勝を掴む。
編集後記
駒澤大学陸上競技部総監督の大八木弘明さんと岡山学芸館高校サッカー部監督の高原良明さんは、共に『致知』の愛読者。お二人は今年1月、史上5校目の駅伝三冠と岡山県勢初の全国制覇にそれぞれ導きました。お互いに共感されるところも多く、謙虚に学び合う姿勢が印象的でした。
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