人生における成功とは何か 髙島宏平(オイシックス・ラ・大地社長) 鳥羽周作(sioオーナーシェフ)

食品販売サイト「Oisix」を26歳の時に起業し、国内最大規模の定期購入サービスに育てあげた社長の髙島宏平氏。31歳から料理の道に進み、40歳でミシュランガイド東京2020にて一つ星を獲得したsioオーナーシェフの鳥羽周作氏。異なる人生を歩んできた2人がそれぞれの生き方を通じて掴んだ「人生における成功」とは——。

降りかかる問題は選べないが、問題を解く態度は選べる、そう覚悟が決まると、どんな困難がやってきても、気持ちの上で負けることはなくなりました

髙島宏平
オイシックス・ラ・大地社長

〈高島〉
僕はよく、「降りかかる問題は選べないが、問題を解く態度は選べる」と言っています。

起業して道なき道を進むことを選んだのだから災難が降りかかってくるのは当たり前。そしてどうせこの道を進まなければいけないのなら、文句を言いながら進むのではなく、「よし! また険しい坂が来た」と思えるかどうか。降りかかる問題は選べないが、問題を解く態度は選べる、そう覚悟が決まると、どんな困難がやってきても、気持ちの上で負けることはなくなりました。

昔から、山の頂に立ちたいと願って、無我夢中で登り続けてきたんですけど、最近、自分が好きなのは頂ではなくて、純粋に登ること、つまり坂自体が好きなんじゃないかと思うようになりました。山頂に辿り着いたと思っても、登っている途中にもっと高い頂が遠くに現れる。僕たちは「食の社会課題をビジネスの手法で解決する」という終わりのない山を登っているので、山頂は見えません。でも、目の前にずっと坂が続いているいまこの瞬間が幸せなんです。

さっきの鳥羽さんの話もそうですけど、坂があると目の前のことに夢中になれますよね。僕は人生における夢中率を最大化したいんです。起きている時間のうち、夢中になっている時間を限界まで上げられたら自分の人生は成功ではないか、そう考えています。

〈鳥羽〉 
僕もよく、なんでそんなにモチベーションが高いんですか? と聞かれるんですけど、それはゴールがないからなんですよ。「おいしいで世の中を幸せにする」という理念を掲げていると、例えば「売り上げが100億円に到達したらゴールか」「1億人を幸せにしたら終わりか」と考えると、そうではないじゃないですか。もう延々と終わらない課題、満足することがない状態を追い求めているから、モチベーションを維持できているのだと思います。

ゴールのない課題、満足することがない状態を追い求めているから、モチベーションを維持できているのだと思います

鳥羽周作
sioオーナーシェフ

〈鳥羽〉
僕は一昨年大きな決断をしました。それが、「厨房を離れる」という覚悟です。

〈髙島〉 
オーナーシェフが料理をつくらない?

〈鳥羽〉 
そう。信頼する仲間にすべてを任せて、僕は僕にしかできないことをやろうと。

ミシュラン一つ星を取った後、僕たちはこれから何を目指していくべきかいろいろ考えました。二つ星、三つ星とさらに上を追い求めていくのか、それともミシュランを取った店にしかできない何かをやっていくのか。

その時に、「世の中を〝おいしい〟で幸せにしたい」という思いが沸々と湧き上がってきました。ミシュランで星を取って、予約の取れない店だと注目を浴びているけれど、1日20人しか入れないレストランで予約待ちをさせてお客様に料理を提供することだけが価値あることじゃないよなと。

店のブランドデザインを手掛けていただいている水野さんの意見も大きかったのですが、水野さんがある講演で、「格好いいデザインをつくることはできるけど、皆に愛されるデザインのほうが尊くてもっと格好いい」とおっしゃっていたんです。つまり、一時的な人気を集めるよりも、ビートルズやサザンオールスターズのように、時代を超えて多くの人に愛される存在こそが格好いいと。

〈髙島〉 
広く愛され続けるものこそが本物だと。

〈鳥羽〉 
40代って一番脂がのっている時期じゃないですか。そこで厨房に立たないという選択をして、自分にしかできないものは意思決定だけという組織をつくりあげたことは、僕自身にとっても会社にとっても1つ大きな節目だったと思います。

プロフィール

髙島宏平

たかしま・こうへい――昭和48年神奈川県生まれ。東京大学大学院工学系研究科情報工学専攻修了。大学院時代にベンチャー企業を立ち上げる。平成10年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。12年6月オイシックス創業。25年東証マザーズ上場の後、令和2年1部指定替え(現在プライム市場)。平成23年日経ビジネス主催「CHANGE MAKERS OF THE YEAR 2011」受賞。令和2年「EYアントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2020 ジャパン」の日本代表に選出。3年より経済同友会副代表幹事に就任。著書に『ぼくは「技術」で人を動かす』(ダイヤモンド社)など。

鳥羽周作

とば・しゅうさく――昭和53年埼玉県生まれ。Jリーグの練習生、小学校教員を経て、31歳で料理人の世界へ。平成30年東京・代々木上原にオープンしたレストラン「sio」は、ミシュランガイド東京2020から3年連続で一つ星を獲得。その他「o/sio」「純洋食とスイーツパーラー大箸」なども運営。令和3年より松屋の公式アンバサダー、ユーグレナのコーポレートシェフも務める。TV、書籍、YouTube、SNSなどでレシピを公開し、レストランの枠を超えて「おいしい」を届ける。著書に『本日も、満席御礼。』(幻冬舎)など。


編集後記

初対面時から意気投合し、様々なコラボ企画を実施しているオイシックス・ラ・大地社長の髙島宏平さんとsioオーナーシェフの鳥羽周作さん。そんな二人が今回初めてお互いの足跡や仕事観について語り合いました。そこにはゼロから事業を興していくヒントが満載です。

2022年9月1日 発行/ 10 月号

特集 生き方の法則

バックナンバーについて

致知バックナンバー

バックナンバーは、定期購読をご契約の方のみ
1冊からお求めいただけます

過去の「致知」の記事をお求めの方は、定期購読のお申込みをお願いいたします。1年間の定期購読をお申込みの後、バックナンバーのお申込み方法をご案内させていただきます。なおバックナンバーは在庫分のみの販売となります。

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~17:30(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い

閉じる