9 月号ピックアップ記事 /インタビュー
陶芸の道、限りなし~93歳現役の人間国宝に聞く~ 井上萬二(陶芸家)
93歳のいまなお現役を貫く有田焼の陶芸家・井上萬二氏。15歳で予科練に入隊し、終戦を迎えた後、17歳より陶芸の修業の道に入り、42歳で独立。66歳の時に人間国宝(重要無形文化財保持者)に認定された。今日に至るまで、いかにして技と心を磨き高めてきたのか。その心懸けと実践の軌跡を辿ると共に、人生を変えた出逢い、運を掴むために大切なこと、よいアイデアを生み出す秘訣、伸びていく人と途中で止まってしまう人の差、健康長寿の要諦などに迫った。
よい焼き物には雑念がない。創り手に雑念があるうちは名陶を生み出すことはできない。
だから技と心を磨き続ける。この「名陶無雑」の境地を目指して、いまも努力を続けている最中です
井上萬二
陶芸家/人間国宝
――93歳いまなお現役を貫く人間国宝の陶芸家が有田町(佐賀県)におられると伺い、やってまいりました。
〈井上〉
確かに満93歳ですが、私は「ようやく39歳になりました」と言っているんです(笑)。
93歳といっても、ちゃんと朝8時から夕方5時まで、週6日間勤務して作陶に励んでおります。
日曜は来客の応対をしたり事務的なことをしたり、あるいは美術館へ展覧会を観に行って構想を練ったり。ですから、休みなく毎日働いていますよ。
――まさしく仕事と一体になっていらっしゃいますね。
〈井上〉
そういう生活を続けられているのは、運よく親が健康に産んでくれたこと。また、その時その時に鍛錬と精進を積み重ねてきたからです。
特に、15歳前後の若い時期に海軍での過酷な訓練を通して、強靭な体力と精神力を叩き込まれた。もちろん戦争は絶対にあってはならないけれども、人間形成という点では本当にかけがえのない経験だったと思うんです。
戦後、陶芸の修業を始めてからは、「域に達する」というのは限りがないけど、何の道でも「切り」っていうのはある。
一日でも早く一歩でも早く、そこに到達しようと思って、月月火水木金金で人並み以上に努力したんです。
17歳でこの道に入って、気づけば今年で76年。そういう精神でひたすら仕事に打ち込んできました。それが身体に染みついて、いまだにずっと続いているわけです。
――仕事に打ち込む、それ自体が健康の秘訣なのでしょうか?
〈井上〉
やっぱり仕事をしている時が一番健康的ですよ。93歳になっても若い者に負けないくらい、まだボケもしないし、溌剌としているし、発想も湧いてくる。
展覧会場で「なんでそんなに元気なんですか。秘訣を教えてください」とよく聞かれるので、「恋してますから」って言うんです(笑)。冗談半分ですけど、仕事とは死ぬまでが恋なんですね。
プロフィール
井上萬二
いのうえ・まんじ―昭和4年佐賀県生まれ。15歳で海軍飛行予科練習生に入隊。復員後、17歳で柿右衛門窯に弟子入りし、初代奥川忠右衛門に師事。県立有田窯業試験場での勤務、米国ペンシルべニア州立大学の焼物の講師を経て、46年に独立し、現在の井上萬二窯を開く。平成7年重要無形文化財指定(人間国宝)に認定される。9年紫綬褒章受章、15年旭日中授章受章。活動は国内だけに留まらず、アメリカ、ドイツ、ハンガリー、モナコ、ポルトガル、ポーランドなど、世界各国で多数の個展を開いている。現在、日本工芸会参与、有田町名誉町民。
編集後記
佐賀空港から車で約1時間半、陶磁の里・有田町に窯を構える井上萬二さんを訪ねました。93歳とは思えないほど矍鑠としており、2時間近くにわたって本誌の質問に淀みなく答える様はまさに圧巻。実体験を通して生まれた含蓄に富む金言の数々に心を打たれずにはいられません。
※7ページにわたるトップインタビューには、
・予科練で学んだ「忠孝の精神」
・下積みの6年間で徹底的に技を盗む
・人生を変えた師匠との出逢い
・運を掴むには人並み以上の努力をせよ
・後継者だったご子息との別れ――人生最大の苦難をどう乗り越えたか
・仕事をすればするほどアイデアは浮かぶ
・伸びていく人は○○が違う
・「名陶無雑」の境地を目指して
など、あらゆる仕事に通底する教えが満載!
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