運命を受け入れて生きたベートーヴェンに学ぶもの 平野 昭(音楽学者)

楽聖・ベートーヴェン。音楽家にとって生命線である聴力を失いながらも、数々の傑作を残した偉業は多くの人が知るところである。フランス革命が勃発した激動の時代を生き、幾多の絶望と苦悩を乗り越えた生涯を、長年ベートーヴェン研究に当たる平野昭氏に語っていただく。この年末に生誕250周年を迎えるベートーヴェンの生き方が教えてくれるものとは——。

勇気を出せ。たとえ肉体に如何なる欠点があろうとも、我が魂はこれに打ち勝たねばならない。25歳、そうだ、もう25歳になったのだ。今年こそ、男一匹、本物になる覚悟をせねばならない——ベートーヴェンが日記に綴った言葉

平野 昭
音楽学者

 ベートーヴェンの生涯を辿る上で重要なのが、彼が生まれ育った環境と、当時のヨーロッパの時代背景です。1770年12月16日、神聖ローマ帝国のボン(旧西ドイツ時代の首都)で生まれます。父はボン宮廷楽団の楽士、祖父は宮廷楽団の楽長を務めた音楽一家で、幼少期よりスパルタ教育を受け育ちました。アルコール依存症を患った父親に深夜叩き起こされ、夜通し特訓をさせられたエピソードはよく知られるところでしょう。
 当時のヨーロッパ、とりわけフランスでは王侯貴族が経済的に破綻し、それがフランス革命へと繋がっていくのですが、周辺国も例外ではありませんでした。宮廷楽団楽士であったベートーヴェンの父も酒に溺れていたこともあり、宮廷楽団から解雇され失職しました。
 ベートーヴェンより14年早く生まれたモーツァルトが6歳から演奏会をしていた事実を知った父は対抗意識を燃やし、ベートーヴェンが七歳の時に音楽家としてデビューさせました。そして11歳の時に宮廷オルガン奏者のネーフェ先生の推挙によって、作品集を出版し、その後も宮廷オルガンの代理演奏を任されるなど天賦の才を遺憾なく発揮します。そしてそこで得た給料で父に代わって一家を支えたのでした・・・・・・

プロフィール

平野 昭

ひらの・あきら―昭和24年神奈川県生まれ。武蔵野音楽大学大学院修了。西洋音楽史及び音楽美学領域、18~19世紀ドイツ語圏器楽曲の様式変遷を研究。特にハイドン、モーツァルトからベートーヴェン、シューベルトに至る交響曲、弦楽四重奏曲、ピアノ・ソナタを中心にソナタ諸形式の時代様式及び個人的特徴を研究。沖縄県立芸術大学、静岡文化芸術大学、慶應義塾大学教授を歴任。著書に『ベートーヴェン』(新潮社)など多数。


編集後記

難聴に苦しみながらも自らの運命を受け入れ、数々の名曲を残したベートーヴェン。音楽学者の平野昭さんが当時の時代背景を踏まえて語るベートーヴェンの生涯に、苦境を乗り切るヒントを探ります。

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