2 月号ピックアップ記事 /対談
愛語能く廻天の力あるを学すべきなり 大谷哲夫(東北福祉大学学長) 境野勝悟(東洋思想家)

厳しい禅の修行を経て「身心脱落」の究極の境地を得て日本曹洞宗開祖となった道元。その残した言葉は没後八百年近く経ったいまなお、多くの人たちの心を鼓舞し潤し続けている。道元の言葉の持つ魅力や力について東北福祉大学学長の大谷哲夫氏と東洋思想家の境野勝悟氏に語り合っていただいた。

「愛語能(よ)く廻天の力あるを学すべきなり」
道元
どうげん――正治2(1200)年~建長5(1253)年。鎌倉時代初期の禅僧。13歳で出家し、1223年入宋。1225年如浄と相見し、その2年後に帰国。1244年越前に大仏寺(後の永平寺)を開堂。

道元禅師が我われと違うところは、挫けそうになりながらも決して姑息な解決策を求められないんです。その姿勢は終生変わることがない。
大谷哲夫
東北福祉大学学長
混迷の時代は極端な悲観論だとか、根拠のない楽観論がどうしても生まれがちなのですが、いかなる時代であっても確固たる自己の目でありのままを正しく見据える姿勢を我われは道元禅師に学ぶべきではないでしょうか。

こうして呼吸をしているのも二本足で歩くのも、物を食べて消化するのも山河大地、大自然の力なんですね。頭で考えて動かしているわけではない。
境野勝悟
東洋思想家
坐禅を始めた頃、自分の呼吸を感じなさいとよく言われました。呼吸というのは生まれてから今日まで一瞬も休むことがない。今後も命が絶えるまで休むことがない。そこに命の働きがあるわけです。
そして、そういうことを知ることによって私たちが抱える悩みや欲望は少しずつ減っていくのではないかと思います。
プロフィール
境野勝悟
さかいの・かつのりー昭和7年神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、私立栄光学園で18年間教鞭を執る。48年退職。こころの塾「道塾」開設。駒澤大学大学院禅学特殊研究博士課程修了。著書に『日本のこころの教育』『方丈記 徒然草に学ぶ人間学』(致知出版社)『心がスーッと晴れる一日禅語』(三笠書房)など多数。
大谷哲夫
おおたに・てつおー昭和14年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院文研東洋哲学専攻修了。駒澤大学大学院博士課程。曹洞宗宗学研究所講師を経て、駒澤大学に奉職。同大学教授、副学長、学長、総長、都留文科大学理事長を歴任。平成28年東北福祉大学学長に就任。長泰寺住職。著書に『祖山本 永平広録 考注集成(上・下)』(一穂社)『永平の風 道元の生涯』(文芸社)『日本人のこころの言葉 道元』(創元社)など多数。
編集後記
永平寺を創建した鎌倉時代の禅僧・道元が残した含蓄ある数々の言葉は、いまもなお人々の心を潤し続けています。東北福祉大学学長の大谷哲夫さんと東洋思想家の境野勝悟さんには道元の歩みや教えを交えながら、心に残る言葉を紹介いただきました。道元の知られざる一面についても語られており、興味は尽きません。

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