2 月号ピックアップ記事 /対談
「パッション」によって切り開いた我が人生 堀木エリ子(和紙デザイナー) 西本智実(指揮者)
「パッション」、この言葉は主に「情熱」という意味で使われるが、語源であるラテン語には「受難」、つまり困難を受けるとの意味もあるという。共に世界で活躍する和紙デザイナーの堀木エリ子氏と指揮者の西本智実氏が語り合う、一道に懸ける情熱、困難への向き合い方、そして仕事を通じて掴んだ成功の要諦――。
使命感に突き動かされ、決心と覚悟が定まりました
堀木エリ子
和紙デザイナー
堀木
私は、チャレンジはすごく大事だと思っていて、「昨日よりはきょう、きょうよりは明日」と、自分であえて高いハードルを設定しています。営業活動は一切しておらず、すべてお客様からの依頼にお応えする仕事ですが、その要望に必死に応えようと創意工夫をしていることが、結果的に新しい技術への挑戦に繋がりました。
例えば1998年に立体和紙という技術を生み出しましたが、これも、ある建築家から「卵型の和紙の照明器具をつくってほしい」という依頼があってのことです。
最初は竹ひごや針金で骨組みをつくり、平面の和紙をちぎって糊で貼って卵型をつくりました。でも何かつまらない。これであれば、提灯屋さんのほうが上手につくれるかもしれないし、照明器具メーカーさんのほうが安くつくれるかもしれない。そう思って、できあがった卵をちらちらと横目で見ながら、しばらく違う仕事をしていたんです。するとある日、「卵に骨はない」と気がついて。
西本
確かに、骨はありませんね。
堀木
なぜ骨組みをつくっていたんだろうと思った瞬間から、新しい技術への挑戦が始まりました。
糊も骨組みも使わずに和紙を立体的にする。前例のない挑戦でしたが、試行錯誤を重ねて一か月ほどで立体和紙の手法を確立することになりました。いまではどんな形でも自由な曲面を生み出すことができます。
突き動かされる情熱は尽きることはありません
西本智実
指揮者
西本
裏方見習いを三公演している最中に、「実は副指揮者も足りないので、まずは副指揮のアシスタントをやらないか?」と声を掛けてくださったんです。20歳頃でした。
初めは、役に立てていないことを休憩中のトイレで泣いたこともありましたが、現場の先輩たちにいろいろと教わり、徐々に副指揮者として仕事を任せてもらえるようになりました。
堀木
大勢の学生の中で、西本さんに声が掛かったというところが、まずすごいことですよね。
西本
本当に人手が足りなかったから(笑)。
堀木
いやいや、それだけではないと思います。
西本
チャンスの瞬間はいつも急で、「代わりにピアノを弾いて」とか「えっ!」と思うような、準備をしていないことばかりでした。そこで「できません」と言っていたら、次はなかったのかもしれません。そもそも現場では目の前の仕事で精いっぱい。自分で手を挙げる発想すらなかったのですが、きっかけを与えていただき、思いきって挑戦してみたら、また次の機会を与えていただいた。それが続きました。
プロフィール
堀木エリ子
ほりき・えりこ――昭和37年京都府生まれ。高校卒業後、住友銀行(現・三井住友銀行)入行。62年呉服問屋に入社し、和紙事業部「SHIMUS」を設立。平成12年独立し、(株)堀木エリ子&アソシエイツ設立。和紙インテリアアートの企画・制作から施工までを手掛ける。近年の作品は東京ミッドタウン、成田国際空港第1ターミナルのアートワークの他、バカラとのコラボレーションによるシャンデリア、舞台美術等。著書に『挑戦のススメ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。
西本智実
にしもと・ともみ――昭和45年大阪府生まれ。イルミナートフィル芸術監督。名門ロシア国立交響楽団、旧レニングラード国立歌劇場で指揮者ポストを外国人で初めて歴任。各国を代表するオーケストラ、名門歌劇場、国際音楽祭など約30か国から招聘。平成30年イルミナートフィル中国主要都市8公演を成功に導いた。「出光音楽賞」「国家戦略担当大臣感謝状」他受賞多数。ヴァチカン音楽財団より「名誉賞」を最年少で授与、「広州大劇院名誉芸術家」称号授与。
編集後記
和紙デザイナーとして数多くの新技術を生み出してきた堀木エリ子さん。各国で聴衆を魅了し続ける指揮者の西本智実さん。共に関西で生まれ育ち、世界の舞台へと羽ばたいたお二人にはいくつもの共通点があります。お二人が大切にする「パッション」という言葉はそれぞれの人生観そのものです。
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