9 月号ピックアップ記事 /対談
〈QRコード・顔認証〉世界標準はかくして生まれた 原 昌宏(デンソーウェーブ エッジプロダクト事業部主席技師) 今岡 仁(NECフェロー)

ここに現代社会に欠かせない技術を生み出した2人の日本人技術者がいる。大容量の情報を迅速かつ正確に読み取ることができる二次元コード「QRコード」を開発した原 昌宏氏(写真左)。生体認証の分野では後発だったNECの顔認証技術を世界一の認証精度へと押し上げた今岡 仁氏(写真右)。世界標準の開発に至る道のりは決して一路順風ではなかったというが、いかにして苦境を乗り越え道を切り開いてきたのか。両氏の挑戦の軌跡、人生・仕事の流儀について語り合っていただいた。

人間は夢を持っているからこそ様々なことにチャレンジできます。
目標を究極の高いレベルに置いて追求していく姿勢が思いがけない進化、ブレイクスルーに繋がる
原 昌宏
デンソーウェーブ エッジプロダクト事業部主席技師
〈原〉
きょうは今岡さんとお話しすることを楽しみにしてきました。
〈今岡〉
僕もです。実は、原さんとは今年3月に初めてお会いしたばかりなんですよね。
〈原〉
ええ。日本科学未来館で行われた「友技の会」が最初でした。
〈今岡〉
友技の会は、技術開発の最前線を走る者同士が情報を共有する場として、僕が2年前に立ち上げたコミュニティです。TOTOフェローの北角俊実さんやIBMフェローを務められていた浅川智恵子さんをはじめ、錚々たる方々が集って年4回ほど会議を開いています。
会を重ねる中でもう少し人数を増やしたいと思った際、真っ先に頭に浮かんだのが原さんでした。QRコードを開発した偉大な技術者にいつかお会いしたいと思っていましたから。そうしたら、北角さんが「知っているよ」とすぐに紹介してくださいました。
〈原〉
僕も以前から一度お目にかかりたいと思っていたので、喜んでお引き受けました。

「人間万事塞翁が馬」という言葉があるように、晴れの日も雨の日も一喜一憂するのではなく、泥臭く挑戦と失敗を繰り返す。
その積み重ねの先に、自分自身の武器が磨かれていく
今岡 仁
NECフェロー
〈今岡〉
原さんの第一印象は、とにかく謙虚のひと言に尽きます。革命的な発明を成し遂げた人ですから、勝手にギラギラした人を想像していました(笑)。
ところが、実際に話をすると威張ったり、実績をひけらかしたりする素振りが一切ない。本当にすごい人だなと。
〈原〉
いやいや、とんでもない。QRコードと顔認証は、技術的には画像認識の分野で共通しています。だから、世界トップの地位を維持する難しさが分かるんですよ。
開発でストレスが溜まる分、きっと気難しい人なんだろうなと思っていたら、いまのようなソフトな語り口調で非常に接しやすい。すっかり意気投合して、会議の後に2人で飲みに行きましたね。
〈今岡〉
そこから今回の対談の機会までいただけて、大変光栄です。それにしても、QRコードを街中で見かけない日はありませんね。
〈原〉
おかげさまで、僕たちの会社にはQRコードを使ってこういうことをやってみたいという要望が各方面から寄せられていて、現在はその実現方法を考える用途開発の仕事に取り組んでいます。
AIの進歩に応じて社会のニーズも目まぐるしく変化する現代社会だからこそ、常にアンテナを張り、社会課題に即した技術を開発することが重要になると思っています。……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全10ページ(約14,000字)~
◇技術開発の最前線を走り続けて
◇「蒔かぬ種は生えぬ」
◇パズルと山登りに明け暮れた学生時代
◇現場体質の原点
◇退路を断って挑んだ2年間の勝負
◇32歳で踏み入れた顔認証の世界
◇泥臭い努力で掴んだ世界の頂
◇QRコード誕生秘話
◇あえて捨てて、陣地を広げる
◇世界で勝ち続けるために心懸けた3つのこと
◇人間万事塞翁が馬 夢なき者に成功なし
プロフィール
原 昌宏
はら・まさひろ――昭和32年東京都生まれ。55年法政大学工学部卒業後、自動車部品大手デンソーに入社。バーコードリーダーの開発に従事。平成6年漢字など大容量のデータを高速で読み取れるQRコードを開発。13年より組織改編に伴ってグループ会社のデンソーウェーブに所属。平成26年QRコードの開発チームと共に欧州発明家賞受賞。令和5年日本学士院賞・恩賜賞受賞。
今岡 仁
いまおか・ひとし――昭和45年東京都生まれ。平成4年大阪大学工学部卒業。9年大阪大学大学院博士課程修了。同年NEC入社。14年より顔認証の研究開発に取り組み、米国国立標準技術研究所主催ベンチマークテストにて、NEC顔認証技術を世界No.1評価へ導く(2009年、2010年、2013年、2017年、2019年)。令和元年より現職。著書に『顔認証の教科書:明日のビジネスを創る最先端AIの世界』(プレジデント社)など。
編集後記
QRコードと顔認証。いまや私たちの生活に欠かせない世界標準の技術を開発した原昌宏さんと今岡仁さんにご対談いただきました。お二人に共通するのは、僅か2名の少数精鋭のチームで開発に従事したこと、そして何としても夢を実現させると肚を括り、一歩ずつ前進し続けたバイタリティーです。成功に至るまでの道程から、ビジョンを貪欲に追求していく姿勢が運命を開く鍵になることを教えられます。

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