3 月号ピックアップ記事 /エッセイ
渋沢家を支えた人々の生き方 渋沢雅英(渋沢栄一記念財団相談役)
渋沢栄一が91年の長い生涯で成した偉業の陰には、明治・大正・昭和と激動の日本を共に駆け抜けた家族の存在があった。栄一の曾孫である雅英氏に、渋沢家を支え続けた人々の生き方を伺うことで、時代を超え現代にも通ずる家族のあり方、繁栄の道が見えてくる。
(写真=渋沢史料館所蔵)
私は栄一の齢を越え96歳になりましたが、こうした新しい視点で栄一が再評価されていることを子孫として誇りに思っています
渋沢雅英
渋沢栄一記念財団相談役
昨年は曾祖父・渋沢栄一が大変注目を集めた一年でした。渋沢栄一を主人公にしたNHK大河ドラマ「青天を衝け」は、ストーリーや台詞を忠実に再現した素晴らしい作品でした。
というのも、あの脚本は全68巻、約48,000ページにも及ぶ『渋沢栄一伝記資料』をベースにつくられているからです。この伝記は栄一の家督を継承した孫・敬三が「伝記は将来の人の役に立つ資料としてつくるべき」という信念で30年以上の歳月をかけてまとめた大作です。
敬三は渋沢栄一の長男・篤二のもとに誕生した長男で、私は敬三の長男です。栄一が亡くなった時、曾孫の私は6歳でしたので、直接的な記憶はそれほど多くありません。
子供時代の思い出で強く残っているのが中学生の頃、父に「栄一という人はどれくらい偉いのか」と質問した時のことです。父は後に日銀総裁や大蔵大臣など重職を歴任しますが、その頃も既に様々な要職に就いていたので、冗談交じりに「栄一さんと比べてどうですか?」と聞いてみたのです。
すると、「自分とは全く違う人間で比べ物にならないほど偉い。俺たち近代人は真剣勝負をしたことがないが、栄一は真剣勝負をしてきた人だ」と答えたのです。父親が全く敵わないほど偉いのかと驚くと同時に、仕事に真剣に打ち込んだ栄一の精神にいたく感動しました。
プロフィール
渋沢雅英
しぶさわ・まさひで―大正14年ロンドン生まれ。昭和25年東京大学農学部卒業。39年(財)MRAハウス代表理事に就任。その後、アラスカ大学、ポートランド州立大学で教鞭を執り、平成6年からは東京女学館理事長・館長を務めた。著書に『太平洋にかける橋 渋沢栄一の生涯』(読売新聞社)など多数。
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