3 月号ピックアップ記事 /対談
人生や仕事に生かす渋沢栄一の教え 齋藤 孝(明治大学文学部教授) 守屋 淳(中国古典研究家)
渋沢栄一の活動は経済界のみならず、社会福祉、国際関係、教育、文化など多岐にわたっているが、その膨大な活動の中でも、特にいま我われが学ぶべき渋沢栄一の精神や生き方とは何であろうか——。『論語』や渋沢栄一について数々の著作を執筆された齋藤 孝氏と『論語と算盤』の現代語訳をされた守屋 淳氏、博識なお二人に縦横に語り合っていただいた。
齋藤 孝(左)
明治大学文学部教授
守屋 淳(右)
中国古典研究家
「わしのような老人は、こういうときにいささかなりとも働いてこそ、生きている申し訳が立つようなものだ」
——渋沢栄一
齋藤
私は「仕事や人生に生かす」というテーマで、『論語と算盤』から「勇猛心の養成法」を挙げます。僅か二頁弱の項目ですが、たぶんこの項目を私が日本で誰よりも気に入っていると思います(笑)。というのも、先ほども触れたように私は身体論が専門で、40年近く丹田呼吸法や岡田式静坐法などを研究してきたからなんです。この「勇猛心の養成法」にはこのように書かれています。
「下腹部に力をこめる習慣を生ずれば、心寛く体胖かなる人となりて、沈着の風を生じ、勇気ある人となるのである」
心が広く体が豊かで、落ち着いて勇気のある人になるには下腹部が重要だということ。逆に腰がふらふらして腹が据わっていないのは、人間ができていないことと同義です。この「勇猛心の養成法」は短い項目ですので、ぜひ読んでいただきたいと思います。
守屋
現代を生きる我われがいま改めて渋沢栄一に学ぶべきことを考えますと、私自身が渋沢栄一に最も学んだ精神にも繋がりますが、「しつこさ」だと思うのです。初めにも紹介しましたが、渋沢栄一は日本の近代化や世の中の幸福のために必要だと考えた事業に関しては本当に粘り強くやり抜いています。十年以上赤字を垂れ流していても、何社も同時にやり続ける。もちろん、柔軟さや修正力も重要ですけど、一方で花が開くまでやり続けるしつこさ。このバランスが大切ですよね。
プロフィール
齋藤 孝
さいとう・たかし――昭和35年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て、現在明治大学文学部教授。著書に『齋藤孝のこくご教科書 小学一年生』『国語力がグングン伸びる1分間速音読ドリル』、最新刊に『小学国語教科書』(いずれも致知出版社)がある。
守屋 淳
もりや・あつし――昭和40年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。グロービス経営大学院特任教授。専門は中国古典、および近代日本の実業家。著書に『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)『現代語訳渋沢栄一自伝』(平凡社新書)など多数。
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