日本人の精神の源流を辿る ~日本神話に学ぶ日本人の生き方~ 三浦佑之(千葉大学名誉教授) 池田雅之(早稲田大学名誉教授)

いまから1300年以上前に成立したとされる日本最古の歴史書『古事記』には、「稲羽のシロウサギ」「オホクニヌシの国譲り」など日本人に親しまれてきた神話、物語が数多く収められている。しかしそれらに込められた寓意や成立事情には不明な点も多く、その実像はいまだ定まっていない。
日本神話の研究一筋に歩んできた千葉大学名誉教授の三浦佑之氏と、小泉八雲研究を通して日本人の生き方を見つめてきた早稲田大学名誉教授の池田雅之氏のお二人に、『古事記』の真実、そこから見えてくる豊かな世界を縦横に語っていただいた。

「人間は草である」という発想、生と死は循環するという死生観、人間とは何なのかという問題を考え直していけば、私たちの生き方も変わってくると思うんです

三浦佑之
千葉大学名誉教授

 古代の人々にとって、語り部から神話を聴くという営みは、いまでいう歴史や道徳教育、哲学や文学まですべてを含んだものだったと思うのです。神話からいろんなものを受け入れ、生きる根を養い、それが人生の指針にもなっていった。
「人間は草である」という発想、生と死は循環するという死生観、人間とは何なのかという問題、そこのところを考え直していけば、私たちの生き方も変わってくると思うんです。
 例えば、環境問題でも「自然と共生する」といいますけれど、人間も地球に根を生やした草だと考えれば、私たちもまた自然と一つであるという意識が出てくる。よりよい未来をつくっていくためにも、これからも日本神話、『古事記』の物語を多くの人に伝えていきたいですね。

いま格差や人種差別など、世界的に難しい時代を迎えていますが、『古事記』が教える日本人の自然観、発想からは、今日の世界の対立的な世界観を乗り越える知恵が汲み出せるような気がします

池田雅之
早稲田大学名誉教授

 私たちの生まれ故郷の三重県は紀伊半島にありますが、熊野は文字通り「木の国」であり、草々の生い繁る「根の国」といえるかもしれませんね。いま格差や人種差別など、世界的に難しい時代を迎えていますが、『古事記』が教える日本人のアニミズム(霊的な存在に対する信仰)的な自然観、発想からは、今日の世界の対立的な世界観を乗り越える知恵が汲み出せるような気がします。
 フランスの社会人類学者のレヴィ=ストロースは、「神話は人類最初の哲学である」という言葉を残しています。つまり、神話とは私たちの根っこ、私たちの世界観や生き方そのものであって、自分と世界がどう折り合い、調和を保ち、幸せに暮らしていくのか、そのヒント、エッセンスが詰まったものだと思うんです。

プロフィール

三浦佑之

みうら・すけゆき――1946年三重県生まれ。成城大学大学院博士課程単位取得修了。千葉大学文学部教授を経て、立正大学文学部教授。千葉大学名誉教授。専門は古代文学・伝承文学。2003年に『口語訳古事記』(文藝春秋)で第一回角川財団学芸賞受賞。著書に『古事記講義』(文藝春秋)『古事記のひみつ歴史書の成立』(吉川弘文館)『古事記を読みなおす』(ちくま新書)『NHK「100分de名著」ブックス 古事記』(NHK出版)『出雲神話論』(講談社)など著書多数。

池田雅之

いけだ・まさゆき――1946年三重県生まれ。早稲田大学文学部英文科卒業。明治大学大学院博士課程修了。ロンドン大学大学院客員研究員。専門は比較文学、比較文化論。小泉八雲、T・S・エリオットなど数多くの訳書を手掛ける翻訳家。早稲田大学名誉教授。NPO法人「鎌倉てらこや」理事長を長らく務め、現在は顧問。文部科学大臣奨励賞、正力松太郎賞等を受賞。著書に『NHK「100分de名著」ブックス 小泉八雲 日本の面影』(NHK出版)、編著に『お伊勢参りと熊野詣』『古事記と小泉八雲』(共にかまくら春秋社)『熊野から読み解く記紀神話 』(扶桑社新書)など。


編集後記

日本最古の歴史書、神話である『古事記』。そこには日本人の原点、よりよく生きるヒントがぎっしり詰まっています。日本神話研究一筋に歩んできた千葉大学名誉教授の三浦佑之さんと、日本文化に深い見識を持つ早稲田大学名誉教授の池田雅之さんが、『古事記』から見えてくる心豊かな日本人の姿を解き明かします。

2020年10月1日 発行/ 11 月号

特集 根を養う

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