トイレ掃除が子供たちを変え社会を変える 竹花 豊(元警察庁生活安全局長) 竹内光弘(元広島県警本部少年育成課長)

かつて「暴走族の街」という不名誉なレッテルを貼られていた広島。現在、街の治安は警察と県民の懸命の努力によって見違えるほど回復したが、その原動力となったのがトイレ掃除の実践活動であった。これまであまり顧みられることのなかったこの尊い営みが持つ可能性について、現地で青少年健全育成活動に尽力した竹花 豊氏と、竹内光弘氏に語り合っていただいた。

掃除には人の心を磨き、育てていく力があります。それだけでなく、社会を変える力がある

竹花 豊
元警察庁生活安全局長

 掃除には人の心を磨き、育てていく力があります。それだけでなく、社会を変える力があることも私は強調しておきたいですね。
 その背景にあるのが、掃除の伝播力です。活動を見た多くの人が感心して参画してくれるんです。私が驚くのは、鍵山さんがたった一人でお始めになったトイレ掃除が、いまでは世界各国に「輸出」されていることです。
 私は一昨年、ルーマニアの掃除に学ぶ会に参加しました。最初は、外国の方々が我われと同じようにトイレ掃除をする姿を想像できませんでした。けれども向こうでも日本と何ら変わらず、皆が一緒に汗を流しながら「掃除はいい」と語り合っている姿を見て感動しました。
 やっぱり自分が汚したものを自分で綺麗にするのは当たり前で、そこに何の疑問を差し挟む余地もないと思うんです。掃除というのはそういう普遍性があるから、世界のどんな国や地域でも広がり続けていく。そうしたトイレ掃除のよい効果を引き出す上で大切なことは、長くやっていくことだと思います。

掃除の実践によって、幸せは日常生活のほんの小さなところにあることに気づかされます

竹内光弘
元広島県警本部少年育成課長

 掃除に学ぶ会では、臭くて汚いトイレを素手で磨きます。最初はとてもできないと思いますが、やり始めるとだんだん本気になるんですね。黄色い水垢がみるみる取れてピカピカに光り、臭いもなくなっていく。トイレ掃除に参加したある小学生は「あぁ、空気がおいしい」と喜びの声を上げておりました。
 そして最後に水を流して拭き取ると、素晴らしい達成感、充実感が与えられます。私たちは普段、お金、地位、名誉を追い求め、果てしない欲望の世界に埋もれてしまいがちだけれども、幸せは日常生活のほんの小さなところにあることに気づかされ、人生観、価値観がガラリと変わっていくんです。
 鍵山さんは「自分の名誉のため、虚栄心を満たすためにやっていては成果は出ません。自分の欲望を満たすための努力をしても、世のためにならないし、それで人を喜ばすことはできない。欲望のための努力は何の意味もないのです」とおっしゃっています。
 トイレ掃除に参加した学校の生徒からは、「自分の磨いたトイレを皆が気分よく使ってくれることを想像したら嬉しくなる」という声も上がります。人のためになること、人に喜ばれることが、こんなにも気分がよくなることに繋がるのだと気づかされ、そのことを通じて心の根も養われるんです。

プロフィール

竹花 豊

たけはな・ゆたか――昭和24年兵庫県生まれ。48年東京大学法学部卒業、警察庁に入庁。平成2年警察庁刑事局捜査二課暴力団対策室長、4年同生活安全局薬物対策課長、6年大分県警本部長、8年警視庁地域部長、9年警察庁官房参事官、11年警視庁生活安全部長、13年広島県警本部長を歴任。15年東京都副知事。17年警察庁生活安全局長。19年警察庁退官。東京都教育委員、東京ビッグサイト社長等を務める。著書に『子どもたちを救おう』(幻冬舎)がある。

竹内光弘

たけうち・みつひろ――昭和19年広島県生まれ。39年広島県警警察官を拝命。刑事を中心に40年間の警察人生を送り、平成16年広島県警本部少年育成課長を最後に退職。警察官時代に鍵山秀三郎氏に師事し、トイレ掃除を通じて多くの非行少年を更生させた。また、荒れた学校を立て直すために、地域ぐるみでトイレ掃除を実施。退職後も各地のトイレ掃除と講演活動を続けている。共著に『トイレ掃除の奇跡』(致知出版社)がある。


編集後記

かつては暴走族が走り回り、夜も眠れない街だったという広島。少年たちの更生に大きな力となったのが、トイレ掃除だったといいます。問題解決に尽力した元警察庁生活安全局長の竹花豊さんと、元広島県警本部少年育成課長の竹内光弘さんに、トイレ掃除の秘める力と、大人の果たすべき責任について語り合っていただきました。

2020年10月1日 発行/ 11 月号

特集 根を養う

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