11 月号ピックアップ記事 /インタビュー
人生の苦しみや悲しみが人間の根を深くする 松崎 運之助(元夜間中学教諭)
「命そのものが豊かで奥深い」。そう語るのが、夜間中学で30年以上教鞭を執ってきた松崎運之助先生である。戦後の動乱期を母子4人で貧しくも心豊かに育った松崎先生に、ご自身の歩みを振り返っていただきながら、その中で見つけられた〝命の輝き〟についてお話しいただいた。
人間は、学歴や地位や名誉で飾らなくても、命そのものが豊かで奥深いものです
松崎 運之助
元夜間中学教諭
中学を卒業後、母を助けたい一心で長崎の造船所に就職し、18歳からは働きながら定時制高校に通いました。進学したいと考え、上京して町工場で働きながら夜間大学に通い、その時、資格としてあったら便利だと思い教員免許を取りました。もちろん仕事は続けていたので、働きながら教育実習ができる場所を希望し、紹介されたのが夜間中学でした。
中学校ですから、私は『走れメロス』を題材に授業を用意してきたものの、教室に入って驚きました。平仮名や漢字を一所懸命に練習している人たちがいたのです。夜間中学には15歳から80歳以上の方々まで幅広い年代の生徒がやってきます。
戦後の混乱で学校に通えなかった人、家が貧しくて働かざるを得なかった人、病気で学業に専念できなかった人、不登校だった人。朝鮮や中国の残留孤児や途上国から日本へ働きに来た人たちもいますが、大半が昼間に仕事をしながら通っています。
初めて出逢った生徒さんのことは忘れられません。年配の女性でしたが、鉛筆をしっかり握り締めあらん限りの力を込めて「の」の字の練習をしていました。そして突然目を輝かせながら言うのです。
「先生、分かったよ!
〝の〟という字はおたまじゃくしの宙返りなんだ」
これにはショックを受けました。というのも私はそんなふうに〝の〟という字を見たことも、考えたこともなかったのですから。
《画像:松崎氏の母・ヤエさんが長崎の風景を描いた色鉛筆画》
夜間中学では夜間中学では様々なバックグラウンドを持つ生徒が学ぶ
生徒の子供も一緒に参加した親子授業の様子
プロフィール
松崎 運之助
まつざき・みちのすけ――昭和20年旧満州国生まれ。中学卒業後、造船所に就職。働きながら長崎市立高校(定時制)、明治大学第二文学部を卒業。48年夜間中学の教諭になり、平成18年定年退職。「路地裏」活動は3年から開始し、今年設立30周年の節目を迎えた。山田洋次監督の映画『学校』のモデルであり製作協力者。著書に『学校』(晩聲社)『路地のあかり』(東京シューレ出版)『こころの散歩道』(高文研)など多数。
編集後記
夜間中学。そこに通うのは戦後の動乱の中、学校に通えないまま育った年配の方や不登校の青年たちでした。長年夜間中学の教諭を務めた松崎運之助さんに、ご苦労の多かった半生を振り返りながら、生徒との思い出をお話しいただきました。
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