4 月号ピックアップ記事 /対談
いかに運命を開くか 五木寛之(作家) 横田南嶺(臨済宗円覚寺派管長)
人は様々な夢を抱いて生きる。しかしそこに至る道は必ずしも平坦ではなく、目に見えない様々な働きに翻弄される。
運命──この抗いがたい力と、私たちはどう向き合えばよいのだろうか。デビュー時より数々の話題作を世に問い続けてきた五木寛之氏と、若くして日本を代表する名刹を受け継いだ横田南嶺氏。昨年10月号の対談で大きな反響を呼んだお二人に再びご登場いただき、思うに任せない運命に処する生き方を語り合っていただいた。
「人事を尽くして天命を待つ」という言葉がありますね。僕はそれを自分流に「人事を尽くさんとするはこれ天の命なり」と勝手に読んでいるんです
五木寛之
作家
ここまで運命についていろいろお話をしてきましたが、運命とよく混同される言葉に天命という言葉があります。2つはよく似ているようで、どこか大きく違う。運命という考え方は、どこか一方的な受け身の考え方ではないでしょうか。これに対して天命とは、進んでそれを肯定する、認めて参加する感覚があります。そして僕は五十を過ぎた頃から、この天命という言葉を強く意識するようになりました。
「人事を尽くして天命を待つ」という言葉がありますね。僕はそれを自分流に「人事を尽くさんとするはこれ天の命なり」と勝手に読んでいるんです。天の命によって自力を尽くそうとするんじゃないかと考えて、読み方を自分流に変えているんです。
苦を自覚しているということは、必ずそれを支える底もあるし、照らす光もある。人生というのはそんなふうに、ちょっと考え方を変えればガラっと変わってくると思うんです
横田南嶺
作家
人様のために何かお役に立つというのは、一番の人徳であり、それによってよい運がもたらされるものと私は思います。先ほど抜苦与楽とおっしゃいましたが、最後にこの苦しみの多い世を生きていく上で皆さんにぜひ知っておいていただきたいのが、浄土真宗の妙好人として知られる浅原才市の言葉です。
「海には 水ばかり 水をうけもつ底あり さいちには 悪ばかり
悪をうけもつ阿弥陀あり」と。
人生が苦痛に満ちているように見えるのは、それを支えている底がある、大いなるものに支えられているから、苦痛も感じることができるのだと言っています。このことを自覚すれば、痛苦に満ちた人生を生きていく力になるのではなかろうかと思うんです。
『致知』でお馴染みの坂村真民先生にも同様に、「影あり 仰げば月あり」という短い詩がございます。影というのは月があるから見える。真っ暗闇に影はないんだよと。我われが苦を自覚しているということは、必ずそれを支える底もあるし、照らす光もある。人生というのはそんなふうに、ちょっと考え方を変えればガラっと変わってくると思うんです。
プロフィール
五木寛之
いつき・ひろゆき―昭和7年福岡県生まれ。27年早稲田大学露文科入学。41年小説現代新人賞、42年直木賞、51年吉川英治文学賞を受賞。また英文版『TARIKI』は平成13年度『BOOK OF THE YEAR』(スピリチュアル部門)に選ばれた。14年菊池寛賞、22年『親鸞』で毎日出版文化賞を受賞。
横田南嶺
よこた・なんれい―昭和39年和歌山県生まれ。62年筑波大学卒業。在学中に出家得度し、卒業と同時に京都建仁寺僧堂で修行。平成3年円覚寺僧堂で修行。11年円覚寺僧堂師家。22年臨済宗円覚寺派管長に就任。29年12月花園大学総長に就任。近著に『自分を創る禅の教え』(致知出版社)。
編集後記
昨年10月号の対談で大きな反響を呼んだ作家の五木寛之さんと臨済宗円覚寺派管長の横田南嶺さんに、再びご登場いただきました。今回は、自分の個性の源、生まれ持った能力と努力の関係、苦に満ちたこの世との向き合い方等々、さらに深く人生の本質に迫るお話となりました。運と徳に関わる生き方のヒントが満載です。
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