一念が道をつくる 外尾悦郎(サグラダ・ファミリア芸術工房監督) 梶田隆章(東京大学宇宙線研究所所長)

世界を代表する芸術家の一人に数えられる外尾悦郎氏。スペイン・バルセロナにあるサグラダ・ファミリア教会、着工から136年経ったいまなお建設が続く大事業に40年間携わっている。2015年にノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章氏。「ニュートリノ振動」の現象を捉え、ニュートリノに質量があることを世界で初めて証明し、素粒子物理学の進歩に多大な貢献をもたらした。片や彫刻、片や研究に人生を懸け、一道をつくってきたお二人が語り合う、体験を通して掴んだ人生の心得とはいかなるものか。

外尾悦郎
サグラダ・ファミリア芸術工房監督

梶田隆章
東京大学宇宙線研究所所長

外尾 梶田さんと初めてお会いしたのは、昨年4月5日に開かれた宮中晩餐会でしたね。

梶田 そうですね。私はああいう会に出席するのは初めてだったものですから、見るもの聴くもの、すべてが新鮮でした。

外尾 私も初めてです。もう感動の連続で、まず戴いたお食事が美味しい。また、天皇皇后両陛下にはバルセロナで2度お目にかかっていますが、今回もあの優しいお人柄に触れることができ、本当に心に沁み入る最高の時間でした。
 たくさんのお歴々がおられて、そこでは男性がご婦人に話題を投げかけて楽しく会話を進めるというルールだったんですけれども、私は隣におられるご婦人とお話しするより、向かいにおられる梶田さんにどうしても目が行ってしまいましてね(笑)。その方には大変申し訳なかったんですが、とても興味深く話を聴いておられるのが分かりました。ですから、本当に素晴らしい出会いをつくっていただいたなと。あの時に、梶田さんは人と話をするのが苦手なのかなと少し感じたんです。というのも、私も人と話してるより石と話してるほうがずっと楽なもんですから。

梶田 いや、実はそうなんですよ。人と話をするのが苦手で学者になった、という面がないとは決して言えない。それこそ星と話をするほうがいいというか(笑)。

外尾 それでも私は畳み掛けるようにいろんな質問をしましたよね。

梶田 はい。

外尾 「宇宙はここ一つだけですか?」とお尋ねしたら、はっきりと「幾つもあると思います」と。

梶田 いまは「あると思います」としか言えませんけど。

外尾 その時に、普通の科学者であれば、「いろんな意見があります」とか上手にかわすんでしょうけど、「あると思います」と。ノーベル賞を受賞された方が無知蒙昧な私の質問に素直に答えてくださった。そこにとても感動して、私は梶田さんを好きになったんです(笑)。

プロフィール

外尾悦郎

そとお・えつろう―1953年福岡県生まれ。1977年京都市立芸術大学彫刻科卒業。中学校・高校の定時制非常勤講師として勤務した後、バルセロナへ。1978年以来、サグラダ・ファミリア教会の彫刻に携わり、2000年に完成させた「生誕の門」が世界遺産に登録される。日本とスペインとの文化交流の促進の功績により、平成20年度外務大臣表彰、2012年ミケランジェロ賞など、国内外で受賞多数。2013年より現職。著書に『ガウディの伝言』(光文社)『サグラダ・ファミリア ガウディとの対話』(原書房)など。サン・ジョルディ・カタルーニャ芸術院会員。

梶田隆章

かじた・たかあき―1959年埼玉県生まれ。1981年埼玉大学理学部卒業。1986年東京大学大学院博士課程修了。超新星ニュートリノを史上初めて観測した「カミオカンデ実験」、質量ゼロと考えられてきたニュートリノに質量があることを明らかにした「スーパーカミオカンデ実験」に参加。1999年仁科記念賞、2010年戸塚洋二賞、2012年日本学士院賞受賞。2015年文化勲章受章。同年「ニュートリノ振動の発見」により、アーサー・B・マクドナルドと共に、ノーベル物理学賞受賞。2008年より現職。著書に『ニュートリノで探る宇宙と素粒子』(平凡社)『ニュートリノ 小さな大発見』(朝日選書)など。


編集後記

外尾悦郎さんと梶田隆章さん。サグラダ・ファミリアの彫刻とニュートリノの研究、それぞれの道で世界的な功績を築いてこられました。「一生を懸けられる仕事に出逢えて幸せ」と外尾さん。「本当に研究が面白くて楽しい」と梶田さん。共通するお二人の姿勢から、好きな仕事を徹底的に追求していくことの大切さを噛み締めました。

2018年10月1日 発行/ 11 月号

特集 自己を丹誠する

定期購読のお申込み

『致知』は書店ではお求めになれません。

電話でのお申込み

03-3796-2111 (代表)

受付時間 : 9:00~19:00(平日)

お支払い方法 : 振込用紙・クレジットカード

FAXでのお申込み

03-3796-2108

お支払い方法 : 振込用紙払い