多極化が進む世界で、まず守るべきは国益である 中西輝政(京都大学名誉教授)

世界の多極化は、これまでの国際社会の常識を大きく塗り替えつつある。日本はいつまでもアメリカ依存のままでいいのか。米中など大国の動きに押し潰されることなく、どう国益を守っていくか。いまはまさにその正念場なのである。

多極化の時代を乗り切る上で、重要な指針となる言葉があります。「自己本位」という言葉です

中西輝政
京都大学名誉教授

 多極化の時代を乗り切る上で、重要な指針となる言葉があります。「自己本位」という言葉です。これは時には、自分だけよければいい、といったエゴイズムに受け取られ、いまの日本語ではいい響きをもたらさないかもしれません。
 しかし、出典を辿ると、もともとは福澤諭吉が『文明論之概略』や『学問のすゝめ』の中で述べた言葉で、学問とは自己本位を見定めること。つまり自分はいまどの立場に立っているのかを知り、その自己を少しずつ高め、よりよい人生のために自立を目指していくのが学問の目的であり、よりよく世界を見る方法でもある、という意味で福澤は用いています。
 福澤が生きた時代、それまでの身分制は廃止され、四民平等となって新たに「職業選択の自由」が生まれました。しかし、国民は自由な時代にうまく対応できず、その多くが他人に追随する以外にどうしてよいのか分からずに戸惑うばかりでした。福澤はそういう人々に、この本来の自己本位論を説き、まずは自分が高い理想と向上心を持って自分の人生の「主人公」として生きようとすることが大切だと教えているのです。
 英語には「考え抜かれた自己利益」という言葉がありますが、これは福澤の言う「自己本位」と似ています。私は多様化の時代にこそ、この本来の、自己本位という考えに立脚すべきだと考えています。
 では、福澤の自己本位論をいまの世界情勢に当てはめると、どういうことが言えるか。それは国益重視を第一に物事を判断しながら、他国の国益とも両立させつつ自らが主導権を持って互いに共存してゆく道を探ることに他なりません。

プロフィール

中西輝政

なかにし・てるまさ―昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。著書に『国民の覚悟』『賢国への道』(ともに致知出版社)など。近著に『日本人として知っておきたい世界史の教訓』(育鵬社)がある。


2018年8月1日 発行/ 9 月号

特集 内発力

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