9 月号ピックアップ記事 /対談
まず覚悟ありき 井本勝幸(一般社団法人日本ミャンマー未来会議代表) 鬼丸昌也(認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者)
政府と少数民族による武装勢力との間で実に70年にも及ぶ紛争状態にあったミャンマーに単身乗り込み、和平実現への道筋をつけ、現在は日本ミャンマー未来会議代表を務める井本勝幸氏。片や国内で積極的な講演活動を展開し、紛争地域の現状を伝え続けることで、地雷除去支援や元子ども兵の自立支援などにあたる「テラ・ルネッサンス」創設者の鬼丸昌也氏。フィールドは違えども、互いに深い覚悟を持って自らの活動に臨むお二人に、それぞれの歩みとともに国際支援に対する一方ならぬ思いを語っていただいた。
どんな組織や活動でも、その中に覚悟した人間がいるかどうかですべてが決まってしまう
井本勝幸
一般社団法人日本ミャンマー未来会議代表
ミャンマーの和平実現は、私にとって途轍もない挑戦でした。だから、一度全部捨てることにしたんです。地位も財産も家族も、私は全部捨てました。子どももいましたけど、妻を説得して最低限生活に必要なお金だけを残して、ミャンマーに飛び込んだんです。
私の考えは少数民族の大同団結でした。というのも全人口の3分の1が少数民族だったので、それが一枚岩になれば、政府も和平に向けた話し合いの場についてくれるのではないかと思ったんです。ただ、どう少数民族同士を結びつければいいのかについては、全くの手探り状態でしたね。
それこそ最初は「おまえはどこの馬の骨だ」と言われるようなところから始まりましたけど、私が彼らに訴え掛けたのは、あなたたちの共通の課題はどこにあるかということでした。もちろん、それはミャンマー政府と向き合うことであって、少数民族同士がいがみ合っている場合ではないということを説き回っていきました。
どんな言葉を日頃から自分に語り掛けているのかというのはとても大事なこと
鬼丸昌也
認定NPO法人テラ・ルネッサンス創設者
阪神・淡路大震災の時に被災地でたまたま出会ったボランティアグループの人たちが、カンボジアで地雷除去支援をしていたんです。
そのご縁で僕も現地に連れていってもらったのですが、そこには生活音の一切ない世界が広がっていました。聞こえてくるのは地雷除去要員の微かな息遣いと、地雷探知機の無機質な音だけ。まるで死の世界でした。
地雷の被害に遭った方々にもたくさん会う中で、いろいろな感情が一遍に僕の胸に押し寄せてきたんです。でも、自分には才能もない、お金もない、英語だって喋れない……と、そんなことばかり考えていた矢先に思い出したのが、アリヤラトネ博士の言葉でした。
そうだ、こんな自分にも変化を起こす力が絶対にあるはずだって。そしてその時に僕が考えたのが、現地で見てきたことを一人でも多くの人たちに伝えて、この問題に気づいてもらおうということでした。
プロフィール
井本勝幸
いもと・かつゆき――昭和39年福岡県生まれ。東京農業大学卒業後、日本国際ボランティアセンターでソマリア、タイ・カンボジア国境の難民支援に関わる。28歳で出家。福岡県朝倉市の四恩山・報恩寺副住職としてアジアの仏教徒20か国を網羅する助け合いのネットワークを構築。平成23年より単身で反政府ビルマ少数民族地域へ。UNFC(統一民族連邦評議会)コンサルタントを経て、現在、日本ミャンマー未来会議代表を務める。
鬼丸昌也
おにまる・まさや――昭和54年福岡県生まれ。立命館大学法学部卒。平成13年初めてカンボジアを訪れ、地雷被害の現状を知り、「すべての活動はまず『伝える』ことから」と講演活動を始める。同年10月大学在学中に「テラ・ルネッサンス」設立。翌年日本青年会議所人間力大賞受賞。地雷、子ども兵や平和問題を伝える講演活動は、学校、企業、行政などで年間約120回行っている。
編集後記
国際支援活動に長く携わる井本勝幸さんと鬼丸昌也さん。初対面のお二人でしたが、覚悟に裏づけされたお二人の活動には鬼気迫るものがありました。ミャンマーの和平交渉に体当たりで臨んだ井本さんと、国内で17年にわたって年間120回に及ぶ講演活動を続ける鬼丸さん。それぞれの活動を支える熱い思いが迸りました。
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