目の前の一人を取り残さない 新井鷗子(横浜みなとみらいホール館長)

構成作家として『題名のない音楽会』『NHKニューイヤーオペラコンサート』など、数々のクラシック音楽番組の構成を手掛けてきた新井鷗子さん。2020年からは「横浜みなとみらいホール」の館長を務め、ワークショップや講座を通じて、市民が音楽に親しむ機会をつくり続けている。その半生に一貫するのは、難解なクラシック音楽をはじめ、音楽の本質・魅力を万人に分かりやすく伝えてきたことだ。それはやがて、身体に障がいがあっても演奏を楽しめる「だれでもピアノ」の開発に結実し、肢体不自由者の夢の実現や高齢者の生きがい創出に寄与している。音楽を通じて、たくさんの方々の人生に向き合ってきた新井さんにこれまでの歩みを伺った。
【写真=「だれでもピアノ®」を子供たちが体験する様子。2019年に開催された「横浜音祭り」にて ©平舘平】

「一人を救えない者は誰も救えない」。

すべては目の前の一人に向き合うことから始まるというのが私の心からの実感です

新井鷗子
横浜みなとみらいホール館長

——新井さんが館長を務めるここ「横浜みなとみらいホール」に初めて足を運びましたが、目の前に広がる海といい横浜の街並みといい、素晴らしい場所にありますね。

〈新井〉
数多あるホールの中でも、ここから望む景観の素晴らしさは世界に誇れるものがあると思っています。極上の音楽を聴いた後、ホワイエに出てみなとみらいの景色を眺めながら語り合う。

これほど贅沢な時間と空間が味わえる場所は他にないのではないでしょうか。ぜひ多くの方に肌で感じていただきたいですね。

当館は横浜市市営のホールとして、一九九八年の開館以来、地元の方々との接点を一番に考えてきました。

コンサート以外にも、クラシック音楽に纏わるワークショップや講座を数多く手掛け、市民の皆様が音楽を身近に感じ、親しむ機会をつくってきました。

振り返れば、館長就任からほどなくして新型コロナウイルス流行に伴う緊急事態宣言が発令され、ホールが閉鎖するなど、予期せぬ事態に直面することもありました。

その際は、仮想空間を使ったバーチャルフェスティバルを立ち上げ、これまでにない芸術体験を生み出すなど、きょうまであらゆる手を尽くしてクラシック音楽の魅力を伝えてまいりました。……(続きは本誌にて)

~本記事の内容~
◇市民に愛されるホールを目指して
◇芸術一家に生まれ構成作家の道へ
◇「障がいとアート」との出合い
◇「だれでもピアノ®」開発までの道のり
◇「 一人を救えない者は誰も救えない」

プロフィール

新井鷗子

あらい・おーこ――昭和38年東京都生まれ。東京藝術大学音楽学部楽理科・作曲科卒業。在学中から構成作家として活動し、『題名のない音楽会』『NHKニューイヤーオペラコンサート』など、数々のクラシック音楽番組、コンサートの構成を手掛ける。平成10年『わがままオーケストラ』の構成で国際エミー賞入選。28年東京藝術大学特任教授に就任し、障がい者を支援するワークショップやデバイスの研究開発に携わる。著書に『頭のいい子が育つ クラシックの名曲45選』(新星出版社)など多数。令和2年横浜みなとみらいホール館長就任。


編集後記

身体に障がいがあっても演奏を楽しめる「だれでもピアノ®」は、「脳性麻痺の少女になんとか一人で演奏してもらいたい」という新井さんの一念から生まれ、いまや多くの方々が音楽に親しむきっかけとなっています。「だれでもピアノ®」の開発然り、新井さんの一貫した歩みには、「すべては目の前の一人に向き合うことから始まる」ことを教えられます。

2025年5月1日 発行/ 6 月号

特集 読書立国

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