古典・歴史の学びこそ人格を磨く要であり読書文化の復興が人類の命運を決する 中西輝政(京都大学名誉教授)

いま日本は数々の内憂外患を抱えているが、その最たるものの一つが深刻な読書離れである。日本はかつて世界に冠たる読書大国であった。幕末の時代、日本人は圧倒的な識字率を誇り、女性や子供を含む庶民まで挙って本に親しみ、訪れた外国人は一様に驚嘆したという。それが明治期の大発展へと繋がったのだ。なぜ日本人は本を読まなくなったのか。国民の多くが読書をしなくなった国家が辿る末路とは。歴史上の事例と自身の読書遍歴を交えつつ、古典・歴史(=人間学)の学びが人生に与える影響、読書立国への道筋を中西輝政先生に論じていただいた。

国家興亡の歴史を振り返ってみても、自国の古典や歴史をある時期を境に学ばなくなった国家は著しく衰退していきました。

逆に言うと、それらを学ぶ人々が支える国家は、その後長きにわたって繁栄を築いていくのです

中西輝政
京都大学名誉教授

活字離れ、書店減少、読書文化の衰退……。これらは私が予て危機感を抱いている日本社会の重大な問題です。日本の歴史上、かつてないことがいま起こっていると捉えています。

活字離れは30年ほど前から進行していた現象ではないかと思いますが、そこに覆い被さってきたのがデジタル化の波です。もちろんITが発達することのメリットは否定しません。

しかし、スマートフォンの登場と共にSNSや動画配信サービスが瞬く間に普及したことにより、人々は活字を読む習慣から一層遠のくようになりました。

文字情報を読み取り、それを頭脳や心に焼きつけて蓄積する。このような人間だけが持つ大事な精神活動の機会が奪われ、読解力や語彙力も低下しています。

加えて、スマートフォンの端末やアプリ、プラットフォームの大部分はGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)に代表されるアメリカの巨大テック企業が手掛けており、その使用料として日本全体で年間6~7兆円もの富が海外に流出しているのです。

これも日本の衰退に直結する非常に由々しき問題であるにも拘らず、あまり知られていません。

さらに……(続きは本誌をご覧ください)

本記事の内容 ~全6ページ(約8,500字)~
◇日本の歴史上かつてない重大危機
◇「三つの軸」のバランスを取り戻さなければならない
◇歴史が教える読書と国家盛衰の関係
◇かつて日本人ほど読書する民族はなかった
◇吉田松陰と福沢諭吉の驚くべき読書熱
◇木鶏会の広がりは読書立国への大きな礎

プロフィール

中西輝政

なかにし・てるまさ――昭和22年大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。英国ケンブリッジ大学歴史学部大学院修了。京都大学助手、三重大学助教授、米国スタンフォード大学客員研究員、静岡県立大学教授を経て、京都大学大学院教授。平成24年退官。専攻は国際政治学、国際関係史、文明史。平成9年山本七平賞・毎日出版文化賞受賞。14年正論大賞受賞。著書に『近代史の教訓 幕末・明治のリーダーと「日本のこころ」』(PHP研究所)など多数。


編集後記

国家興亡の歴史をつぶさに研究してきた京都大学名誉教授の中西輝政さんは、「自国の古典や歴史を学ばなくなった国家は著しく衰退し、それらを学ぶ人々が支える国家は繁栄を築く」と力説します。「2025年、日本は再び甦る兆しを見せるであろう。2050年、列強は日本の底力を認めざるを得なくなるであろう」。哲学者・森信三先生が我々に託したこの遺言を受け、そのためには人間学の本を読むことが欠かせない、『致知』愛読者を中心としてその輪を広げていきましょうとのメッセージに、心強いエールを頂戴しました。

2025年5月1日 発行/ 6 月号

特集 読書立国

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