日本を甦らせる道——後から来る者のために伝えたい人生論 田口佳史(東洋思想研究家) 芳村思風(思風庵哲学研究所所長)

長引くコロナ禍、ウクライナ危機……世界はいま、未来を大きく左右する分水嶺に差し掛かっている。私たちはこの難しい状況下でいかに生き、いかにして道を切り開いてゆけばよいのだろうか。
東洋思想、哲学を通じてそれぞれに人の生きる道を追求してきた田口佳史氏と芳村思風氏が語り合う、日本人が追求すべき生き方、そして後世に伝えたい思い――。

いまこの危機の中で求められているのは、古典の神髄を生かして生きることです

田口佳史
東洋思想研究家

〈田口〉 
 全くおっしゃる通りです。神道を通して仏教にも儒教にも老荘にも通じ、渾然一体となった日本的な東洋思想を、私たち日本人はもっともっと大切にして、危機に直面するいまの世界に訴えていかなければなりませんね。

〈芳村〉 
 本当にそうですね。日本には最高の儒教、最高の仏教、最高の道教と、東洋で生まれたあらゆる精神が凝縮して存在していると思うんです。私たちはこれがいかに貴いことかを自覚して、そこからこの危機を乗り越えるヒントを掴み取らなければなりません。

〈田口〉 
 いま私は、慶應義塾大学の丸の内シティキャンパス(MCC)で石田梅岩(ばいがん)の石門心学(せきもんしんがく)を講義しています。著書の『都鄙問答(とひもんどう)』を読むと分かるんですが、梅岩という人はこうした日本の素晴らしい思想哲学を、頭ではなく、体全体で理解していた。だからこそあれほどに庶民を広く感化する教えを残すことができたのだと思うのです。

 いまこの危機の中で求められているのは、古典の神髄を生かして生きることです。日本の精神的土壌には、儒・仏・道・禅・神道がたっぷり入っていますから、これをもう一度浮上させる必要があります。そして、日本は世界を救う思想哲学の発信基地になる必要があります。

 そのためには、この優れた思想を現代にマッチした、現代人が理解しやすい言葉に表現し直して発信していく必要があると思うんです。私が致知出版社から本を出し、セミナーをさせていただいているのは、そういう思いがあるからなんです。

〈芳村〉 
 そうですね。『致知』の存在価値というのは、これから世界的に輝くと私も思いますよ。

起こることすべて必然。皆、理由があって起こっていると思うんです

芳村思風
思風庵哲学研究所所長

〈芳村〉
 日本を取り巻く状況は厳しいと言わざるを得ませんが、『易経』や『老子』の思想から言えば、起こることすべて必然。皆、理由があって起こっていると思うんです。

〈田口〉 
 まず、自分がこの世に生まれてきたということが必然なんですね。そこを基軸にすれば、自分には天命があるんだという大局観を持って生きることに繋がります。

 この考え方は朱子学から始まったように思います。そして、その大本には『老子』や『易経』の思想がありますし、これらに加えてもう一つ、宋の大儒が勉強したのが仏教でした。

 明治期の日本では、ほとんどの高僧が仏教ばかりでなく、儒家の思想と老荘思想を体得しています。ですから日本では、この三つの思想が融合して実に豊かな味わいのある独自の精神的風土が育っていったと思うんです。

 これは中国にはなく、日本でしか起きなかったことです。これを鈴木大拙は「日本的霊性」と呼んだわけですが、日本にはこうした異なる思想を融合させるような独特の共鳴、共感の土壌というものがあるんです。

〈芳村〉 
 私はこの三つに加えて、神道の精神が日本的な精神の根柢にあると思うんです。罪、穢れを祓い清める神道の精神が、日本精神の土壌に無垢な清き明き直き心というものをつくって、これがあらゆるイデオロギーを超えて、よいと思うものはすべて受け入れる豊かな包容力を日本人にもたらした。

 それによって日本人は、外国から学んだものを自分たちの心に合致したさらに完成度の高いものに磨き上げ、独特の文明をつくり上げて今日の繁栄を築いたように私は感じています。

プロフィール

田口佳史

たぐち・よしふみ――昭和17年東京生まれ。日本大学芸術学部卒業後、日本映画新社入社。タイ国で撮影中水牛二頭に襲われ瀕死の重症を負い、東洋思想研究に転進。47年イメージプランを創業。著書に『佐久間象山に学ぶ大転換期の生き方』をはじめ『ビジネスリーダーのための老子「道徳経」講義』『人生に迷ったら「老子」』『横井小楠の人と思想』『東洋思想に学ぶ人生の要点』『「書経」講義録』など。最新刊に『「大学」に学ぶ人間学』(いずれも致知出版社)。

芳村思風

よしむら・しふう――昭和17年奈良県生まれ。学習院大学大学院哲学博士課程中退。45年思風庵哲学研究所設立。感性論哲学の創始者。名城大学元講師。著書に『人間の格』、共著に『いまこそ、感性は力』(共に致知出版社)など。


編集後記

奇しくも今年、共に傘寿を迎える田口佳史さんと芳村思風さん。お二人は初対面ながら、それぞれの著書を通じて感銘を受けており、談論風発の対談となりました。東洋古典と感性論哲学、それぞれの視点で後から来る者のために伝えたい人生論を語り合っていただきました。

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