イチローに学んだこと 山本益博(料理評論家)

今年3月、45歳で現役を引退したイチロー。言わずと知れた球界のスーパースターである。ギネス世界記録に認定されている日米通算4,367安打を筆頭に、数々の金字塔を打ち立ててきた。そのイチローを独自の視点で長年追い続けている料理評論家・山本益博氏に、イチローが超一流たる所以、私たちが学ぶべき生き方を紐解いていただいた。

「準備をするのは言い訳を最小限にするため」——イチロー

山本益博
料理評論家

 イチローさんを語る上で、もう一つ外せないのが「準備」に関する話だ。私は年に一度マリナーズのホームグラウンドまで足を運んで彼の姿を見に行っていた。最初は彼の守備位置であるライトがよく見える一塁側の観客席に座っていたのだが、ある時、ベンチの中で何をしているのかが気になり、三塁側の観客席から双眼鏡で覗いてみた。
 すると、味方の攻撃中ほとんどベンチにいないのである。守備を終えてベンチに戻ると、すぐロッカールームに降りていってしまう。次のイニングに備えてストレッチでもしているのかと想像していたものの、本人に確認すると実際はそうではなかった。ロッカールームにアンダーウェアを十数枚置いてあり、毎イニング着替えているというのだ。

「他の選手はやるんですか」
「いや、僕だけだと思います」
「どうしてやっているんですか」
「汗が冷えて次のイニングに体調が変わるといけないので、用心のために着替えています」

スポーツに留まらず、どの世界でも準備の大切さを語る人は多い。しかし、ここまでやるかというくらいに準備に準備を重ね、怠らず徹底している人はいないだろう。なぜ準備をするのか。彼の言葉が忘れられない。

「言い訳を最小限にするため」

 例えば、前の日にグローブの手入れを怠ったとする。翌日の試合にたまたま守備でミスをすれば、「昨日グローブの手入れをしなかったからだ」とつい言い訳をしてしまうのが人間の弱さだ。それを許さないのは、これもやはり情熱を燃やしているからだと感じる。

プロフィール

山本益博

やまもと・ますひろ――昭和23年東京都生まれ。47年早稲田大学卒業。卒論として書いた「桂文楽の世界」が『さよなら名人芸 桂文楽の世界』として出版される。57年に『東京・味のグランプリ200』を出版して以来、日本で初めての「料理評論家」として活躍中。著書に『イチロー勝利への10ヵ条』(静山社文庫)など多数。


編集後記

野球ファンともスポーツジャーナリストとも違う観点で、芸術家や職人としてのイチローに迫り続ける山本益博さん。そこから見えてきたイチローの流儀には、目を見張るものがあります。

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