アドラーとドラッカーに学ぶ人間学 岩井俊憲(ヒューマン・ギルド社長/アドラー心理学カウンセリング指導者) 佐藤 等(佐藤等公認会計士事務所所長/ドラッカー学会理事)

現代の心理療法を確立したアルフレッド・アドラー、マネジメントの父と称されるピーター・ドラッカー。近年注目を集めているこの二人は、生前交流こそなかったものの、出自や人間観、思想、学問的アプローチなど、通底する部分が多い。
それぞれの偉人に私淑し、その教えを伝承する岩井俊憲氏と佐藤等氏が語り合う人間学談義は、ストレス社会や多様性社会とも言われる現代社会をいかに生くべきかのヒントが鏤められている。

「人は誰でも劣等感を持っている。劣等感それ自体は病気ではない。むしろ健全な向上心に繋がるきっかけになるだろう」

岩井俊憲
ヒューマン・ギルド社長
アドラー心理学カウンセリング指導者

 劣等感と聞くとだいたいネガティブな印象を持ちますよね。ただよく吟味すると、アドラーの文脈では2通りの意味があるんですよ。1つは他者との比較に基づく劣等感です。あの人に比べて自分は劣っている。これは反対に、あいつより自分はすごいという優越感を生み出して、上下関係ができるんですね。これは劣等感の弊害です。
 もう1つは、目標を持つことによる劣等感があるんですよ。いまよりももっとよくなりたいと目標や理想を持つと、現状との比較で陰性感情が出ます。悔しい、もどかしい。これも劣等感なんですね。
 
 で、アドラーが盛んに言うのは、後者の劣等感は進歩向上のモチベーションになるから、病気でも悪者でもないと。むしろ、大事な味方であるというメッセージを発しているんです。

知識は本の中にはない。本の中にあるのは情報である。知識とはそれらの情報を仕事や成果に結びつける能力である

佐藤 等
佐藤等公認会計士事務所所長
ドラッカー学会理事

 私たちは本を読むと能力が上がったように錯覚してしまいがちですけど、実は読書をしただけでは何も起こらないんですね。だからこれはいつも心掛けていることで、本で得た知識をいかに実践するか。

 ドラッカーが亡くなった後、奥さんのドリスさんが来日された時、ひと言だけメッセージを伝えたいと。そこで言ったのが、「彼の書いたものを過去の思い出にしてほしくない」。

『ドラッカー全集』の前書きにも「私の著作はすべて人を行動させるために書いている」と記されていますので、ドラッカーの書いていることを実践するためにはどうすればいいか。私自身、そのことに心を砕いているんです。

アルフレッド・アドラー―1870~1937年。オーストリア・ウィーン郊外生まれ。精神科医、心理学者。子供の頃からくる病など体の障碍や劣等感で悩む。1902年から9年間フロイトと共同研究に携わるが、袂を分かち、「個人心理学」を構築。世界で初めて児童相談所を開設。診療所でのカウンセリングの他に、講演や著作活動に精力的に取り組む。フロイト、ユングと並んで現代心理学の三大巨頭の一人に数えられている。

ピーター・ドラッカー―1909~2005年。オーストリア・ウィーン生まれ。経営学者。フランクフルト大学卒業後、経済記者、論説委員を務める。ニューヨーク大学教授などを経て、1971年ロサンゼルス近郊のクレアモント大学院大学教授に就任。以降この地で執筆と教育、コンサルティング活動を続けた。「現代経営学」あるいは「マネジメント」の発明者。『経営者の条件』をはじめ社会と経営に関する膨大な著作群がある。

プロフィール

岩井俊憲

いわい・としのり――昭和22年栃木県生まれ。45年早稲田大学卒業後、外資系企業に勤務。人事課長、総合企画室課長などを歴任。60年ヒューマン・ギルドを設立、代表取締役に就任。アドラー心理学に基づくカウンセリング、研修、講演、執筆を手掛ける。中小企業診断士。著書は『アドラー流リーダーの伝え方』(秀和システム)など50冊を超える。

佐藤 等

さとう・ひとし――昭和36年北海道生まれ。59年小樽商科大学商学部商業学科卒業。平成2年公認会計士試験合格。佐藤等公認会計士事務所開設。14年同大学大学院商学研究科修士課程修了。主宰するナレッジプラザの研究会として「読書会」を800回にわたって開催。編著に『実践するドラッカー』シリーズ(ダイヤモンド社)などがある。


編集後記

心理療法と経営マネジメント、分野は違えど共通点が多いアドラーとドラッカー。アドラー心理学カウンセリング指導者・岩井俊憲さんとドラッカー学会理事・佐藤等さんの対談を通じて、それぞれの偉人が遺した書物や言葉、エピソードに学ぶことで勇気と希望が湧き上がってくるでしょう。

2019年8月1日 発行/ 9 月号

特集 読書尚友

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