上皇后美智子さまと読書 末盛千枝子(絵本編集者)

この4月に天皇陛下と共にご譲位をなさり、長年の皇室生活に一つの節目を迎えられた上皇后美智子さま。その原点ともいえるご幼児期の読書体験を収録した書籍『橋をかける』の出版を手掛けたのが末盛千枝子さんである。長年の親交を通じて垣間見た、上皇后さまと本との深い結びつきを、貴重な思い出と共にお話しいただいた。

上皇后さまの大切な友として常にお側に寄り添い、支え続けてきたのが本ではなかったろうかと私は思うのです

末盛千枝子
絵本編集者

 いまでもあの時のことは、胸の高鳴りと共にまるで昨日のことのように脳裏に鮮やかに甦ります。
 1998年9月21日にインドのニューデリーで開催された国際児童図書評議会(IBBY)世界大会の冒頭、上皇后さま(当時皇后さま。以下同)はビデオを通じての基調講演で、ご自身が幼少期に出合った本の思い出をお話しになりました。収録に立ち会い、出来上がったビデオを会場へ持ち込む大役を仰せつかった私は、世界各地から集まった800名の参加者と共に、上皇后さまの高貴で知性に溢れる佇まいに心惹かれながら、美しい英語で語りかけられるお話に固唾を呑んで聴き入りました。

 読書の大切さ、素晴らしさの核心を見事に捉えたその内容は、各国で子供と本との橋渡しに尽力する参加者に限りない励ましと勇気を与え、会場には万雷の拍手が湧き起こりました。
 一緒に講演を拝聴したアメリカの友人も「これを聴くためだけにでも、はるばるインドまで来た甲斐があった」と興奮を抑えきれない様子でしたが、それはまさしくすべての参加者が共有する思いであり、私はあの時ほど自分が日本人であることを誇らしく思ったことはありませんでした。

 そして、後にそのご講演録『橋をかける』の出版に携わった体験は、私の編集者人生におけるかけがえのない記念碑として、いまも目映いくらいに輝き続けているのです。

プロフィール

末盛千枝子

すえもり・ちえこ―昭和16年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、出版社勤務。63年すえもりブックス設立。まど・みちお氏の詩を上皇后さま(当時皇后さま)が選・英訳された『THE ANIMALS「どうぶつたち」』や上皇后さまのご講演をまとめた『橋をかける 子供時代の読書の思い出』などを手掛ける。平成14年国際児童図書評議会(IBBY)国際理事(~18年)。現在は東日本大震災で被災した子どもたちに絵本を届ける「3.11絵本プロジェクトいわて」の代表を務める。著書に『根っこと翼』(新潮社)など。


編集後記

絵本編集者の末盛千枝子さんには、上皇后さまとの交友エピソードをご紹介いただきました。IBBYでのご講演内容は、読書の素晴らしさが深い洞察のもとに語り尽くされており感動を禁じ得ません。

2019年8月1日 発行/ 9 月号

特集 読書尚友

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