心の扉を開く 寮 美千子(作家)

70数年もの歴史を通じて、更生教育の伝統を育んできた奈良少年刑務所。寮美千子さんは、そこに収監された少年たちを相手に、10年にわたり詩作の講師を務めてきた。塀の中でつぶさに見てきた少年たちの素顔は、それまでに抱いていた犯罪者のイメージとはかけ離れたものだったという。人生観をも一変させた忘れがたいエピソードを交え、いま自身を突き動かす思いをお話しいただいた。

教室では、皆の心の扉が開く瞬間が数え切れないほどありました。心の扉が開いたら、そこから溢れ出てくるのは優しさだったんです

寮 美千子
作家

 彼らは辛い、悲しい、苦しい思いをいっぱいしてきたから、心の底には怒りとかがたくさん溜まっているだろうと私は思っていました。心の扉が開いたら、それが洪水のように溢れてきて、人を傷つけてしまうんじゃないかって。でもね、私は奈良少年刑務所で186人の子を見てきたけど、一人もそんな子はいなかった。一人もですよ。心の扉が開いた時に、一人として優しくない子はいなかった。
 だから、人は変われないとか、矯正不能っていう話は嘘だと私は思う。人間はきっと本来優しい生き物なんですよ。何らかの事情があってその優しさが封印されてしまったのであって、その心の歪みとか傷を癒やすことができた時に、溢れ出てくるのは優しさなんだなって。あの子たちに会って、私の人間観は一変しましたね。

プロフィール

寮 美千子

りょう・みちこ――東京都生まれ。外務省勤務、コピーライターを経て、昭和61年毎日童話新人賞受賞。平成17年『楽園の鳥』で泉鏡花文学賞受賞。翌年、古都に憧れ、首都圏より奈良に移住。絵本、詩、小説、自作朗読と幅広く活躍中。著書に『あふれでたのは やさしさだった』(西日本出版社)、編著に『空が青いから白をえらんだのです』(新潮文庫)、絵本に『奈良監獄物語』(小学館)などがある。


編集後記

奈良少年刑務所で詩作の講師を務めた作家の寮美千子さん。塀の中の少年たちの素顔と、更生のあり方について伺いました。

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