12 月号ピックアップ記事 /対談
人生を導いてくれた古典の教え 數土文夫(JFEホールディングス特別顧問) 出口治明(立命館アジア太平洋大学〈APU〉学長)
若き日より読書に目覚め、古典を渉猟し、その教えを仕事や人生に生かしてこられた數土文夫氏と出口治明氏。先哲の叡智が凝縮され、2,000年以上もの時を超えて読み継がれている古典、その豊饒な世界の魅力について、お二人に縦横に語り合っていただいた。
數土 私は大した経験はしてないんですけど、それでも2、3年に1回くらいのペースで、「どうしよう。これは進退窮まった」という事態に直面してきました。
だけど、その時にハッと考えて、「いまの自分の立場は『史記』や『十八史略』だったらどのケースに当てはまるだろう」とか「諸葛亮孔明だったら、曹操だったら、どう判断するか」と古典をダーッと検索すると、その時に相応しい答えが見つかって、ここで窮まったと考えるのはまだまだ甘いなと思い直すんです。
やっぱり目先のことだけを考えていると、視野が狭くなって進退窮まりますよ。
出口 NHKの経営委員長や東電の会長など、大変な修羅場を潜り抜けてこられた數土さんとはスケールが違いますが、僕もこれまでベンチャー経営に携わってきて、一所懸命応援します、出資しますとか言いながら、実際は全然実行してくれない人とか、足を引っ張る人にも出会ってきました。
數土さんと同じように、何か困難が起こった時には、頭の中でイメージして、彼は『韓非子』に出てくるあの人によく似ているなとか、『三国志』だったらどの場面だろうとか、類推することによって冷静になれますし、事象を相対化できて考える余裕も生まれる気がします。そして、たいていのことが起こっても動じなくなるんです。
だから、1冊でも古典を学ぶことで器量は広がりますが、古典はそれぞれ書いている世界が違うので、様々な古典を読むことで学びが平面的なものから立体的なものへと変わっていくと思います。
數土 私もまだまだ若造ですけど、忙しければ忙しいほど、何か古典を読めば自分の考えを整理できて、効率的に時間を活用できるというのは、体験を通して実感しているところです。
プロフィール
數土文夫
すど・ふみお―1941年富山県生まれ。1964年北海道大学工学部冶金工学科を卒業後、川崎製鉄に入社。常務、副社長などを経て、2001年社長に就任。2003年経営統合後の鉄鋼事業会社JFEスチールの初代社長となる。2005年JFEホールディングス社長に就任。2010年相談役。経済同友会副代表幹事や日本放送協会経営委員会委員長、東京電力会長などを歴任し、2014年よりJFEホールディングス特別顧問。
出口治明
でぐち・はるあき―1948年三重県生まれ。1972年京都大学法学部を卒業後、日本生命保険相に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て、2006年退職。同年ネットライフ企画㈱設立、社長に就任。2008年ライフネット生命保険㈱を開業。2012年東証マザーズ上場。2013年会長(2017年退任)。2018年1月より立命館アジア太平洋大学(APU)学長。著書に『全世界史(上下)』(新潮文庫)など多数。
編集後記
『論語』『孫子』『韓非子』『貞観政要』『管子』『三国志』……。お互いに若い頃から様々な古典を味読し、人格形成の糧とされてきた數土文夫さんと出口治明さん。そのお二人が縦横に語り合う古典談義は、実に愉しく深い示唆に富んでおり、「学に遊ぶ」とはいかなるものかを教えられる思いです。
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