創造力が明日のサイエンスの道をひらく 江崎玲於奈(茨城県科学技術振興財団 理事長)

「エサキダイオード」の発見が世界に評価され、1973年にノーベル物理学賞を受賞した江崎玲於奈氏。70歳を前にアメリカから帰国すると、今日に至るまで教育者としての道を歩み続けている。物理学者として類まれな創造力によって新分野を切り拓いてこられた江崎氏に、研究者としての歩みとともに、教育に懸ける思いを語っていただいた。

人生というのは自分が主役を演じるドラマなのだから、脇役ではなく、主役を演じよう

江崎玲於奈
茨城県科学技術振興財団 理事長

 人間の知性というものは大きく2つに分けることができるということです。1つは分別力、もう1つは創造力。分別力というのは知識の集積、創造力は取り入れた情報を取捨選択して活用する力と言い換えてよいでしょう。知識は教育現場などで受け身的に先生から教えてもらうことから、分別力に対して創造力はより個性的なものと言うこともできます。
 ただ、創造力というのは数値として測定できないために教育現場では敬遠されがちですが、若い人のほうが創造力豊かであることを忘れてはいけません。

(記者)江崎先生がノーベル物理学賞を取られた研究も、若い頃にされていたものでしたね。

江崎 そうそう。なにも私だけでなく、多くのノーベル賞の仕事は45歳以下でなされたものがほとんどです。裏を返せば、創造力は年を取るにつれて失われていくものなのです。
 人間が働く期間を仮に20歳から70歳までとすると、創造力は年とともに失われていき、70歳でゼロになる。反対に分別力は20歳の頃はほとんどなく、70歳で頂点に立つ。ですから創造力と分別力が交差する45歳あたりが仕事でも人生でもピークになるというのが私の考えです。
 それだけに、若い人が少なくなるということは、日本全体の創造性が失われていくことにも繋がると私は思うんですよ。

(記者)資源の少ない日本にとって非常に大きな問題ですね。

江崎 明日の世界がきょうの世界の延長線上にあれば、温故知新という言葉が成り立つわけで分別力が重要になります。ところが次々と新しい問題が起こってくる情報革命以降は、分別力だけではカバーできなくなってきています。もちろん分別力はあるにこしたことはありませんが、常に新しいものを創り出していくことが求められる現代を生きるためには、やはり創造力をいかに伸ばしていくかが課題ですね。

プロフィール

江崎玲於奈

えさき・れおな―大正14年大阪府生まれ。昭和22年東京帝国大学卒業。32年エサキダイオードにより量子力学的トンネル効果を実証する。35年に渡米しIBMのT・J・ワトソン中央研究所に勤務。48年ノーベル物理学賞を受賞。49年文化勲章受章。平成4年に帰国し筑波大学学長に就任。現在は茨城県科学技術振興財団理事長、横浜薬科大学学長などを務める。近著に『「未知」という選択』(神奈川新聞社)がある。


2018年11月1日 発行/ 12 月号

特集 古典力入門

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