AI時代に負けない生きる力を育む子育て 内田伸子(お茶の水女子大学名誉教授) 川島隆太(東北大学加齢医学研究所教授)

スマートフォンやタブレットなどデジタル端末の急速な普及は、私たちの生活を便利にする一方、人と人、親と子の繋がりの希薄化や学力低下、読書離れなど様々な問題の要因になっていることが指摘されている。発達心理学と脳科学――。それぞれの専門分野から日本の教育のあり方に鋭い分析と提言を行っている内田伸子氏と川島隆太氏に、AI時代に負けない子育て、日本のよりよい未来を実現する要諦を語り合っていただいた。

読書は子供たちの明るい未来をひらいていくものだと思っていますし、それがひいてはよりよき社会、日本の立国へと繋がる道であると信じています

内田伸子
お茶の水女子大学名誉教授

〈内田〉 
川島先生、きょうはとても楽しみにしていました。初めてお目にかかったのはいつ頃でしたでしょう? もう随分前でしたね。

〈川島〉 
20年ほど前だったと思います。確か政府の審議会で……。

〈内田〉 
そう、文部科学省の審議会で何度かご一緒させていただいた。

〈川島〉
あと、物理学者・脳科学者の小泉英明先生が2004年に立ち上げた脳科学と教育に関するプロジェクトでも一緒でしたね。

〈内田〉 
当時から川島先生とは主張が同じでしたので、これまで先生が書かれたものは、できる限り読ませていただいてきました。

きょうもほら、川島先生が出ている週刊誌の記事を持ってきました。記事の中でおっしゃっている、スマートフォンやタブレットの利用が子供たちの脳の発達や学力に与える悪影響については、本当にその通りですよ。

最近こんな経験をしました。近所の公園を通りかかった時に、1歳くらいの赤ちゃんをバギーに乗せたお母さんがいたのですが、スマホの操作に夢中になっているんです。そして、赤ちゃんはバギーに設置されたiPadでYouTubeの動画か何かをじーっと見ているわけですね。

母子がそれぞれ閉じたデジタル空間にいて、会話や関わりは一切ない。初春の日差しいっぱいのよい天気でしたけれども、母子の周りにだけ氷のような無機的な空気が漂っていて、異様な光景でした。さらに驚いたのは、用事を済ませて40分後に同じ公園を通ったら、まだ同じ状況だったことです。

〈川島〉 
そのような光景は私もよく目にします。残念でなりません。

日本の明るい未来を実現するために、社会全体で読書の意義を再認識してよき読書習慣を取り戻していかなくてはなりません。

そのために、私も脳科学の視点から読書の素晴らしさを訴え続けてきたいと思います

川島隆太
東北大学加齢医学研究所教授

〈内田〉 
せっかく我が子と触れ合える掛け替えのない時間が、こんなふうに過ぎていっていいのかしらと思います。また、子供が泣き始めるとぱっとスマホを見せる親もいますが、要するに、スマホを子守り代わりに使っているんですね。

本当に呆れてしまいます。後ほど詳しく触れますが、これでは子供が育つはずがありません。

〈川島〉 
スマホやタブレットの利用に関して、私が特に懸念しているのは、2019年に文部科学省が掲げた「GIGAスクール構想」です。これにより、小学1年生から中学3年生まで一人に一台のデジタル端末が貸与され、家庭学習のために端末を自宅に持ち帰らせるという動きも出てきました。

GIGAスクール構想が問題なのは、そもそも何のためにデジタルを教育に入れるのか、子供たちにどのようなベネフィットがあるのか、明確な目的や検証がないままにスタートし、進められてきたことですよ。私たち研究者は、文献などを調査して仮説を立て、事前にエビデンスをとり、倫理面も考慮しながら、目的に照らした有効性が確認できてようやく研究成果を世の中に広げていきます。

ところが、GIGAスクール構想では、「きょうからデジタル端末を入れましょう」と、全国の学校に号令がかかって推進されてきました。我われ研究者の世界からすれば、あり得ないことです。

〈内田〉 
おっしゃる通りですね。

〈川島〉 
実際、私たちの調査では、……(続きは本誌をご覧ください)

~本記事の内容~
◇GIGAスクール構想がもたらしたもの
◇脳科学が明らかにしたデジタル端末の弊害
◇子供たちを伸ばす共有型しつけ
◇「遊び」によってAIに負けない力が育つ
◇読書が持つ力「クシュラの奇跡」
◇人間の脳はすごい力を秘めている
◇よき読書習慣が国の未来をつくる

プロフィール

内田伸子

うちだ・のぶこ――昭和21年群馬県生まれ。お茶の水女子大学大学院人文科学研究科修士課程修了。平成2年同大文教育学部教授に着任。専門は発達心理学、言語心理学など。ベネッセ「こどもちゃれんじ」監修やNHK「おかあさんといっしょ」番組開発も務める。23年より現職。令和3年文化功労者。5年瑞宝重光章を受章。著書に『AIに負けない子育て―ことばは子どもの未来を拓く』(ジアース教育新社)『頭のいい子が育つ あいうえおんどく』(新星出版社)他多数。

川島隆太

かわしま・りゅうた――昭和34年千葉県生まれ。東北大学医学部卒業。同大学院医学系研究科修了(医学博士)。同大学加齢医学研究所教授。専門は脳機能イメージング学。著書に『読書がたくましい脳をつくる』(くもん出版)スマホ依存が脳を傷つける デジタルドラッグの罠 (宝島社新書)『脳を鍛える! 人生は65歳からが面白い』 (扶桑社新書)など多数。共著に『素読のすすめ』(致知出版社)などがある。


編集後記

スマートフォンをはじめとするデジタル端末の過度の利用が子供たちに及ぼす悪影響について警鐘を鳴らしてきたお茶の水女子大学名誉教授・内田伸子さん、東北大学加齢医学研究所教授・川島隆太さん。発達心理学と脳科学─それぞれ最新の知見を交えたお二人の対談は、デジタル化やAI、さらには老いや病にも負けない生きる力を育み、健全で逞しい人生を全うするヒントが満載です。

2025年5月1日 発行/ 6 月号

特集 読書立国

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