6 月号ピックアップ記事 /対談
読書は国の未来を開く 安藤忠雄(建築家) 山中伸弥(京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授)

活字離れが進む中で、子供たちに本を読む楽しさや豊かさを知ってもらい、無限の創造力や好奇心を育んでほしい――。日本を代表する建築家・安藤忠雄氏のこの思いが結晶して生まれたのが「こども本の森」プロジェクトである。世界で初めてiPS細胞の作製に成功し、ノーベル生理学・医学賞を受賞した山中伸弥氏も、このプロジェクトに賛同し、応援している一人だ。親交が深く、共に無類の読書家として知られるお二方が相まみえ、読書談義に花を咲かせた。読書こそが人間の根を養い、個人の人生、ひいては国の未来を開く鍵になることを私たちは銘記し、縁ある人々に読書習慣の種蒔きをしていかなければならない。

国が発展していくためには各分野で志を持った人が必要で、その原動力になるのは読書習慣です
山中伸弥
京都大学iPS細胞研究所名誉所長・教授
〈安藤〉
山中先生、先日も個展(安藤忠雄展 青春)のオープニングセレモニーに出席いただき、ありがとうございました。
〈山中〉
いえいえ。ここはきょうも相変わらずたくさんの親子連れで賑わっていますね。
〈安藤〉
来館日の2週間前の午前10時から予約を受け付けているのですが、嬉しいことにすぐ満員になりますよ。
〈山中〉
私には4歳の孫が2人いますけど、しょっちゅう来ているみたいです。人気があるので予約はなかなか取れないんですが、当日枠だと空きがあって入れるとか。
〈安藤〉
1日4部の完全入れ替え制で各回の予約枠100名に加え、予約なしで当日先着枠50名が入館できるようになっています。年間に延べ13万人以上の方が利用してくださっています。
〈山中〉
建物の構造も展示の仕方も素晴らしい。来る度に思うんですが、壁一面に本の表紙がずらっと並んでいて、それを眺めているだけで旅行しているような気分になる。子供だけではなく、大人も十分に楽しめる夢のような場所です。
〈安藤〉
読書というのは自分の世界を広げてくれる心の旅だと私も思います。ここには皆さんからの寄贈を含め、絵本や童話、児童文学、小説、図鑑、伝記、歴史、自然科学、芸術など多種多様なジャンルの本を約2万冊揃えています。

人間としての根を養うのが読書です。いまこそ国を挙げて読書習慣を取り戻さなければいけません
安藤忠雄
建築家
〈山中〉
気に入った本があれば手に取り、椅子に座って読むのもよし、大階段に腰かけて読むのもよし。貸し出しはできませんが、天気のよい日は中之島公園内であれば外で読んでもいいと。まさに本の天国みたいな自由な空間ですね。
〈安藤〉
ここは土佐堀川と堂島川に挟まれたところでしょう。大阪人にとっては大阪の中心で、目の前に中央公会堂がある。以前は車道が通っていたのですが、ここの開館に合わせて車両通行止めとなり、歩行者空間として整備されました。いまの季節は植樹した桜も綺麗に咲いていますし、緑豊かな場所でイベントもたくさんやっています。
〈山中〉
ここは以前から私のランニングコースなのでよく知っているのですが、図書館ができる前と後では驚くほど変わりました。
〈安藤〉
図書館をつくるに当たり、どなたかに名誉館長をお願いしようという話になって、もう山中先生以外にいないと。
〈山中〉
光栄です。私も子供の時から本が大好きなので、本当にありがたいですし、微力ながら今後も貢献していきたいと思っています。
〈山中〉
今年ちょうど開館5周年を迎えますが、そもそも安藤先生の着想の原点は何だったのですか?
〈安藤〉
一つは、本を読まない子供が増えている状況を何とかできないものかと。もう一つは……(続きは本誌をご覧ください)
本記事の内容 ~全8ページ(約10,000字)~
◇子供も大人も楽しめる本の天国のような空間
◇人間の心の成長にとって最高の栄養は本である
◇スマホの面白さとは違う本の中にある深奥な世界
◇日本が奇跡の発展を遂げた背景には読書文化があった
◇吉川英治『宮本武蔵』に学んだ〝覚悟〟
◇読書は自分の世界を広げてくれる心の旅
◇幼少期の読書体験で培われた忍耐力
◇どん底で出逢った2冊がターニングポイントに
◇いまこそ国を挙げて読書をしなければならない
プロフィール
安藤忠雄
あんどう・ただお――昭和16年大阪府生まれ。独学で建築を学び、44年安藤忠雄建築研究所を設立。54年「住吉の長屋」で日本建築学会賞、平成5年日本芸術院賞、7年プリツカー賞、15年文化功労者、17年国際建築家連合ゴールドメダル、22年文化勲章、25年フランス芸術文化勲章、27年イタリア共和国功労勲章、28年イサム・ノグチ賞など受賞多数。イェール、コロンビア、ハーバード各大学の客員教授を歴任。9年から東京大学教授。現在、名誉教授。令和2年自身が発案し設計を手掛けた「こども本の森 中之島」開館。以降、神戸・遠野(岩手県)・熊本に広がる。著書に『仕事をつくる――私の履歴書 改訂新版』(日本経済新聞出版社)など多数。現在、「安藤忠雄展|青春」をグラングリーン大阪にて7月21日まで開催中。
山中伸弥
やまなか・しんや――昭和37年大阪府生まれ。62年神戸大学医学部卒業後、整形外科医を経て研究の道へ。平成5年大阪市立大学大学院医学研究科修了。アメリカのグラッドストーン研究所に留学後、大阪市立大学医学部助手、奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター助教授及び教授、京都大学再生医科学研究所教授などを歴任。18年にマウスの皮膚細胞から、19年にヒトの皮膚細胞からそれぞれ世界で初めてiPS細胞の作製を発表。22年京都大学iPS細胞研究所所長。24年ノーベル生理学・医学賞受賞。令和2年(公財)京都大学iPS細胞研究財団理事長。4年京都大学iPS細胞研究所名誉所長。著書に『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(成田奈緒子氏との共著/講談社)など多数。
編集後記
表紙を飾っていただいたのは、言わずと知れた読書家である安藤忠雄さんと山中伸弥さんです。この対談は心地よい春の暖かい日差しと爽やかなそよ風に包まれた桜花爛漫の4月9日(水)、安藤さんが設計を手掛け大阪市に寄付し、山中さんが名誉館長を務める「こども本の森 中之島」にて行われました。「子供も大人も楽しめる本の天国のような空間」とお二人が口を揃えるように、たくさんの親子連れが館内で様々な本との出逢いに胸を躍らせており、日本の未来に希望の光を見る思いがします。

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