父・渡部昇一が遺したもの 早藤眞子(ピアニスト) 渡部玄一(チェリスト) 渡部基一(ヴァイオリニスト)

渡部昇一先生は生前、「もし子供が生涯幸運に恵まれることを願うなら、まずその子供を可愛がれ」と言われていたという。その言葉どおりに両親からの深い愛を受け、いずれも音楽の道へと進んだ長女の早藤眞子さん、長男の渡部玄一氏、二男の渡部基一氏。亡き父の思い出を交えながら、その教えを振り返っていただいた。そこから見えてくるのは父親としての素顔と、常に自己と厳しく対峙し続けた修養者としての一面である。

渡部昇一

わたなべ・しょういち――昭和5年山形県生まれ。30年上智大学大学院西洋文化研究科修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.,Dr.phil.h.c.平成13年から上智大学名誉教授。平成29年逝去。著書は専門書の他に『忘れてはならない日本の偉人たち』『渡部昇一 一日一言』『渡部昇一の少年日本史』『幸田露伴の語録に学ぶ自己修養法』『運命を高めて生きる―新渡戸稲造の名著「修養」に学ぶ』(いずれも致知出版社)など多数。

父にとって生きることはイコール仕事をすることだった、とさえ言ってもいいかもしれません

早藤眞子
ピアニスト

私が病床の父を見ていて驚いたのは、横になっている間にすべて、次の自分の仕事のシミュレーションをしていたことです。書庫の厖大な蔵書が、どの棚に置かれているか全部頭に入っていて、起きた瞬間に「こういう本がどこそこにあるからどこそこの机に揃えておいて」と私に言うんです。起きてから次に休むまで本当に一瞬も無駄にしないで、仕事をやり遂げようとしていました。父にとって生きることはイコール仕事をすることだった、とさえ言ってもいいかもしれません。

日課には人生を劇的に変える力があることを僕は父の教えから実感しているんです

渡部玄一
チェリスト

父は忙しい合間を縫って僕たちのために時間をつくってくれたわけですが、父に関していつも思うのは、この「日課」ということです。僕への英語教育もそうでしたけれども、一度始めたなら決して例外をつくらない。まだ英語をやる前は、ずっと縄跳びをやらされていました。雨が降った時も、真冬の零下の時も、パンツ一丁で毎日必ずやるんです。小学低学年の頃はよく風邪をひいて休む子だったんですけど、その鍛錬のおかげで風邪をひかない丈夫な体ができていきました。僕は自分の持っている能力がどの程度なのか全く分かりませんし、すごい人を見ると絶対に自分は超えられないなと思ってしまうわけですが、ただ、日課には人生を劇的に変える力があることを僕は父の教えから実感しているんです。

希望と感謝、さらに家族の絆。これらが父の人生を貫いた柱ではなかったか

渡部基一
ヴァイオリニスト

私の日記を捲ると2月4日、家内が「お父様、これからの人生、どうなさいますか」と聞いたんです。そうしたら「まだ仕事をしたい。ちょっと死ぬのは早すぎる」と言うんです。その日からは毎日2回、私と家内の二人がかりで寝室と食堂の往復を手伝うようになりました。3人の孫たちもよく一緒にいましたが、「あ、痛い、痛い」と凄まじい父の姿を見るわけです。驚いた表情の孫に向かって、父は「君たちのお父さん、お母さんが支えてくれているから、おじいちゃんはこうやって頑張れるんだよ」と。自分が激痛に耐えて頑張って生きている姿を孫たちに見せるという、まさに最高の教育をしてくれたんです。ですから、希望と感謝、さらに家族の絆。これらが父の人生を貫いた柱ではなかったかと私は息子の一人として感じています。

プロフィール

早藤眞子

はやふじ・まこ  桐朋学園大学卒業後、英国ロイヤル・カレッジ・オブ・ミュージックにてA.R.C.M(ピアノ及びチェンバロ)取得。夫のパリ勤務を機にバロックアンサンブルをN・シュピートに師事。2005年ジュネーヴ・コンセルヴァトワール・ポピュレール・ド・ムジーク・オルガン科を修了。2004年よりマンダモン・ローヌ教区オルガニストを務め現在に至る。2008年より2017年までジュネーブ日本語補習学校講師。

渡部玄一

わたなべ・げんいち  東京芸術大学附属高校を経て、桐朋学園大学卒業。同校研究科卒業。1993年米国ジュリアード音楽院卒業。インディアナ大学で研鑽を積み1995年帰国。以来、NHKテレビ出演をはじめ、ソリストとして、また室内楽、オーケストラ奏者として幅広く活躍。2003年より文化庁海外派遣員として1年間ドイツのミュンヘンにて研修。2008年(株)東京アンサンブルギルド設立。現在、読売日本交響楽団団員。

渡部基一

わたなべ・きいち  ヴァイオリンを江藤俊哉に師事。またイギリスにてユルゲン・ヘスに師事した。桐朋学園大学在学中、東京国際室内楽コンクール、第57回日本音楽コンクール入選。米国インディアナ州立大学大学院に留学し、ディプロマを取得。ハイフェッツの愛弟子ユーバル・ヤーロン、マウリシオ・フックスに師事。新日本フィルハーモニー交響楽団客員コンサートマスター、東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターなど歴任。現在、フェリス女学院大学講師、サイトウ・キネン・オーケストラのメンバー。


編集後記

「知の巨人」や「平成の碩学」と称された渡部昇一先生が亡くなって早1年。長女・早藤眞子さん、長男・渡部玄一さん、次男・渡部基一さんには、時に笑い、時に涙しながら、在りし日の父との思い出を語り合っていただきました。知られざる父親としての素顔と教育方針、闘病生活の軌跡などから、修養の大切さを教えられます。

2018年5月1日 発行/ 6 月号

特集 父と子

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