父が照らした光 森 迪彦(森 信三氏 ご子息) 平澤 裕 (平澤 興氏 ご子息) 西澤真美子(坂村真民氏 ご息女)

真に生きる力となる哲学を提唱し、教育活動に心血を注いだ国民教育の師父・森信三師。世界的な脳神経解剖学者として、研究の道一筋に生きた京都大学第16代総長・平澤興師。生涯に1万篇以上もの詩を創作し、多くの人の心に光を灯してきた仏教詩人・坂村真民師。「人間学の達人」と呼ぶに相応しい三師を父に持つ森迪彦氏、平澤裕氏、西澤真美子さんに、それぞれの父の歩いた道、心に残る父の言葉などを語り合っていただいた。

「人間というものは、どうも何処かで阻まれないと、その人の真の力量は出ないもののようです」
――森 信三

森 迪彦
森 信三氏 ご子息

私はいま76歳ですが、父が42歳の長男を亡くし、尼崎で独居自炊生活を始めたのがちょうど76歳なんです。そこから父は20年間生きていくわけで、しかも『全一学』5部作の執筆、『全集続篇』8巻の刊行に没頭し、その途中で脳血栓を患い、手が不自由になりながらも最高に燃え上がった20年を過ごしました。普通ならもう隠居しようかというところで、どこからそういうエネルギーが生まれるのかと考えてみますと、父が「人間というものは、どうも何処かで阻まれないと、その人の真の力量は出ないもののようです」と言っているように、やはり長男との死別によってどん底に落ち、堰き止められたことが大きな原動力になったのでしょう。

「私が私の一生で最も力を注いだのは、何としても自分との約束だけは守るということでした。みずからとの約束を守り、己を欺かなければ、人生は必ずなるようになると信じて疑いませぬ」――平澤 興

平澤 裕
平澤 興氏 ご子息

 私が父の言葉で心に残っているものをまず挙げると、『平澤興一日一言』(致知出版社)の5月15日の言葉です。
「私が私の一生で最も力を注いだのは、何としても自分との約束だけは守るということでした。みずからとの約束を守り、己を欺かなければ、人生は必ずなるようになると信じて疑いませぬ」
 たとえ自分でこうしようと決めたことを守らなかったとしても、他人には分かりません。咎められることもなければ、信頼を失うこともありません。しかし、他人が見ていなくても天は見ていますし、何より自分自身がそれを見ている。自分との約束を破る人は自分に負けている人であって、それでは成長は止まってしまうということでしょうね。

「狭くともいい/一すじであれ/どこまでも掘りさげてゆけ/いつも澄んで/天の一角を見つめろ」
――坂村真民

西澤真美子
坂村真民氏 ご息女

 生前の父を詳しく知る方がおっしゃっていたのですが、ちょうど私が生まれた頃、父は短歌から詩に転じ、詩で生きていくと決めたそうです。というのも、短歌はどちらかというと教養の高い方が嗜むもので、戦後の混沌とした世の中を生きる庶民に読んでもらいたい。そう思い、詩の世界に入ったといいます。私が一番好きなのは、6月1日の「六魚庵箴言」です。
「狭くともいい/一すじであれ/どこまでも掘りさげてゆけ/いつも澄んで/天の一角を見つめろ」
 これは父が詩に転向して最初に出した詩集の巻頭に載っている詩なんですね。父はずっとこの姿勢を貫いていました。だからこそ、この詩を読むととても胸がいっぱいになりますし、私も澄んだ瞳を持つ人でありたいなと常に思っています。

プロフィール

森 迪彦

もり・みちひこ――昭和16年満洲生まれ。20年引き揚げ。父・森信三は翌年帰国して、22年月刊誌『開顕』、31年『実践人』を発刊、家業として手伝う。42年大阪府立大学卒業後、大阪の会社に勤務。平成16年定年退職後、「実践人の家」事務局長、常務理事を務める。

平澤 裕

ひらさわ・ゆたか――昭和17年新潟県生まれ。4男5女の9人きょうだいの4男末子。4歳の時、父・平澤興の京都大学赴任に伴い、家族と共に京都へ移住する。40年同志社大学卒業後、東京の会社に勤務。アルパインツアーサービス取締役、京都国際文化専門学校理事を経て、現在に至る。

西澤真美子

にしざわ・まみこ――昭和24年愛媛県生まれ。坂村真民氏の末娘。大学入学と同時に親元を離れたが、「念ずれば花ひらく」詩碑建立や国内外の旅行などを真民氏と共にする。母親の病気を機に愛媛県砥部町に戻り、その後、病床の母を見守った。平成24年の坂村真民記念館設立にも尽力。


編集後記

森信三先生、平澤興先生、坂村真民先生。『致知』が人間学誌として40年の歴史を刻む上で、深い薫陶をいただき、精神的源流となった方々です。本号の巻頭鼎談はそのお三方を父に持つ森迪彦さん、平澤裕さん、西澤真美子さんにご登場いただきました。三人の先生方の歩いた道のりと遺した言葉に人間学の神髄を学びます。

2018年5月1日 発行/ 6 月号

特集 父と子

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