娘、母、そして父
トリプル介護の先に見えてきたもの
脇谷みどり(作家)

日本の高齢化が進むにつれ、介護に携わる人も急速に増えている。しかし、1人で3人もの介護に当たりつつ、社会的にも多岐にわたって活躍する人は稀だろう。究極の利他行ともいえるトリプル介護に携わってきた脇谷みどりさんに、その険しい道を経て見えてきたものについて伺った。

介護のあり方というのは、10人いたら10人違います。考えて、実践して、挫折して、また、学んでいく中で自分自身も打たれ強く、したたかで、とてつもなく豊かな心になっていく

脇谷みどり
作家

「かのこ1人でも大変なのに、両親の介護も重なりました。阪神・淡路大震災の翌年に父が大分の実家から電話をかけてきて、母が自分の髪の毛を切って燃やしていると。お風呂の水は出しっぱなし、鍋は火にかけっぱなしで、『死にたい、死にたい』と言って起きてこない。病院で診てもらったら、認知症と鬱を両方患っていたから、すぐに帰ってこいと父は言うわけですよ。
 けれども、最重度の障がいを持っているかのこを施設に預けたら、環境の変化によって一晩でストレスで胃に穴が開いて亡くなってしまうこともあるんですよ。ですから父には『帰れない』とハッキリ言いました。その代わり1週間まとめて、2人の食べるものをつくって冷凍して送りました。それから、笑うことが体にとてもいいという話を聞いていたので、毎日1枚、ハガキに『くすっ』と笑える話と絵を描いて送ることにしたんです」

プロフィール

脇谷みどり

わきたに・みどり――昭和28年大分県生まれ。障がいのある娘の誕生をきっかけに介護に奔走しながら、執筆活動を展開。平成8年には郷里の母が鬱病を発症。5,000通ものハガキを送り続け、その間に母の病気は完治。その後も娘と高齢になった両親のトリプル介護を余儀なくされながら、エッセーの連載やラジオパーソナリティを続け、多くの人に希望を送り続けている。著書に『希望のスイッチは、くすっ』『晴れときどき認知症』(ともに鳳書院)など。


編集後記

病気の両親や娘と向き合い、明るく介護を続ける作家・脇谷みどりさんの生き方に触れると、希望と勇気が湧いてきます。

2018年4月1日 発行/ 5 月号

特集 利他に生きる

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