5 月号ピックアップ記事 /私の座右銘
人間万事塞翁が馬 今泉賢治(ナイガイ社長執行役員)

各界を代表する企業、機関、団体を牽引してきたリーダーに、人生観・仕事観を形成した体験や、貫いてきた信条を披歴いただく連載「私の座右銘」。今回ご登場いただいたのは、2020年に創業100周年を迎えた日本の靴下業界のパイオニア・ナイガイの今泉賢治社長です。
ナイガイは、現在の森村グループ米国法人に在籍していた二人の若者が、日本の近代化に貢献する事業を興そうと意気投合して創業されました(当初は内外織物株式会社)。生え抜きの社員として、その100年以上に及ぶ経営のバトンを引き継いだ今泉社長は、いかにして創業の精神を引き継ぎ、発展させているのか? その一部始終を伺いました。

「人間万事塞翁が馬」――人生には自分でコントロールできることもあれば、どうしようもないことも起こる。大事なのは自分から投げ出さない、自ら諦めないこと
今泉賢治
ナイガイ社長執行役員
「日本の近代化に貢献する事業を興そう」
創業者二人のこの志の下、1920年(大正9)年、日本で初めて近代的設備を導入し、靴下業界を牽引してきたナイガイ。1987年、私が入社した動機は極めて単純でした。
私の生家は、優勝トロフィーやカップを製造する小さな町工場でした。うっすら家を継ぐ覚悟はしながら、就職活動で親友に薦められるままアパレル業界を受験。最も早く内定をくれたのが、東証一部上場、総合アパレル企業として存在感を放つ当社だったのです。
結婚を経て入社8年目、転機は不意に訪れました。次女がダウン症を伴って生まれたのです。いまは障がいのある子供への偏見は薄らぎましたが、当時は見た目の特徴的な我が子を見てあからさまに顔を顰(しか)める人もおり、親として悩みは尽きませんでした。
さらにその直後、父が心筋梗塞を起こし、寝たきりになってしまいました。腹を括り、両親に会社を継ぐ意思を伝えに行くと、母にきっぱりと止められました。「あなたがこの会社を継ぐ必要はない。生まれたばかりの大切な娘がいるんだから、守ってあげなさい」。専業主婦にも拘らず、母は私たちを慮り、自ら社長になることを決めていました。
よし、何があっても自分は、ここでやっていこう。覚悟が定まったのはこの日です。
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◇二重の苦悩を抱えて――骨を埋める覚悟
◇仕事は自分で面白くするもの
◇顧客が求めるものを真に供しているのか
プロフィール
今泉賢治
いまいずみ・けんじ――昭和39年東京都生まれ。62年早稲田大学卒業、ナイガイ入社。平成16年靴下事業部商品第一部長、以後執行役員、取締役を経て24年ナイガイ・イム社長。27年ナイガイ社長に就任、31年2月より現職。
編集後記
日本の百貨店に流通する靴下製品の約7割の製造を担っているというナイガイ。その歴史は古く、いまや一般的になったゴム糸入り靴下を1934年、「セルフィックス」として発売し、業界に革命をもたらしてこられました。まさに現在の日本の靴下メーカーの礎を築いた老舗です。取材に先立ち、本社に併設されている「靴下博物館」も見学させていただき、靴下には先人の知恵や工夫、技術の粋が結実していることを感じると共に、同社生え抜きの今泉社長が創業精神から外れることなく、新風を吹き込まれていることに感動しました。

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