【第8回】お客様から愛される地域一番店のつくり方——「永続する会社の条件② 変化を恐れない経営者に!」(佐藤勝人)

出店範囲を栃木県内に絞り込み「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るカメラ写真専門のサトーカメラ。同社副社長であり、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人と情報発信を含め、全国各地の商工会議所やあらゆる業種業態の企業や商店を支援する佐藤勝人さんが、毎月第一月曜日に「人材育成」「挑戦」「経営戦略・戦術」「しくじり」「復活」などをテーマに語ってきた本連載もいよいよ最終回です。今回も「永続する会社の条件」というテーマで、著者渾身のメッセージを読者にぶつけます。

【第1回】なぜサトーカメラは圧倒的シェアを誇るのか

【第2回】お客様はいつも正しい──スチュー・レオナルドの教え

【第3回】逆境もすべて経営の糧になる①

【第4回】逆境もすべて経営の糧になる②

【第5回】地域から世界で注目される販売店へ①

【第6回】地域から世界で注目される販売店へ②

【第7回】永続する会社の条件①

社内を改革する力がある人材を迎え入れたら「大義」を思い出そう

サトーカメラが現在4度目の社内改革中であることを前回お話ししました。それこそハード面もソフト面も総ざらい。今までのやり方を全部引っぺがして、止めるべきもの、続けるべきもの、変えた上で続けるべきものをそれぞれ決め、体制の再構築を進めています。

ハード面でもソフト面でも常にバージョンアップしていかなきゃならないんですよ。そのたびに資金がかかるけど仕様がない。思い返せばそこをマンパワーでカバーしていたけど、だから接客が素晴らしいと評判になったわけで、それはあくまで副産物で、やっぱり変えていくべきは変えていかなくちゃならない。

もちろん、システムが遅れるからマンパワーが磨かれるという見方もできます。どっちも正しいと思います。そして結論的には両方必要です。私は性格的に新しいもの好きだからついつい、DXとか自動化で実現できることとかを聞くと舞い上がりそうになるけど、「人間力の部分は一番重要だよ」ということは当のDX課長、つまり息子からキツ~クお灸を据えられました(笑)。

せっかくだから、息子に教えられた経験をもう一つ披露しましょう。

現在サトーカメラでは、DX課が中心になって行う社内システムの再構築の基幹部分を、宇都宮大学工学部のI Tスキルの高い学生たちと一緒にやっています。全員で10人くらい。みんな20歳そこそこです。

息子が元々システム系の会社にいたので、彼の監修で実際にプログラムを組んでもらっているのです。普通にシステム会社に発注したら年間数千万円はかかる作業ですが、学生たちは雇用としてはバイトなので、費用をかなり抑えられて助かっています。

でも、不思議だと思いませんか? 彼らぐらい優秀な人材なら、何もうちみたいな中小企業に来なくても大手のIT企業でインターンができます。そのほうが時給もいいはずです。そう思ったから私が聞くと、彼らは、「サトカメは基幹システムの仕事をさせてくれるから」と答えました。

要は、大手IT企業に行ったところで学生は周辺仕事しかやらせてもらえないらしいのです。もちろん例外はあるでしょうが、大半はそうだと。それに比べてサトーカメラは本物のシステムを触らせてくれる。組ませてくれる。だからやりがいがあるし、面白いそうです。就活で「こういう企業の基幹システムを構築した」と実績欄に書けますしね。

そしてある日のこと。DX課の社員を社内研修に参加させるよう私が息子に言ったところ、彼はその学生たちを送り込んできました。私は言いました。

「なんで社員を寄越さないんだよ。彼らは卒業までの2年しかうちにいないバイトじゃないか」

それに対する息子の答え。

「何言ってんの。2年もいるんだよ」

皆さんはこのやり取りを聞いてどう思われるでしょう。私は「2年しか」。息子は「2年も」。

息子の考えは「優秀な頭脳を2年も動員できる。もっと社内のことを知ってもらってどんどんやってもらおう」というもの。これは完全に息子のほうが正しいんです。私は自分の時代遅れを反省しました。

それ以来、私は彼らに足を向けて寝られません。業務が終わって帰る時にはそれこそ、居合わせたら靴箱から靴を出してあげたいくらいの勢いです(笑)。挨拶の仕方がなっていないとかスリッパを片づけないとか、そういう躾的な部分は気にしません。そんなのは本質的な要素ではないからです。

ここで皆さんに振り返ってもらいたいのは、社内を改革する力がある人材が入ってきた時、それが若い人なら特に、本質ではない部分で彼らにマウントを取るような出方をしてしまっていないか、ということです。

苦労して作り上げた体制を否定されそうでつい身構えてしまうお気持ちはわかります。でも、別に彼らは否定しに来たのではない。会社を良くしようとしているのです。誰の?皆さんの会社をですよ。だったら気持ちよく働いてもらえばいいじゃないですか。

「それは佐藤さん、理屈ではわかるよ。わかってるけど素直になれないから悩んでるんじゃないか」とおっしゃる方がいるかもしれません。そういう時は「大義=企業理念」を思い出してください。「大義」と向き合えば、若くて優秀だけどイマイチ礼儀がなってない、とか、上司に対する敬意が足りない、とかは思わなくなると思います。

もう一度言います。「大義」と向き合いましょう。自分のプライドとかはどうでもいい。それよりも、実現したい企業理念があるから頑張ってきたのです。頑張っているのです。そのことにもっと自信を持ってほしい。

事業戦略は必要に応じて変えるものです。社内体制も同じくです。でも、「大義」は変わらないはずです。このことを本気で信じた時に、永続企業への道が開けるのだと思います。

謙虚に柔軟に素直に。変化を恐れず“生涯一経営者”でいてください

息子に陣頭指揮をとらせて改革を進めて丸2年。最初と比べたら息子が格段に成長しました。今は彼が会議で話す内容を私と社長と取締役たちがメモっている有様です。

先日も、「こうしていくからこうなります。それまでにこの本を読んでおいてください。分からないことは聞きに来てください」と彼が私たちに指示している情景をふと客観的に自覚して、「ああ、これが永続企業になるということか」と思いました。ことわざにありますよね。「老いては子に従え」。あれは真理だと思いますね。

そして、経営者がそんなふうに柔軟に素直にいようと思ったら、社内に閉じこもっていたら駄目です。自分が一番偉い環境から出ないでいると、「うるせえ!」みたいなことをつい言いたくなっちゃうんですよ。私がそうならずに済んでいるのは、コンサルタント業で支援先に行くからだと思います。

お客さんの会社で部下の従業員の方に「うるせえ。言う通りしろ」とか言えませんよね。きちんと説明しますよね。相手の話もきちんと聞きますよね。それが癖になったのです。そこが良かった。

外部の人と向き合うと、自分の部下に対しては「この先は言わなくてもわかるだろう」という態度で指導していたかも…ということにも気付かされます。ただし、外部の人なら誰でもいいわけではありません。従業員の方と向き合ってみてください。経営者同士でつるんでも、「うちの従業員はほんと出来損ないで…」みたいな愚痴を言って慰め合って終わりですからね。

コンサルタントを始めてから何年目だったか、車検場を経営されている会社の支援に入ったことがありました。指導する相手はパートの女性たち。当初は冗談じゃないよ、と思いましたけど(笑)、彼女たちの話を聞いてみると、「うちの社長はお客さんのことが見えていない」と言うんですね。「お客さんはこういうところに困ってる」という話がポンポン出てくる。つまり、課題は現場にあった。末端の従業員が持っていた。

私は「アッ、やばい」と思いました。「うちもそうかも」と。だって考えてみたら、問題を上に上げる人は店長だから、自分の評価が下がるような報告は意識的にせよ無意識にせよつぶすのが人情だし、上に上がってきても大した問題ではない雰囲気に改ざんされているかもしれません。そうなると改革も何もやりようがない。非常にマズい状態です。

皆さんは他社の従業員さんを指導する機会はあまりないと思います。だから代案として、たまには、Google上のユーザーからの書き込みに自分が回答しましょう。真摯に現場(=外のお客様)と向き合わざるを得ない状況に自分を持って行くわけです。また社内においても、SNSで部下たちとも繋がって、現場の声が直接入ってくるようにしましょう。こうしておけば、自分でも知らないうちにいつのまにかお客さんの感覚から乖離してしまうという、ベテラン経営者が陥りやすい危険を回避しやすくなります。

『致知』を読んでおられるということは、皆さんは生涯現役の志を持っている人たちだろうと思います。皆さんは自社の企業理念に、自分が資本家になるために、とか、自分だけ裕福になって優雅なシニアライフを送るために、とか謳っていますか? いませんよね。

もし皆さんが自分の蓄財を目的に事業をされていたら、従業員はやってられないと思います。そうではなく「お客さんのため、地域のため、社会のために、何で貢献していくか」本気で探求しているから、会社の皆さんも「よっしゃ!」と思って働いてくれているのです。

資本家に収まることを一概に否定するつもりはありません。

でも、『致知』読者はそれが自分の“アガリ”だと思っている人は少ないと思います。生涯現役と言うならば、時代の変化と向き合い、若い人たちの声を聴き、そしてできれば、「あんなふうに人間力に溢れる先輩たちになりたい」と思わせる経営者でいてください。「この未曾有の時代を乗り越えるためにも、共に前へ進みましょう。」


◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

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