【第5回】お客様から愛される地域一番店のつくり方──「地域から世界で注目される販売店へ①」(佐藤勝人)

出店範囲を栃木県内に絞り込み「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るカメラ写真専門のサトーカメラ。同社副社長であり、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人と情報発信を含め、全国各地の商工会議所やあらゆる業種業態の企業や商店を支援する佐藤勝人さんが、毎月第一月曜日に「人材育成」「挑戦」「経営戦略・戦術」「しくじり」「復活」などをテーマに、若い世代にも響くヒントを語ります。

第5回はサトーカメラが中国で認められ海外進出をした2010年代を取り上げ、「顧客に対しても従業員に対しても、一人ひとりの“人間力”の部分を大事にする姿勢は普遍的なものだった」という著者の気付きを共有します。

【第1回】なぜサトーカメラは圧倒的シェアを誇るのか

【第2回】お客様はいつも正しい──スチュー・レオナルドの教え

【第3回】逆境もすべて経営の糧になる①

【第4回】逆境もすべて経営の糧になる②

標準化路線に満足できなかったから、対顧客でも対スタッフでも“人間力”にフォーカスした

今までの事業経営というものは一貫して「規模のビジネス」でした。

規模を大きくして仕入れロットを大きくし、仕入れ単価を下げ、現場のオペレーションは効率最優先でシステムを組んで、人を単なる労働力としてそこに当てはめ、右から左へ商品を流すこと。お客さんは安くて早いところを探すだけ。

そうやって、いわば“非人間的”な経営が進められてきました。大企業はそうやって利益を出してきたし、それを原資にして更に効率化と利便性を推し進め、各業界でトップになっていったわけだけど――。

ただ、私はよく言うんだけど、そのやり方しかないのか? 

県大会優勝のチームが県大会でのやり方を変えないままで日本一になることだってあるんじゃないの? 

実際にサトーカメラは、栃木県民のカメラ・レンズ購入額を全国平均の3倍に押し上げて今や日本一達成だ(総務省調べ)。それらが評価され、「サトカメ流」と呼ばれて中国を始めとするアジアのカメラ業界からの視察が枚挙にいとまがない。

システム化や標準化でサービスも品質基準も薄めて広める方法しか考えないのはなぜなのか、私は不思議に思う。だからサトーカメラは標準化のためにそれらを薄くしていく方法は取らなかった。標準化とは最低限のレベルであり、その最低限のレベルでは私たちのような衰退産業では市場が広がらないと感じたからだ。

標準化路線はそれはそれで立派です。けど、それは成長産業がやればいいこと。

――そう思って実践した具体例が、スタッフ一人ひとりの個性を活かす接客であり、個を尊重する人材教育でした。

最初はそれがうち独自のものとは自覚していませんでした。自覚したのは、連載の第1回でも話したように、『JBPress』の「喧嘩上等のカメラ店が“ど素人”に教わった商売の極意」という記事が2011年11月にネットでバズッてから。

東日本大震災の後で世の中が“絆”とか“人に寄り添う”といったテーマに惹かれていた影響もあったのでしょう、カメラ業界では海外駐在の方々も記事を見て、帰国の折にわざわざ宇都宮本店を訪ねて来てくださったわけです。

皆さんが口を揃えて言っていたのは、「なぜ、こんなことができるのか?」ということでした。彼らの周りには標準化と規模のビジネスしかなかったから、新鮮だったのでしょう。

私たちにとってはオープン当初からこれが当たり前で、地域の人や近所の人たちがお客さんだから一生付き合うわけで、そう考えると、あと何百回も来店してもらうわけだから当たり前のように寄り添って接しているだけだったんですけどね。

ただ、それはそれとして、もしかして今は時代そのものが私たちのような考えを求めているのかな、とも思いました。

リーマンショックを経験し、「失われた30年」が言われ、市場経済の行き過ぎと合理主義に疲れたタイミングでもう一度、“人間力”というものを見直す時かもしれないなと。そう感じたから私も、なぜ自分は人間を大事にする経営なり教育なりを続けてきたのかを整理して、方法論にしてみようと思ったのです。

なぜ方法論にするかというと、要するに、道徳の問題にしちゃ駄目なんですよ。一歩間違えると精神論で終わるから。

そうじゃなく、具体的にはどんな実践をしているか、どんな教育をしているかを棚卸しして論理化しないと。論理化するからそれを他にも応用できるように普遍的に捉えられるわけでね。

「問題解決業から課題解決提案業への転換」

キヤノン中国から現場指導のオファーをいただいたのはその論理化の作業を続けていた時でした。

何を頼まれたかというと、要はサトカメ流の普及です。

その頃の中国はもう、資本力に任せて店の造りとか販売員のオペレーションとかの「入れ物」はいくらでも作れるんだけど、肝心の“魂”が入っていなかった。経済がワーッと伸びて取引先がどんどん増えて業績がいい、いいんだけども、どう見ても単にモノが流れているだけで、それだと結局「早く、安く、流したもん勝ち」の世界になってしまい、将来を見据えたら写真文化が育たない、このままでは良くない。――当時のキヤノン中国上層部はそういう問題意識を持っていたんですね。

そこでサトカメ流に目を付けた。私が教えたことは一言でいえば、「問題解決業から課題解決提案業への転換」でした。

欲しい商品が自分でわかっているお客さんに対応するだけならネット通販で良いのです。何が欲しいのか、それで何がしたいのかがイメージできていないお客さんに対してヒアリングし、「それならこれとこれがいいですよ」と顧客に寄り添った提案をすることで店舗の存在価値が生まれる。この考えを現場に浸透させることがミッションでした。

課題解決提案はサトーカメラが栃木でずっとやってきたことです。

エリアを絞り込み、地域密着でお客さんの生活に寄り添えば、地元の小中高校を出た間柄で気心が知れているんだから、今日は何が欲しいのか、何をしたいのか、ちょっと話せばわかるんですよ。

今はDXでそれらの情報がデジタルになったけど、相手のことを理解して隠れたニーズに応えるという基本は変わらない。その基本を、入れ物と運用システムの力で業績が伸びている今のうちに、キヤノン中国としては上位200店の特約店に広めたかったんですね。

クビ寸前だった農業地帯出身の若い店長。彼の「働く理由」を聞いて改心させた

そんなわけで私が指導を始めて、今でも覚えているエピソードがあります。

上海にあった特約店の社長が店長のことを愚痴るわけですよ(笑)。「彼は何度叱責しても仕事をしない。勤務態度が悪い。業績も悪い。」と。それで私が彼と面談するわけです。もちろん通訳してもらいながらですよ。

「なぜ君は真面目に仕事に向き合わないの? 社長がね、もう少し業績を上げてくれないと困るって言ってるよ? 君は仕事中にスマホをいじったりして真面目に働かないし、お客さんへの態度も横柄だ。それじゃ駄目なんじゃないかい? そもそもだけど、君は何のために働いているの?」

そうしたら、びっくりしました。

彼は「家族のために働いている」と答えたんです。

まだ20代半ばですよ。仮にこれが日本なら、その年頃の子が働く理由なんて、「遊ぶお金が欲しいから」とか「買いたい物があるから」みたいな、要は「自分のため」の理由を答えるのが普通ですよ。

――でも彼は、「家族のため」と。

私は一瞬驚いたけど、すぐピンと来ました。

要は、彼は地方からの出稼ぎなんです。内陸の農業地帯の貧困層で、家族を支えるため都会に働きに来ている。郷里にはお父さんお母さんがいる。自分の子供と奥さんもいる。彼の稼ぎに一家の生活がかかっているわけです。

それを聞いて私も襟を正しました。理由を聞くまでは正直、態度が悪いし不貞腐れた風だし、私の考えは通用するかな?と半信半疑で個別面談に臨んでいたんです。

でも、「家族のため」と言われたらもう、心からグッと来ちゃって‥‥‥。

そこからは私も本気で彼に寄り添って指導しました。「そりゃ君、稼がなくちゃ! 稼ごうよ! 君の給料は完全歩合制だよね。売上粗利の何%って決まっているよね。だったら今日から1元でも安くしちゃ駄目だ。1元でも高く売らないと。1元でも高く売るためにどうしようか。君はどうしたらいいと思う?」と聞きました。

彼は「お客さんにお茶を出します」と答えました。でも、お客さんにお茶を出すのは店の既定サービスです。だから私は言いました。

「それは店で決まってることだよね。それは当然やってくれ。で、それだけで高く売れると思う?」

「たぶん売れない」と彼。

「じゃあどうしたらいい? どうすればお客さんは喜んで君から買うと思う?」

すると彼は少し考えて、「笑顔で接客する」と言ったんですよ。自分から!

自らそう言った日から、彼の売上が目に見えて伸びていきました。

よくよく聞いてみると、彼が不貞腐れた接客をしていたのは、中国は一足飛びにネット社会になったから「ネットだともっと安いぞ」とか言って買い叩かれるのが日常茶飯事で、値引きしないと売れなくて全然稼ぎにならないから、それで不貞腐れていたんだそうです。そのことに対しても私は言ってあげました。

「お客さんが値下げしろって言っても絶対下げちゃ駄目だ。カメラみたいな高価な品を買いに来るお客さんはみんな金持ちなんだ。君がちょっと値引いたくらいで何とも思わない。いっぽうで君は、家族の生活のために稼がなくちゃならない。だから高く売ろう。値引くよりも、高く売る努力をしよう。君が一生懸命に寄り添った対応が伝われば、お客さんは喜んで買ってくれるから」

私がそう教えると、彼は笑顔でお客さんに接するようになったのみならず、お客さんの話をよく聞くようになりました。彼の中でお客さんに寄り添うことが家族のために働くことと一致したのです。彼の仕事が問題解決業から課題解決提案業に変わった瞬間でした。

彼の変わりぶりを見て社長が私に言った言葉を覚えています。

「仕組みをどう変えるか! だけではないんですね」と。

私が彼に聞いたのは「何のために働いているのか」ということだけ。でも、これが結局は一番深いところで、彼の“人間力”の部分に寄り添うことになったんですね。

普通に考えれば、中国ほど巨大で人口も多い国ならば、システムを決めてそこに労働者を当てはめて使い捨てにして、規模のビジネスを展開するのが早いやり方です。経営者もそのほうが楽です。

――だけれども、それはやっぱり大手の論理であって、中国といえども現地を歩けば日本と同じで従業員100人以下の中小企業が圧倒的に多い。そこで働く人たちに頑張ってもらおうと思ったら、一人ひとりの“人間力”にフォーカスを当てるべきなんですよ。やっぱり。

こういう思考法はいかにも日本的だなぁ、と我ながら思います。

日本の場合は明治以降、仏教やキリスト教に儒教と何から何まで全部混ざった上に出来上がった思考だから、内向きな民族のように見えて、案外世界で通用するんです。私はこのことを、地方のカメラ店である「栃木のサトーカメラ」が世界でも通用した中国での経験から学びました。

→第6回に続く(2月初旬頃の配信予定です)


◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

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