【第2回】お客様から愛される地域一番店のつくり方 「お客様はいつも正しい──スチュー・レオナルドの教え」(佐藤勝人)

出店範囲を栃木県内に絞り込み「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るカメラ写真専門のサトーカメラ。同社副社長であり、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人と情報発信を含め、全国各地の商工会議所やあらゆる業種業態の企業や商店を支援する佐藤勝人さんが、毎月第一月曜日に「人材育成」「挑戦」「経営戦略・戦術」「しくじり」「復活」などをテーマに、若い世代にも響くヒントを語ります。

第2回は売上至上主義から理念経営へ舵を切ってからの悪戦苦闘、孤軍奮闘と、頑張り通す支えになった「スチュー・レオナルド」の教え、そして「地域に愛されるってこういうことだ!」と確信するまでをお話しいただきました。

第1回「なぜサトーカメラは圧倒的シェアを誇るのか」

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理念経営への転換を決定づけた「スチュー・レオナルド」との出合い

こんにちは。サトーカメラ副社長&日本販売促進研究所商業経営コンサルタントの佐藤勝人です。

前回は、「地域の人々の想い出をキレイに一生残すために」という企業理念を初めて現場のアソシエイトたちに披露したらドン引きされた、というところまでお話ししました。あれが確か2003年だったと思います。そう考えるともう20年近く経ったんだなぁ。

私の感慨はともかく――。さぁ、そこからが大変でした。つい先日まで売上がどうの、営業利益がどうの、と営業成績の話ばかりだった人が急に「地域の人たちの想い出」と言い始めても、信じてもらえるわけがありません。信じてもらうにはどうするか。トップ自らの言動と行動で示すしかありません。それも継続的に。

私が思うに、ここが中小企業経営者の鬼門ではないでしょうか。というのは、経営者というのは馬鹿ではないんですよ。みんな自分の事業についてそれなりに勉強しているし、一生懸命努力している。新手の趣向を取り入れる気持ちも持っている。実際、視察やセミナーで「これだ!」と思ったアイデアを会社に戻ってすぐ導入する社長さんたちを、私はコンサルタントとして何人も見てきました。

ただ、続かないんだよね。継続できない。帰ってきて目をランランとさせて「東京はこうだ!」とか「アメリカはこうだ!」と伝えても、ずっと地域・地元・現場で働いている社員には響かないから。彼らは「また言ってるよ。どうせ3ヶ月もしたら飽きるだろうに」としか思わない。

これは社長の状況的には結構ツラくて、本人がいくら本気でも、周りがしら~っとしていたらその本気もしぼんじゃうんですよ。社員の読み通り、3ヶ月で(苦笑)。

この壁を社長は、何とか自力で乗り越えるしかない。長く孤独な闘いですよ。サトーカメラの場合、企業理念の本質を固めるクレドをまず定めて、アメリカの「スチュー・レオナルド」に倣ったルールも独自に定めて現場に浸透させるまでに、3年以上はかかりました。

「スチュー・レオナルド」とは、ニューヨークにある地域密着型のスーパーマーケットです。品揃えが1店舗あたり3000アイテム程度なのに、しかもその1店舗は丘の上にあって立地的には不利にもかかわらず、地域のお客さんから圧倒的に支持されて、私が視察した当時すでに4店舗で年商400億円というスーパーマーケットでした。

行って一番感動したのは入口の御影石に刻んだそのルールです。

「スチュー・レオナルドの約束
ルール1 お客様はいつも正しい。
ルール2 お客様が間違っていると感じたらルール1に戻れ。」

最初見た時は半信半疑でした。「アメリカだからできるんでしょ?」という感じで。

でも、エピソードもいろいろ聞くうちに、これは本物だと感じてきて。アメリカへの憧れも手伝って、「うちもこういう会社にしたいなぁ」と思ったわけです。

例えばこういうエピソードがありました。――あるとき、試食コーナーで子供がチーズか何かを試食していて、誤って楊枝を口に刺してしまったそうです。それで親が、「子供が怪我をした。どうしてくれる!」とクレームをつけてきた。そこで「お客様はいつも正しい」スチュー・レオナルドはどうしたか。

試食コーナーはスーパーにとっての生命線です。それでも昔の日本ならば、そのお客さんのことをクレーマーだと言って本部は無視したでしょう。今ならばコンプライアンスの問題にして謝罪して、試食コーナーを撤去して終わりでしょう。

でも、スチューはそうしなかった。会議の結果、キチンと謝罪して問題の楊枝を代わりにプリッツにしました。それにより試食コーナーがアップデートされて、しかも続けることができたのです。

この違いは決定的です。傍目にはコーナーそのものを撤去した日本的対応のほうが事態を重く受け止めたように見えます。そのぶん真摯に思えます。

でも、真実はそうじゃない。お客さんが訴えた問題に本質的に対応したスチューのほうが絶対的に正しい。だって、お客さんが求めているのはそこじゃないから。硬くて鋭利な楊枝を使ったことが問題だったのだから。それなのに、コーナーをなくして、まるで全部なかったことにしちゃったら、お客さんから逃げているだけですよ。

私がその違いを、納得するまで5回6回と足を運んで頭から足の先まで全身で感じ取ることができたから、スチューに倣ってサトーカメラのルールを作るときに一言、「学び」の要素を加えました。サトーカメラのルールはこうです。

「ルール1 お客様はいつも正しい、お客様から学ぶこと。
ルール2 お客様が間違っていると感じたらルール1に戻れ。」

経営者自身が腹を括ってビジネスモデルの変革に挑戦し、3年間かけて理念とクレドとルールを浸透させた結果、昔は上司にペコペコしていた部下が、今では私が店舗に顔を出しても、接客中であれば絶対私のほうにペコペコと挨拶には来ません。「お客様が最優先。社長や役員の機嫌を取ることもない」という考えが浸透していったからです。

課題解決提案型で顧客に密着し、地域から愛される店になる

だから、理念経営を始める前は自分もつくづく間違っていたなぁ、と思うのは、「経営者を一番に頂くスタッフ」に育ててはいけないんですよね。スタッフがそうなってしまうと、経営者の指示を待って動くだけになります。問題が起きたら「どうしたらいいですか?」と聞いてきて指示通りに動くだけ。お客さんの訴えに対しても、自分基準で聞いて「正しいのは自分たち、おかしいのはお客さんのほう」と決めつけるだけ。本来はそうじゃなく、訴えの本質を聴き分けて率先して解決に向かわなきゃいけないのに。

今はサトーカメラは全社的にそれができるようにしてきました。経営幹部にいたっては、浸透を図り始めて3年目には、私に代わって現場の部下たちに率先垂範するようになっていました。後から聞くと、私が孤軍奮闘を続けて丸1年経った頃に、「あっ、この人本気かも」と感じ取ってくれたそうです。

その間、私は問題が上がってくるたびに、「お前は間違っている、俺の言うことを聞け!」ではなく「お客さんは何って言っているんだ?」と問い続けてきました。そしてお客さんに向き合わさせてきました。その結果の現在の変貌ぶりです。「ああ、部下というものは経営者の写し鏡だなぁ」と、つくづく思いますね。

写し鏡というのは結局お客さんに関しても同じで、「どう言いくるめるか」とか「どう納得させるか」という頭でお客さんと接していると、お客さんも段々そういうふうになってしまうんですよ。不思議ですねぇ。

私たちは言いくるめたりなんかしません。とことんお客さんに寄り添います。寄り添うことでお客さんの課題を一緒に探し、「これがしたいんじゃないですか? それならこうやれば出来ますよ」と、課題解決で商品やサービスを提案します。

これこそが、2011年に「JBpress」さんの記事で有名になった「サトーカメラの2時間接客」だったのです。

今のお客さんは「これが欲しい。これをしたい」の“これ”が分かっていれば、もうネットで買って済まします。わざわざ店舗に来てスタッフに聞くということは、ご自分でイメージはあるものの、それを実現するために何を買ってどう使えばいいかわからないということです。つまりお客さんは困っている。だったら力になってあげなくちゃ。それこそが“顧客密着”であり“地域密着”でしょ。

その関連で一つ、お客さんから実際に言われたことがあります。
サトーカメラはお正月も毎年元日から営業しています。東日本大震災の影響で落ち込んでいる地域の人たちを少しでも盛り上げたくて、2012年のお正月から始めました。プラス、三が日は幹部社員が獅子舞に扮して全店舗を回り、その店のお客さんたちをお祝いします。もちろん私も陣頭に立ちます。

それで、何年目の獅子舞だったかなぁ、行った先の店舗で、常連顧客のIさんというお医者さんが、「佐藤さん、今度こういうイベントやるといいよ、こういう情報もあるから調べたらいいよ」と、いろいろ教えてくれました。私は「ありがとうございます。でも、何でそんなにいつも気にかけて教えてくれるの?」と聞きました。そしたらIさんはこう答えたのです。「客の話を聞いてくれるのはサトカメだけだからね。他の店はただ売るだけで、こうしたいああしたいという客の話に付き合って一緒に考えてくれたりしないもん」。

Iさんは「サトカメは客が言ったことは必ずやってくれるから良いんだよ」とまで言ってくれました。もちろん全部はできないですよ。できる範囲のことだけですが、お客さんにとっては一生忘れないくらい嬉しいらしいです。

店の前で幹部が舞う獅子舞を眺めながら、それに拍手を送っている地域のお客さんの姿を見ながら、この言葉をいただけた瞬間の喜びは、忘れられません。「地域で愛されるってこういうことなんだなあ!」と、確信した瞬間でした。

第3回に続く


◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。 

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