【第3回】お客様から愛される地域一番店のつくり方——「逆境もすべて経営の糧になる①」(佐藤勝人)

出店範囲を栃木県内に絞り込み「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るカメラ写真専門のサトーカメラ。同社副社長であり、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人と情報発信を含め、全国各地の商工会議所やあらゆる業種業態の企業や商店を支援する佐藤勝人さんが、毎月第一月曜日に「人材育成」「挑戦」「経営戦略・戦術」「しくじり」「復活」などをテーマに、若い世代にも響くヒントを語ります。

第3回は、佐藤氏が逆境をいかに糧にして経営を進化させてきたかについてお話しいただきます。小売業では言わずもがな必須ツールとされるポイントカード(会員カード)を、サトーカメラはなぜ手放したのか。そこにはトップとしての英断と、スタッフ-顧客間の信頼関係がありました。

第1回「なぜサトーカメラは圧倒的シェアを誇るのか」

【第2回】「お客様はいつも正しい──スチュー・レオナルドの教え」

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リーマンショックでカード会社が事業撤退

何を隠そう、サトーカメラはポイントカードシステムにクレジットカード機能を付けて運用した日本で最初の会社です。ソニーが1990年代にシステムを開発し、当初はANAマイレージカードに導入する予定で動いていましたが、実際に運用した実験データがなかったのでセキュリティの問題で棚上げされていたらしく、当時の責任者がどうすれば良いのか悩んでいました。その話を聞いて、ならばぜひサトカメで実験してその運用データをA N A導入に活用したらどうですか? と提案しました。

それは、うちなら商圏が栃木県内で限られているので効果を検証しやすいことと、万一何かあっても影響の範囲が限定的だからということと、日本初の試みだったのでうちとしても面白いと思ったのが一番の理由です。その検証結果を見て、数年後にA N Aマイレージカードがスタートしたことは言うまでもないですが。また、後にそれがとんでもない負担になるとは、このときは全く思ってもいませんでしたけどね。(笑)

それから10年ぐらい運用して会員数も10万人を超えました。――そして2008年、リーマンショックが勃発。日本中が不景気に突き落とされました。特に金融関係は大パニックです。

そうしたら、なんと、ソニーがポイントカード事業から撤退すると言ってきた。そうなると、うちとしては10万人の顧客名簿が失くなるという恐怖。それはいくら何でも勘弁ということで代替えのクレジット会社を紹介してもらったけど、どこのクレジット会社も「今後の保証ができない」と言うのです。つまり、リーマンショック直後だから先行き不透明、ソニーですら事業撤退なのだから「何年続けられるか約束できない、自分たちも事業撤退になるかもしれない」という状況だったのです。

また、その時点でうちの発行済みポイントは3億円にまで達していました。ポイントは要するにお客さんから預かっているわけですから、ポイントカードを辞めるならば全額返金しなきゃいけません。未償却の負債がまるっと3億円残ります。あのときはマジで参った。

――でも、考え抜いて最後は、「よし!辞めよう」と決断しました。カードはレジと連動しているから辞めたら顧客情報を取れなくなって戦略的にも大打撃ですが、今後の保証もできないカード会社をとっかえひっかえしながら続けていくことは、お客さんを不安にさせ、かつ迷惑がかかるばかりだと判断し、ならばと、このタイミングでスパッと辞める決断をしました。

もちろんお客さんはそんなカード会社の事情なんて知りませんから、逆に「サトカメは大丈夫なのか?」「潰れるんじゃないの?」みたいな風評が立っちゃって。あれは参りました(笑)

ポイントはそれから3年間かけて全額返金しました。毎年1億円ものキャッシュが蒸発するわけだから大変です。この3年間は毎年ホント厳しかった。

ポイント会員カード撤廃で得た気付き

ただし、現場では収穫もありました。そもそもポイントカードを始めた目的は顧客情報を集めるためです。カードを受け取ってレジに通したらそのお客さんのお名前、ご住所、購買履歴が分かる。こういう商品を買う傾向があるからこういう商品を勧めたら買ってもらいやすい、ということも分かる。〝売る〟という一点で考えたシステムです。

でも、商店の存在意義ってそれだけじゃない。私がそのことに気付かされたのは、ポイントカードを辞めた後に店舗を見に行ったときでした。

顧客情報が分からなくなったスタッフがどうしたか。お客さんの顔を見るようになったんですね。今までは手元のレジデータを見ていたのが、視線が上がってお客さんの顔を見るようになった。そして、

「ごめんなさい、一昨日もいらっしゃったの覚えてるんですけど、お名前は何とおっしゃいましたか?」
「やだもう、浅倉よぉ」
「あー!そうでした浅倉さん!あれからカメラの具合いかがです? 困ったことありますか?」

というような会話を普通にしていたんです。

〝そうだったのか!〟と思いましたね。今までお客さんとのコミュニケーションを円滑にするつもりで顧客情報をデータ化していたけど、データと向き合うばっかりで目の前のお客さんと向き合うことを忘れていたな、と。そうじゃなくてコミュニケーションというものは、最後は手作りで構築するものだったのだな、と。

顧客情報が分からなければスタッフはお客さんに聞くしかありません。お客さんの状態やニーズはその都度変わるわけだし、自店で100%買物しているわけでもないし、冷静に考えたら、お客さんだってお店を使い分けしているわけだから、自店だけの顧客情報を持っていても仕方ないんですよね。だから情報をもらおうと思ったらお客さんに寄り添うしかない。時間をかけてコミュニケーションするしかない。そこで生まれたのが「2時間接客」であり、サトーカメラがビジネス各誌でも評価されている「顧客一体化経営」だったのです。

考えてみたら、全国を相手にするわけじゃなし、地域密着型の商店で顧客データを元に云々なんていう売り方は必要ないんです。顧客情報の管理は必須ですよ。でも、同じ地元の小中高校を卒業して生活環境も似たようなものなのに、データばかりこねくり回しても仕方ない。

これと同じ結論に科学的に行き着いて実践したのがアメリカのウォルマートです。サトーカメラが「顧客一体化経営」に目覚めたのと同じ頃、ウォルマートは「グリーダー」というスタッフを配置していました。店に行くと入口ロビーに地元の50代~70代の人が立っていて、「よう、マイケル。調子はどうだい?」とか、「昨日のエンジェルスの試合はすごかったね」とかお客さんに話しかけます。この人たちは顧客に話しかけるのが仕事なのです。今なら大谷翔平くんの話題で持ち切りでしょうね(笑)。

するとお客さんはどうなるか。例えば仕事で上手くいかず沈んだ気持ちのまま買い物に来た人がいたとします。帰宅中も車のハンドルを握りながらクヨクヨ悩んでばかり。駐車場に着いて車を停めて、入口まで歩く足取りも重いです。それがロビーに入り、グリーダーに話しかけられた瞬間に、

「そうそう! ショーヘイまたホームラン打ったよな。しかも10奪三振、すげえよな!」

という感じで、暗い気持ちが一瞬で消えるわけです。その後の買い物が楽しくなります。店内のお客さんに笑顔が増えます。店の雰囲気全体が明るくなります。結果的に売行きが伸びます。

――これが本来の商店におけるコミュニケーションです。『致知』がテーマにされている人間学の分野でもコミュニケーションは重要な要素だと思いますが、「人間力を鍛える」とか「人間を鍛える」ことを目指す際に、ハイテクに頼り過ぎるとかえって人間のレベルは下がります。サトーカメラはポイントカードを辞めたときの経験でこのことに気付いたから、会員カードは未だに復活させていません。

日本と日本人の良さは基本の精神が平等であること

ポイントカードを辞めたことによる収穫はもう一つありました。

ポイントで購買履歴がデータ化されるとついお客さんを階層化してしまいます。年間購入額が多い順にAクラス、Bクラス、Cクラス、みたいなことをやってしまうわけです。そして「VIP客を優遇して売ろう!」みたいなマーケティング論が出てきて幅を利かせます。

サトーカメラも、VIPかそれ以外かという分け方はしませんでしたが、便宜上お客さんを購入額の多い順にグループ分けして撮影講習会などを催していました。――でも、盛り上がらないんですよ、これだと。同じレベルのお客さん同士でマウント合戦になってしまって(笑)。

ポイントカードを辞めたらお客さんの階層分けができなくなりました。だから例えば撮影テーマ別で参加者を集めて会を催すと、極端な話、年間100万円使う人と年間10万円使う人が隣り合わせになります。

そうすると、年間10万円の人が100万円の人の高級カメラを「すげぇな~」と思いながら見るんですね。見られるほうは気分がいい。「次も参加しよう」となる。そのうちに年間購入額10万円のそのお客さんが影響されて30万円のカメラを買うようになりました。

それにまた、高価なカメラを持っている人というのは年長世代が多いです。だから若い人から「このカメラすごいですね。普段何撮るんですか?」とか聞かれると、嬉しいんですね。嬉しいから親切に、「僕は野鳥を撮るのが好きなんだ。野鳥の撮り方はコツがあってね。まずレンズが重要で…」みたいなふうに教えます。それを若い人がうなづいて聞いています。和気藹々とした雰囲気です。

それを見たときに、私は「これが日本なんだろうな~」と思いました。欧米はお金持ちとそうでない人たちで生活環境が全然違うから絶対に混じりません。一緒にしたら「匂いが嫌だから部屋を分けてくれ」ぐらいのことは平気で言います。でも日本は、基本の精神がやっぱり平等なのです。

これは日本人の長所だと私は思います。そのことに気付けたのもポイントカードを手放したのがきっかけでした。経営判断の是非と言うよりも、その時の苦境から何を学び、何を得るか? それが一番重要なのだと感じました。

→第4回に続く(12月初旬頃の配信を予定しています)


◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。 

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