【第4回】お客様から愛される地域一番店のつくり方——「逆境もすべて経営の糧になる②」(佐藤勝人)

出店範囲を栃木県内に絞り込み「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るカメラ写真専門のサトーカメラ。同社副社長であり、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人と情報発信を含め、全国各地の商工会議所やあらゆる業種業態の企業や商店を支援する佐藤勝人さんが、毎月第一月曜日に「人材育成」「挑戦」「経営戦略・戦術」「しくじり」「復活」などをテーマに、若い世代にも響くヒントを語ります。

第4回も前回に引き続き「逆境」がテーマ。そして今回のトピックは「3.11」こと東日本大震災です。三晩にわたる市内全域停電と、社内被害総額1億円という未曽有の大災害で、佐藤氏はどんな決断を現場に指示したのかに迫ります。

【第1回】なぜサトーカメラは圧倒的シェアを誇るのか

【第2回】お客様はいつも正しい──スチュー・レオナルドの教え

【第3回】逆境もすべて経営の糧になる①

東日本大震災当日、店を閉めず残れる従業員でひたすらライフラインを維持する電池を売った

ポイントカードを辞めてお客さんに3億円を全額返金すると決めた話を前回しましたが、返済がまだ終わらない2011年3月11日、栃木県を東日本大震災が襲いました。

わざわざ「栃木県を」と言うのは、自社がどこで商売しているのかを再確認したいことと、あのときは福島とか宮城とかの被害が余りにも甚大で栃木県の被害は言えなかった感があったからです。

それを根に持って今言っているのではなくて、「メディアに報道されない身近で誰が何に困っているかわからないものだよ」ということに想いを馳せてほしいから。これも「人間学」の一要素だと思うからです。――これができれば、大事なところで判断を間違わずにいられるのではないでしょうか。

3月11日の午後2時46分。そのとき私は県民ラジオの生放送中で、ベテランアナウンサーの人と一緒にCRT栃木放送が入居していた栃木会館にいました。

築40年を超える8階建てのビルです。宇都宮市は震度6強、ほぼ7です。あまりに揺れが大きくて、揺れが来た瞬間は一瞬、遊園地の乗り物に乗っているつもりになっていました。揺れに頭が付いていけなくて意識がトリップしたのです。それくらいすごかった。平衡感覚なんてありません。放送室の中の物が、重さに関係なく端から端までグワーッ、反対側にグワーッ。またグワーッ、グワーッ。

だけど、ベテランアナウンサーはそういうときもプロですね。キャーとかワーとか叫びそうになる声を喉でグッとこらえて、すぐマイクの電源を落として、聞いている人を不安にさせる音や声が電波に乗って県下全域に流れないようにして揺れが収まるのを待ちました。

そのうちに報道部のほうで「地震だ!震源は宮城県沖!栃木県震度6強!」という情報が入りました。私たちも再びマイクに電源を入れ、とにかく県内全域に第一報を届けました。

番組は急遽中止にして、私はサトカメの宇都宮本店に戻ることに。エレベーターはもちろん動きません。階段で下の駐車場に降りて車に乗り込んだけど、普段だったら20分で着く道路が大渋滞で3時間かかりました。信号は全部止まっているし、コンビニとかスーパーは中がすっからかんになっているし、歩道を走る車はあるしで無法状態です。

電話もメールも繋がらず、当時は社内連絡用にTwitterを利用していてTwitterだけは動いていたので、車の中から各店舗の店長たちとやり取りしました。

この状況で現場からは、「乾電池を買い求めにくるお客さんが見えていますけど…店は閉めますか? 他はみんな閉めています」という連絡がありました。そこで私が指示したのは「乾電池を売れ」ということでした。

カメラや写真はライフラインに関わる商品ではありません。その意味ではすぐ店を閉めて自分たちのことを優先してもいい。

――でも、ライフラインに関わる商品で唯一、乾電池があった。県内全域が停電しているわけです。みんな電気がなくて不安で困っているわけです。「だから店を開けよう! 片づけなんて後でいい。電池を売ろう! 地域のお客さんを助けよう!」

それで各店舗とも、店内の片付けは後回しで表にワゴンを出して、ありったけの電池を山盛りにして、レジが動かないから電卓を叩いて手売りで電池を売りました。宇都宮本店の場合、午後3時過ぎから電池を売り始めて行列が切れたのが夜8時過ぎでした。

「お客様から愛される一番店」の使命となすべき行動とは

ここまでで何を教えたいかというと、こういうときに「我が社は従業員の安全安心が第一です」「従業員満足を最優先します」みたいなことを言って店を閉めて従業員を帰らせるのが正しいとする今時の判断は、わからなくはないしそれが正しいとする見方もあるとは思うけど、違うんじゃないか? ということです。

逆にそのほうが経営者の責任放棄じゃないでしょうか。だって、家に帰らせても家のほうが危ないかもしれないんだから。だったら家の人の安否確認が取れた従業員は店に残って地域の人たちを助けるのが、「お客様から愛される地域一番店」でしょう。

家族と連絡がとれなくて安否がわからない従業員は帰しました。あと、女性社員も帰しました。それ以外の残れる男どもは全員残って電池を売りました。

やっと電話が繋がり始めてからは、本部の人間は九州や大阪の取引先に掛け合って電池をかき集めてもらって、とにかく送ってくれるよう要請しました。供給を切らさないためです。

そして二日目。社内の一部から、電池を値上げしたらどうか? という話が出てきました。

私は言いました。

「気持ちはよくわかる。普段の売上もないわけで。販売価格を2倍3倍にしても売れるのわかってる。ホームセンターもコンビニも店閉めちゃってどこにも売ってない。
でも、それだけは辞めてくれ。後から入荷する電池は仕入価格が上がって厳しいというならば、それは上げざるを得ないかもしれないけど、今ある在庫分は通常価格のまま売ってほしい。

買いに来る人は、普段お世話になってる地域のお客さんだぞ。あの人この人、顔浮かぶだろ。そういう人たちが困っているときにそういうことするな。後で絶対に「お前のところは、あのとき足元見やがって」って言われるだろう。そういう意地汚い売り方は辞めてくれ」

本音を言えば私も一瞬迷いました。でも、本来なら無料で配ってあげたいぐらいの状況でした。それが出来ない小さな会社の脆弱さを悔しいほど痛感しました。

お客さんは「助かった、ありがとう、ありがとう」と拝むみたいに買っていきます。その姿を見て値上げなんて考えること自体が、情けなくて情けなくて…

お互いにやるべきことを分かっている同士が本質的な対応に動ける

それから3日ぐらい経つと保険会社が動き始めました。地震保険の申請を処理するのにフイルム付きカメラ――つまり「写ルンです」ですね――が大量に必要ということでサトーカメラに問い合わせが来たのです。

その保険会社さんは最初、家電量販店に駆け込んだそうです。入居していたビルの上階に家電量販店が入っていたので直接行ったそうで。

そうしたら、この状況下なのでそれどころではないと断られたらしく、それで咄嗟にサトーカメラのことを思い出して連絡をくださった。

うちの現場は二つ返事で応じました。先方の注文は3000本。一度に用立てるのは無理です。でも、各店の在庫をかき集めれば1000本ぐらいはある。だから断らなかった。

「一度に全部は無理なので、まずは店にある1000本、すぐお送りします!」と請け合った。保険会社さんは拝むみたいにして喜んでくださいました。

このときの判断の本質は何かというと、向こうも困っているわけですよ。

処理が必要な件数は膨大にある。日に日に増える状況だ。いっぽうで、処理に必要なカメラがない。ないから頼みに来ているのに「無理」の一言で切って捨てることが、果たして責任ある経営と言えるのか。

先方は何も、すぐに全部欲しいと言っているんじゃない。「いついつまでに送ります」の一言が欲しいんですよ。そうすれば少なくとも動き始めることができるから。

保険会社は保険で人を救うのが仕事、カメラ店はカメラで救うのが仕事です。お互いにやるべきことがわかっていたら方法は後からいくらでも考えられるはずです。

だから私たちはすぐ動きました。震災被害のない地域に連絡を取りまくり、まとまった数が入荷するごとにすぐ保険会社さんに送って、1週間かけて3000本を送り切りました。

3000本といっても単価が安いから大した売上にはなりません。でも、ありがたかったのは、その保険会社さんは「あのとき本気で対応してくれたのはサトーカメラだけだった」ということで、撮影後の現像を全部うちに任せてくれたのです。

支店に配ったフイルム付きカメラをわざわざ集めてくれて。利益としてはそちらのほうが大きかったので助かりました。

写真絡みでは2019年の台風災害のときのことも思い出します。

10月13日午前2時。栃木市の永野川が洪水で氾濫しました。サトーカメラ栃木バイパス店も床上まで浸水し、近隣の田畑が流されたから泥がすごくて、栃木市全域が同じように甚大な被害を受けました。

このとき私が各店舗に伝えたのは「罹災証明のプリントは無料で対応すること」。

当然異論はありましたけど、直ぐみんなが賛同してくれ、地元の新聞社に協力してもらって16日にはプレスリリースも出しました。

後で聞いたら、「サトカメ罹災証明プリント無料」のニュースが流れてからは役場の被災者窓口も「サトカメに行ってください。無料で現像してくれますから」と市民の皆さんに教えていたそうです。

私自身は浸水当日は出張で岐阜にいて、やっと電車が動き出した13日に本部に帰ってきました。10時間もかかって帰ってきたから疲れていました。

でも、次の日からの仕事はキャンセルし、浸水した店に毎日通って、一週間くらい泥出しの手伝いを続けました。

それで、罹災証明のニュースが出てからかな…。店の前の道路で、通りがかりの栃木県警のパトカーが停まって、警官二人が車中から私を見ているんですよ。

「ヤバい、俺何かしたのか!?」と思っていたら、目が合った瞬間ニコッと敬礼してくれました。そのときは「ご協力ありがとう、共に頑張りましょう」という意味合いが感じ取れて嬉しかったです。

節電下の看板照明は地域にとって「希望の灯」だった

電池の通常価格販売もフイルム付きカメラも罹災証明無料プリントも、「利他の精神」と称して素晴らしい話にしようと思えばできます。

けど私は、大事なところで判断を間違わなかっただけだと思っています。大事なのは本質に基づいて判断すること。この点では節電要請への対応もそうでした。

地震の被害が落ち着いて、でも原発が止まって電力が足りないから節電要請が出ました。

そのときにほとんどの店が取った行動は、表の看板は電気を消して、店内は照明も暖房も普通に点けて営業するというものでした。3月はまだ寒いですからね。

対してサトーカメラは、看板の電気を点ける代わりに店内の照明は歯抜けにして、暖房をほどほどに抑えて営業しました。

看板の使用電力なんて高が知れています。実際に電力の使い方をシミュレーションしてデータ分析したら節電要請の基準値より下げることができました。

もちろん、そうと知らない一部の心無い方は「看板消せ!」と言ってきます。「何故みんな看板を消しているのにお前のところは点けるんだ!」と非難する声もありました。

それでも私は看板を点けさせました。地域の人たちの気持ちが暗くなっていたので街から明かりを消すべきではないと考えたからです。

“節電している感”で表面的なコンプライアンスだけ繕うのと、実際の使用電力を抑えつつ地域の店としての役割を果たすのと、どちらが正しいか。

私は今でも、災害時における商店経営の在り方を行動で示せたことに誇りを持っていますし、それを共に実践してくれたアソシエイトには感謝しかありません。

→第5回に続く(1月初旬頃の配信を予定しています)


◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

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