【宇津木妙子・宇津木麗華】日本女子ソフトボールを金メダルに導いた〝プロの条件〟

2000年のシドニー五輪で「宇津木ジャパン」を率い、見事銀メダルを獲得した元日本代表監督・宇津木妙子さん。その愛弟子であり、現在東京五輪女子ソフトボール日本代表監督を務める宇津木麗華さん。東京オリンピックでも見事、金メダルを獲得、その熱い戦いに日本中を熱狂の渦に包まれました。共に日本の女子ソフトボール界を牽引してきた師弟であるお二人は、かつて『致知』誌上で、厳しい練習や逆境を乗り越え、世界の強豪に打ち克つための〝プロの条件〟を語り合われていました。

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窮地を救うのは普段の練習

〈宇津木麗華(以下、麗華)〉
日本に来たばかりの頃、宇津木さんを見ていて「苦しい生き方だな」と思いました。選手に対して「早く寝ろ」とか「夜何時以降は外出禁止」とか「練習の後はストレッチを念入りにやれ」とか、プレー以外のことをたくさん要求する。

でも、自分自身にはもっと厳しいじゃないですか。朝練は休んだことがないし、トレーニングは欠かさない。いまだに毎朝五時から走っていますよね。体壊さないかな、死んじゃったりしないかなと心配で、もっと自分に優しくしてほしいと思っていました。

しかし最近、考えを変えました。こんなに執念を持っている人は、私たちが死んでも死なないんじゃないかな(笑)。

宇津木さんの自分に厳しい生き方を間近で見てきたから、自分も長く現役でいられるんだと思います。若い子に負けないために、自分に負けない。すごくいい勉強になっています。

〈宇津木妙子(以下、妙子)〉
ずっとそうやって努力してきたからね。

実業団に入った時、私は同じ高校から入団する子の付録だと言われて、試合どころか、練習についていくのもやっとでした。悔しくて悔しくて「いまに見ていろ!」と心で叫びながら、努力だけは人に負けちゃいけないと思って、朝の5時から一人でコツコツ自主練習を重ねてきました。

みんなが寝ていようが関係ない。選手になってもキャプテンになっても、それは欠かしたことはありませんでした。それがいまも習慣になっているんです。

体を動かしていると、選手のことがよく分かりますよ。きょうは暑くてしんどいなと感じれば、選手はもっとしんどいだろうと分かる。そのしんどいなかでどうやって頑張る力を持たせるか。指導者はそこが大事なんです。率先垂範とはそういうことだと思います。

「いい年してそこまでしなくても」とか、「別に監督が試合に出るわけじゃないのに」とか、よく言われますよ。でも人は関係ない。自分で決めたことだから。

〈麗華〉
そこに信念を感じるんです。宇津木さんはたとえ風邪をひいても絶対に辛そうな素振りを見せず、一度決めたことは絶対にやり通しています。

〈妙子〉
日立&ルネサス高崎の監督になって15年以上たつけれども、朝練を休んだことはありません。人間だから当然体調の悪い日もあれば、眠い日だってある。たかが朝練、監督が1日や2日休んだところでそれほど影響はないですよ。でも、たかが朝練でも自分で決めたことを守れない人間が、他の大切なことならキチンとできると言っても誰も信じてはくれません。

「きょうは休んで、明日からまた頑張ろう」という発想では勝ち続けることはできない。すべての結果は一日一日の積み重ねであり、その日その日をどれだけ懸命に生きたかにかかっていると私は思っているんです。

確かに、試合は選手がするものだけど、最終的には監督の采配ですよ。勝負が懸かった場面での決断は、すごく迷うし、本当に苦しい。弱気な自分と強気の自分の闘いです。その時監督が弱い自分に負けたり、諦めたりしたらゲームはそこで終わりです。

結局苦しい場面で拠り所になるのは、普段の練習なんだよね。練習は絶対に裏切らない。自分は苦しい練習を乗り越えた、ずっと努力し続けたという自信が、窮地を救ってくれるんだと思います。

人生は自分との闘い

〈麗華〉
代表監督になったばかりの頃、宇津木さんへの誹謗・中傷が出回っていました。随分いやがらせを受けたことも知っています。でも宇津木さんは負けなかった。その強さ、ソフトボールへの執念、勝利への執念には本当に頭が下がります。

私は中国にいた頃は、自分が打てなかったり点差が開くと、諦めてしまうこともありました。日本に来て、宇津木さんから怒られ、指導され、勝利に対して執念を持つようになったと思います。

私たちはきつい練習を乗り越え、怪我を抱えながら、生活のすべてを捧げてソフトボールをやっています。何のためかといえば、それは勝つためです。

勝った瞬間のわずか10秒。あのめまいとも似つかない10秒間のために戦っているといってもいい。それは勝った人しか分からない喜びであり、楽しさです。その楽しさを知り、勝つための執念を燃やし続けられる人が本物の「プロ」だと思います。

〈妙子〉
最近よく、「オリンピックを楽しみたい」とか「ゲームを楽しむ」という言葉を耳にするけど、ちょっと違うんじゃないかなと感じます。どうも逃げのニュアンスが含まれている気がする。本気で金メダルを目指し、勝ちにいくなら「楽しみ」より「苦しみ」のほうが断然大きいですよ。それでも勝ちたいから戦いに挑むのです。

〈麗華〉
勝った瞬間の10秒間以外はすべて苦しみかもしれませんね。

〈宇津木〉
代表監督に就任する時、「全責任を追うから全権を任せてほしい」と協会に言いました。それは裏返せば「責任を取る代わりに、口出しするな」ということになる。そう言った手前、必ず実績を出さなければいけないと自分に言い聞かせて頑張ってきた。

その重責、プレッシャーは言葉にできないほど苦しかったし、神経もだいぶすり減った気がします。でも、その苦しさに負けない人がプロじゃないかと私は思うんです。

苦しさに負けない。それは自分に負けないことだと思います。私のソフトボール人生を振り返れば、まさに自分との闘いでした。悔しい、負けないんだと執念を燃やしていたけど、負けたくない相手は自分でした。人じゃない。弱い自分、くじけそうになる自分に、もう一人の自分が「頑張れ、頑張れ」と言い続けてきた。

生きるって、最後は自分ですよ。夫もいるし、親もきょうだいも、友人もいる。みんな励ましてくれるし、勇気づけてくれるけど、私にはなれない。踏ん張って、最後に頑張るのは自分なんです。だから生きることは自分との闘いだと思っています。


(本記事は月刊『致知』2003年8月号 特集「プロの条件」より一部抜粋・編集したものです)


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◇宇津木妙子(うつぎ・たえこ)
昭和28年埼玉県生まれ。中学時代にソフトボールを始め、星野女子高卒業後、ユニチカ垂井ソフトボール部に入る。内野手として日本代表チームでも活躍。引退後、ジュニア日本代表コーチを経て、日立高崎監督就任。3部リーグに所属していた同チームをわずか3年で1部リーグに昇格させ、全日本選手権で5度、日本リーグで4度の優勝に導く。平成9年日本代表監督就任。12年シドニー五輪銀メダル獲得。現在はビックカメラ女子ソフトボール高崎シニアアドバイザーを務める。

◇宇津木麗華(うつぎ・れいか)
中国名・任彦麗(ニン・エンリ)。昭和38年中国北京生まれ。群馬女子短期大学を聴講生として卒業。中国代表チームで活躍、キャプテンを務める。18歳から宇津木妙子氏と交流を続けてきたことから、63年来日、日立高崎入団。平成6年日本に帰化、宇津木麗華に改名。8年、アトランタ五輪代表チーム入りするが、帰化問題から出場を取り消される。12年シドニー五輪では主砲として活躍し、銀メダル獲得に貢献。14年日本リーグでは日立高崎5年ぶり4度目の優勝に貢献。同年12月から監督を兼任する。23年、日本代表監督に就任。翌24年の世界選手権で42年ぶりの優勝をもたらす。

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