【第6回】お客様から愛される地域一番店のつくり方——「地域から世界で注目される販売店へ②」(佐藤勝人)

出店範囲を栃木県内に絞り込み「地域一番化戦略」で圧倒的シェアを誇るカメラ写真専門のサトーカメラ。同社副社長であり、商業経営コンサルタント、Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人と情報発信を含め、全国各地の商工会議所やあらゆる業種業態の企業や商店を支援する佐藤勝人さんが、毎月第一月曜日に「人材育成」「挑戦」「経営戦略・戦術」「しくじり」「復活」などをテーマに、若い世代にも響くヒントを語ります。

第6回は、サトーカメラが初めて中国に進出した時の経緯から、欧米的な「支配的」発想によらない海外進出について語ります。

【第1回】なぜサトーカメラは圧倒的シェアを誇るのか

【第2回】お客様はいつも正しい──スチュー・レオナルドの教え

【第3回】逆境もすべて経営の糧になる①

【第4回】逆境もすべて経営の糧になる②

【第5回】地域から世界で注目される販売店へ①

和菓子店の女将に教わった日本らしい海外進出の方法。「親日家の中国人と一緒にやる」

中国に写真文化を広めるため、キヤノン中国の依頼で現場指導に行った話を前回しました。

今回は、その1年前にサトーカメラが中国のカメラ業界の重鎮だった人と合弁会社を立ち上げて中国に進出した時のことを話しましょう。

そもそもの始まりは2010年。私の講演先で参加者に和菓子店の女将さんがいて、その時の立ち話がきっかけでした。

講演が終わって名刺交換をさせていただいた人たちの中にその女将さんがいて、日本では県内に2、3店舗出しておられて、でも中国には十数店あると言うんですね。私が感心して「すごいですね。やっぱり海外進出は夢ですよね」と言うと、女将さんはこんなことを言いました(成りきって再現してみます)。

「いえね、中国の店舗と言っても屋号を貸してるだけでね。資本とかは一切入ってないのよ。ただ、うちの地元の大学に留学してた中国人の学生さんがお店にアルバイトに来ていて、うちの和菓子を美味しい美味しいって言ってくれて、中国にも本物の和菓子を広めたいって言うの。だからうちで和菓子作りを教えてあげて、帰国して中国で和菓子店を始める時に屋号を使わせてあげたの。まぁ、業務提携みたいなものね。今も年に何回か技術指導に行っているわ」

それを聞いて私は、「なるほど、そういう方法もあるのか」と思いました。

「海外進出」というと我々はどうしても、現地でまだその商品が珍しくて業界が未成熟なうちに権利関係を独占するとか、要は植民地化政策みたいな「支配的」な発想でとらえがちですが、「文化啓蒙」という方法もあるな、と。

考えてみれば、日本人は人を管理するのが下手です。外国人を管理するのなんて特にそう(笑)。支配的な発想がもともと弱いから。

明治時代以来、欧米を真似てそれらしいことをやろうとはしてきましたが、そもそも合わない。私自身を振り返っても、欧米の大資本みたいに力とルールとペナルティで現地を支配して言うことを聞かせるみたいなやり方は好きじゃない。

だから尚更、その和菓子店の進出の仕方が「性格的にも合っているな」と思ったんですね。

そこでその女将さんに「業務提携を成功させるコツは何ですか?」と聞いてみました。

すると、「親日家の中国人を雇うことね」との答え。私は「これだ!」と思って、宇都宮に帰ってから「親日家の中国人知らない?」と、いろんな取引先に声をかけました。

するとカメラ用品貿易会社を営む中国人の社長さんに行き当たって、私の思いを伝えて誘ったのだけど、彼からは「自分の事業で手一杯だから」と断られました。その代わり、東京で親戚が働いているから紹介する、と約束してくれたのです。

それで会ったのが、今もサトーカメラで働いてくれている陳(ちん)君です。彼が初めて面接に来たのが2011年の夏。東日本大震災の直後でした。本部の商談室で私は彼を口説きました。

「中国にサトーカメラのやり方で写真を広めたい。データの静止画像で見るんじゃなく写真をプリントして楽しむ良さを、中国の人たちに知ってもらいたい。3年後には現地法人を設立するつもりだ。その時は君を社長にする。どうだ?一緒にやらないか!」

後で本人に聞くと、私が真剣なのがわかったから即やろうと思ったのだそうです。だって、普通に考えたらお互い博打ですからね(笑)。

こっちは彼のことを何も知らないし、彼からしても、私が提示した待遇は彼の希望よりだいぶ下でしたから。それでも「やります」と即決してくれたのは、人の気持ちを最後に動かすものは、人としての本気度なんですね。やっぱりね。

 

「財を遺すは下、事業を遺すは中、人を遺すは上なり」

陳君が東京の勤め先を退職してうちに来て3年経つ頃。冒頭で話した、当時中国カメラ業界の重鎮だった人が合弁会社の話を持ちかけてきました。

ちょうど陳君と約束したタイミングだったのは別に狙ったわけじゃない、たまたまです。

彼は他社に話を持ちかけたところ断られたそうで、業界紙に相談したところ、サトーカメラの活動のことを教えられて、それでうちに来たということでした。

そして2014年の5月に合弁会社を設立し、その年の10月には業務提携1号店が蘇州にオープンしました。陳君がスーパーバイザーで、あと一人、私の息子の勇士も行かせました。

彼は大学を出てから都内の大手IT企業に就職し新卒1年目で年収600万円くらい貰っていましたが、「自分がいなくても回る仕事よりも、自分で回すほうが面白そう」という理由で年収200万円の未知の合弁会社に入社してくれました。

それからは私も最低2ヶ月に一度のペースで中国に通いました。そうしたら、何回目だったかな、店に入ると、商品の陳列が全然なってないわけですよ。ぐちゃぐちゃなんです。

私は陳君を呼んで、ちゃんときれいに並べるように指示しました。――そして翌月。1ヶ月経ったのにまだそのまま。全然直ってない。

私は今度は陳君を叱りました。そうしたら彼は怒り心頭、真っ赤な顔で私に訴えてきた。

「私はスタッフに何回も教えた! 5回も10回も! でも、みんなやらない!」

それに対する私の答えはこうです。

「うん、それで? それってお客さんに関係ある? ないよね。誰がやらないとかどうでもいいの。事実は1ヶ月以上も陳列が乱れたままこうなってることが問題なの。わかるかい?」

そう陳君を諭してから、私が自ら上着を脱いで直し始めると、現場スタッフが慌てて駆け寄ってきて一緒に直し始めました。

私は一通り作業が終わってから陳君に言ってあげました。

「ほらね。なんで誰もやらないんだ、ってイライラして指図するだけじゃ誰も動かないんだよ。彼らだってキミに意地悪して働かないんじゃないんだよ。直さなきゃな…と思っていても、お客さんに対応しているうちに忘れちゃうんだ。そういう時は気付いた人がやるしかないんだよ。そんなもんなんだよ」

陳君はやっと納得したみたいでした。

上が率先して動かないと下の人間も動かないのは日本も中国も一緒です。どこの国に行っても部下は上司の行いを真似るものです。

ただ、この考えも実はやっぱり日本人ならではで、もしこれが欧米人の社長なら、業務内容はあらかじめ雇用契約で決めるからその通り働かない人は減給するだけです。日本人はこれができない。

なぜできないかというと、これも前回話した通りで日本人は仏教からキリスト教から儒教から何から全部混ざった考え方だから、そうすると根本的に、人を差別するということがないのですよ。差別しないから支配もしない。むしろ寄り添う。

「なぜやってくれないんだろう」と相手の事情に寄り添って解決を図る発想は日本特有だと思います。

そしてこの発想は案外、世界のどの国でも通用します。私の理解では『致知』の人間学も同じ発想に根差しているのではないでしょうか。支配では人は育たない。そうじゃなく、寄り添う。寄り添って“人間力”を育てる。

『JBPress』でサトカメ流が話題になった当時、雑誌の対談に来てくれたコピーライターの糸井重里さんが、「勝人さんは、市場という農地を耕している」と言ってくれました。ブータンに農業技術者として派遣されて、現地では神様のように尊敬されている人がいるんですよ。その人たちと同じだね、という意味だったんでしょう。

農作物を買わせるんじゃなく、農作物の作り方を教える。作物を作れる人をその地に育てる。――確か、故・野村克也監督が生前に言ってた後藤新平の名言「財を遺すは下、事業を遺すは中、人を遺すは上なり」。私はそれを実践していきたいと思います。

→第7回に続く(3月初旬頃の配信予定です)


◇佐藤勝人(さとう・かつひと)
サトーカメラ代表取締役副社長。日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント。想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント。作新学院大学客員教授。宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師。商業経営者育成「勝人塾」塾長。(公式サイト)
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に『地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法』(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。

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